経営者の孤独

かつて私は小さな事業会社の取締役副社長をしていました。同い年のF社長とともに創業し、お店を一つ二つと増やし、8年かけて16店舗を展開する会社に育てました。Fと私は、苦楽をともにし、互いの性格まで知りぬいた「戦友」でした。そんなFが、あるとき、会社が苦しんでいる局面で、こんなことを言いました。

「今日は、これから△△社の○○社長と会って、飲んでくるね」
私は少し意外な思いがしました。なぜ、そんな必要が?
F社長はかさねて説明してくれました。
「ぼくは若山さんのことを心から信頼している。若山さんに言えない本音はない。でもね、それでも、ぼくはやっぱり孤独を感じるときがある。だから、どうしても○○社長と話がしたいんだ」

スコラ・コンサルトに入社し、「経営者発」の風土改革を支援しているのは、 本当に経営者の役に立つ仕事がしたいと思ったからです。たんに業績を向上させるだけではなく、トップがトップを務める意味を見いだせる支援がしたい、トップにとって、トップを務めることが本当に幸せだと言える境地をつくる支援がしたいと思ったのです。

「経営者オフサイトミーティング」は、“経営者のための気楽でまじめな話し合いの場”です。会社を良くしたい、もっと社員にいきいきと働いてもらいたい、社員の知恵と自分の知恵を掛け合わせて新しい価値を創造したいと思う経営者の皆さんが、ざっくばらんに日ごろの悩みから、事業や会社像について語り合うことを目的としています。2008年4月からスタートし、予想を上回る20名もの参加者が集まりました。

ここに集まってくださった方々は、この目的に共感してくださり、「会社を良くしたい、もっと社員にいきいきと働いてもらいたい」と、日々思いながら汗を流して経営している皆さんです。この皆さんの思いは、私たちスコラ・コンサルトのもつ会社観、仕事観とつながっているのだと思います。だからこそ場に安心感があり、自分の弱みも気楽に話すことができる。そして、自然にいい仲間になっていけるのではないかと感じています。

このとき、東京・五反田にあるスコラ・コンサルトのミーティングルームで、ぐるりと輪になって並んだ20名の経営者の方々を見ながら、私はともに汗水流したF社長のことを思い出していたのでした。

「経営者にこそ、オフサイトミーティングが必要なんだ。会社を離れ、安心して、同じトップどうしで語り合う場が必要なんだな」

迫力ある“気楽でまじめな”議論

「強権的なトップダウンだった先代社長のあとを継ぎ、今ボトムアップを引き出そうとしているが、実にしんどい」

「現場社員や若手はわかってくれるが、本当に手ごわいのは自分よりも年上の役員層」

「社員に仕事を任せたとき、どこまで口出ししていいのか? 口を出すのは早いほうがいいのか? それともじっと待ってからなのか」

議論は、最初から白熱しました。もちろん、オフサイト特有の気楽な雰囲気のなかで、数々の冗談も飛び交います。日ごろ、社員には話したことのないプライベートな話題も出たりします。しかし、初対面の方々が多いにもかかわらず、トップどうしはどこかで通じ合うものがあるのでしょう。そして、真剣に会社経営を行なう中で出会ったさまざまな苦労話には説得力があります。

「グループ会社ですから、短期的な業績が悪ければ、任期前の解任もあります。自分自身が親会社時代に役員人事を担当していましたからね。でも、今の会社が自分の任期後も長期的な発展をしてほしいと思うなら、手間暇がかかっても、絶対に風土改革が必要だと腹をくくってやっています」

「社員は社長の鏡。こちらが信頼することでしか、社員の信頼は得られない。私は今、社員と行動をともにしています。彼らには、いずれうちの会社の経営者になってもらうつもりです」

「給料袋には、いつも一筆添えた社内報を入れている。社員だけでなく、家族が読んでくれているところもある。社員の両親にも安心してもらえる会社にしていきたい」

新しいマネジメント・スタイルの模索

忙しい経営者の方々がこれだけ集まってくださっているので、この場をどう感じてくださったのかは気になるところです。

「いろんな方の悩みを聞いて、自分だけじゃないんだ、と思えるだけでも、十分な価値があるね」

「自分がこれからぶつかるであろう壁を経験した方々の話を聞けるのは、実に貴重」

「自分で消化済みの課題はぜひお話ししていきたいし、未消化の課題についてはアドバイスが聞けるのでとても助かる」

「うちでも、オフサイトミーティングをやっているんだけど、やっぱり社長というのは特別扱いされてしまい、本当のオフサイトを自分で体験したことがなかったように思う。ここでは、特別扱いされないので、はじめてフラットな立場でオフサイトを経験できた」

「社員に『オフサイトをやれ』と言っている自分がオフサイトを知らないのではまずいと前から思っていました」

この経営者オフサイトミーティングは、参加者の皆様と相談しながらつくっていく場です。また、参加される経営者の皆様の個性や背景、経験によっても、様々な方向性があるでしょう。経営者の方々がこの場を通して、どんなことを得るのか、どんなことに気づくのかは、一緒に考え、発展させていくオフサイトミーティングの流れによります。
しかし、ひとつ私たちプロセスデザイナーが意図していることがあるとすれば、それは、この場における「話し合いのしかた」そのものの体験学習と言えます。

社員の知恵を引き出し、自分の知恵と掛け合わせて、新しい価値を創造したい方々の集まり、と冒頭にも書きましたが、「社員の知恵×社長の知恵」というのは、言ってみればこれからの時代に必要な新しいマネジメント・スタイルです。対話と共感で、社員を生かし、会社のパワーにしていく次世代のマネジメント・スタイルです。そんなマネジメント・スタイルを、会社のことや社員のことを深く考える議論、トップどうしだからこそ通じ合う本音の議論を通じて、多くの経営者の方々とともに見つけていきたいと思っています。

「経営者オフサイトミーティング」とは

経営者の集まりは様々ありますが、スコラ・コンサルトの「経営者オフサイトミーティング」は、ビジネスパートナーを探す経営者クラブのような場とは、少し趣が異なります。
「経営者オフサイトミーティング」は、下記のような枕詞をつけて皆様にご紹介しています。

「“社長”の肩書きをはずして、『経営』について“ざっくばらん”に話し合う」

“ざっくばらん”には、経営者が会社を離れ、肩書きをはずして、互いに人と成りを知り合いながら、等身大で安心して言いたいことを言えて聞ける雰囲気と、日々経営の現場で起きている事実をベースに本音をぶつけ合う本質的な議論の意味を込めています。

教えられる場でもなく、自己啓発の場でもありません。
経営者同士だからこそ、通じ合える、話し合える、相談し合える。
そこから自社課題のヒントをつかむ、他者のマネジメントスタイルを知り、そこから自らのマネジメントスタイルを確認する。
経営者の皆様に、この場をそんなふうに使ってほしいと考えています。だから、議論テーマは設定していないのです。

このような議論ができるのは、スコラ式オフサイトミーティングだからこそ。プロセスデザイナーは、皆様により多くの学びを持ち帰っていただくお手伝いをします。

このコラムに書いたような想いをもったプロセスデザイナーと、同じ志をもつ経営者の仲間が、また新たに“ざっくばらん”な議論をできることを楽しみに、皆様の参加をお待ちしています。