チームワーク力
~多様な人とともに目標に向けて協力する力

私たちがお手伝いしている組織の変革は、会社を良くしたいと本気で思っている人たちのネットワークをベースにして仕事のやり方を変えていく、というアプローチを基本にしています。そこで変革のコアメンバーに求められる能力は、実は社会人基礎力として求められているものとかなり符合しているのです。
ここでは、社会人基礎力の中の「チームワーク力~多様な人とともに目標に向けて協力する力」に焦点をあてて、それを実践で身につけていった例を見ていきましょう。

Aさんは代理店を通じて自社商品を販売している営業マンです。この会社は長らく、販売代理店を指導・教育する、あるいはノルマというプレッシャーをかけることによって売上を伸ばすことを営業活動の基本においてやってきました。そんなビジネスモデルに心のどこかで限界を感じていたAさんは、会社が始めた変革活動をきっかけに、
「代理店とともにお客様の満足を考える仕事のやり方に変えないと会社は良くならない」と考え始めます。そして、職場の同僚に、
「本当のお客様本位の仕事のしかたに変えていこう」と呼びかけるのですが、みんなの反応といえば冷めたものでした。
これまでAさんは押しの強さを武器に営業成績をあげてきました。周囲の目には、Aさんの提案がしょせん自分の出世のためにやっているとしか映っていなかったのです。熱心な呼びかけも、むしろ押しの強い「説得」に見えるばかりで逆効果でした。

この働きかけではうまくいかないと思いつつ、「説得」のやり方を変えるぐらいしか方法を思いつかないAさんでしたが、しばらくして、職場のメンバーがそれぞれ自分なりに考えた「お客様本位の活動」をやっている部分があることに気づきます。そこから、同僚に話を聞いてみようというスタンスに切り替わっていきました。
関心をもって話を聞くことで、さまざまな人の立場なりの考え方や見方にふれていきます。そのやりとりを通じて、しだいにAさんは、相手の考えを取り入れながら、一緒に新しい仕事のやり方を考えることができるようになっていたのです。

この働きかけが一段落したとき、Aさんはかなりの聞き上手になっていました。人の「言葉にならない言葉」まで敏感に受けとめるようになっていたのです。
自分から人に働きかけてみることで、相手の立場や身になって話を聞くこと、異なる立場や意見を認めて一緒に考えることが同じ目標に向かうための出発点だと、Aさんは実感したのだと思います。自分の価値観や考えに合わない場合も白紙の状態で理解しようと、かなり意識的に努力をした結果でもありました。そうすることによって、多様な人たちと目的を共有し、同じ目標に向けて協力していく力を身につけたのです。

能力は実践・訓練しないと身につかない

本当に大切な力を身につけるためには、まず自分のやろうと思うことに本気で取り組んでみること、そして、困難にぶつかりながらもやり続けることが大事なのだと、多くのコアメンバーの姿を見て感じます。

実践は最高の訓練の機会です。最近の現場では、目先の結果を出すための小手先のテクニックに走っている傾向も見てとれますが、実践を通じた試行錯誤を伴う「訓練」を大事にしないと、人は育ちません。どのように日常業務の中に「訓練」の要素を入れていくか、それは、これから企業が意識していないとますます見失われていく大切なことのように思います。
「能力は実践・訓練しないと身につかない」、そんな当たり前の感覚を忘れないようにしないといけないと感じています。