マネジメントを変えるためには

職場がもっと元気になるようにマネジメントを変えようとしている部門での話です。部長ミーティングでこんな会話がありました。
「このごろ部下を叱れなくなってきたような気がする。俺の叱り方が部下を委縮させていると言われてから、いろいろ考えてしまって、叱ることを躊躇してしまうんだよな」
「俺は、部下からこのごろ部長が何を考えているのかわからなくなりました、なんて言われたよ。部下に考えてほしいから、自分の意見は言わないようにしているんだけど、なかなかうまく伝わらないんだよね」

一方、現場ではこんな声が聞こえてきました。
「このごろの部長は叱るのを我慢していますね。なんだか妙にやさしくなって自然さがないというか…」
「まぁ、怖さがなくなって多少職場は明るくなったとは思いますが」

上司は自分の「マネジメントを変えること」に必死で努力をしている。でも、その思いは部下に届いていないようです。この状態で本当に部下がいきいきと仕事ができるようになるのでしょうか。

こんなケースがありました。
ある製造卸売メーカーの話です。自社工場で製造した製品の一部に不良品が見つかって、休日の会社に連絡が入りました。担当者のAさんはすぐに携帯電話で上司の部長に状況を報告し、ただちに納品先に向かいました。トラブルの状況はつぶさに報告したので事の大きさは伝わったはず。きっと部長が人の手配をして、職場の仲間が応援に来てくれると思っていました。
ところが部長は、電話で連絡を受けたものの、休日だったことから部下に気を遣って呼び出すことはしていませんでした。結局、部長が1日遅れてたった一人で来た時には、もう対応作業は山場を過ぎていました。それに対して、納品先のスタッフは総出で検品作業を支援していたのです。
「正直情けなかった。たった一人、肩身の狭い思いで時間と戦っていた時に上司は助けてくれなかった。なにより結果的にお客さまに迷惑をかけ、信用も失ってしまったことが悲しい」

この上司は、日ごろは部下のことを気にかけて「大丈夫か?」「何か困ってないか?」など声をかけてくれる人でした。しかし、本当に部下が困った時に助けになってくれなければ、結局その言葉は形だけとしか思えない。Aさんは、「それ以来、上司を信じることができなくなりました」とも言っていました。

メンバーに元気がない、疲弊感が漂っているなどの問題を抱えている職場の場合、部下がやりがいを持てるようにするために「マネジメントを変えなければ」と、上司はごく普通に考えます。そんなとき、早く職場の雰囲気を良くしようと思うあまり、自分の厳しい態度を緩和し、表面的に声をかけるなどのコミュニケーションで対処してしまうことはないでしょうか。そこに部下は違和感を持つのかもしれません。

マネジメントを変えるためにはどうすればいいか、悩める上司はたくさんいます。でも、結果を出すためではなく、人のやりがいを高めるためにマネジメントを変えようという場合は、「相手のあることだから」単純にはいかない、難しいのが当たり前。そこを出発点にして、やり方を考えることが大事なのだと思います。

一緒に考える場を意識的につくる

冒頭のケースでは、マネジメントを変えたものの、やはりうまくいっていないと感じた部長は、部下だけのオフサイトミーティングを実施して本音を聞いてほしいと依頼してこられました。よっぽど不満がたまっていたのか、最初はどのメンバーも上司の態度や仕事の忙しさに対する不満を吐き出すだけでした。
数回目のオフサイトミーティングが始まってすぐ、メンバーがこんな発言をしました。
「愚痴や不満を発散したらすっきりするかと思いましたが、なんだか逆に気分が落ち込んでしまいました。上司がいない場で不満や愚痴を言い続けても意味がない。結局、上司と一緒に話をしないかぎり、自分たちだけでは解決できない問題なんですよね。次回は上司に入ってもらってとことん話をしてみたい」

部長とメンバーのオフサイトミーティングでは、最初の段階こそ重苦しい雰囲気に包まれたものの、少しずつお互いの思いが伝わり始め、気を遣いすぎて本音が言えなかったことや、些細な出来事から生まれた誤解も解けるなど、少しずつ距離が縮まって一体感が生まれ始めてきました。
今では部長自らが打合せの一部を自由な議論の場にするなど、お互いの意見を出し合い「一緒に考える場」を意識的につくっているそうです。

部長が笑いながらおっしゃっていました。
「自分一人で解決しようと思っていたけど、結局は無理でした。今ではチームで解決していくことが当たり前になって、僕も自然体で叱り飛ばしています」

「部下はどうすればやりがいを感じるのか」「部下はなぜやりがいを感じられないのか」と問いを深めていくと、「相手のあること」だから、自分ひとりで考えていてもわからないもの。相手の話を聞き、自分も相手に話をしてみなければわからない。その前提に立つと、どうすればお互いにとっても職場全体にとっても一番いいのか、お互いの話を聞いてみる、つまり、やりとりをして「一緒に考える」ことが変えるための早道だというのが実感です。