「成果って、何ですか」
「制度を変えること、会社を変えることです」

「『自分がやる』と言う社員を一人でも多く増やしたい」というのが風土改革を始めた社長の動機です。それに対し、風土改革活動に手を挙げた社員たちの言葉は辛らつでした。

「これ以上、同僚を退職させたくない。このままじゃ、この会社はどうにもならなくなってしまう。オフサイトでは結論は求めないそうですが、私たちはやるからにはあくまで『成果』を求めていきますよ」
「成果って、何ですか」
「制度を変えること、会社を変えることです」

この会社では、経営に対する不信感は大変強いものがありました。風土改革なんて建前で、本当は社員に対するパフォーマンスに過ぎないのではないか、ただのガス抜きで終わるのではないか、という声がたくさんありました。実際、ここ十年くらいの間に数度の社員参加型のプロジェクトが行なわれ、それらは特に何の成果も生まないまま、うやむやに終わってしまったのだそうです。

もっとも、私たちは社長が本気でコミットしていることを知っていました。社長は忙しい合い間を縫って、スコラとも積極的にミーティングをもち続け、社員がいきいきと働ける会社像について、真剣に語り合っていたからです。しかし、これまでの歴史の中で社員のみなさんが傷ついてきたこと、退職が続くことに対する現場の危機感は「事実」として受け止めるべきです。

「本当にそれだけが成果でしょうか」
「『まだ何も変わっていない』という人もいる。でも…」

私たちは経営への不信を正すことよりも、「本当にそれだけが成果でしょうか」と投げかけ、成果定義の議論に時間をかけました。
その結果、

(1)自分が変わる
(2)自分の周囲を変える
(3)会社を変える

という3つの「成果」を設定し、風土改革がスタートしました。昨年3月のことです。

およそ10カ月後の2007年の年末、「ガス抜きは嫌だ」と言っていた、あるコアメンバーの方は言いました。

「『まだ何も変わっていない』という人もいる。でも、ぼくにとっては、この活動に参加してから大きく変わっている。この活動がなかったら、会うこともなかった人と出会い、この活動がなかったら、話さなかったようなことを話し合っている。その中でぼく自身が変わったし、ぼくにとっては会社の風景も今までと違って見えている」

彼は「伝説の」という形容詞がつくくらい、社内では有名なスーパー営業マン。仕事もできるが、とんがった言動でも有名です。いつもは指導し、育てている部下たちとともに風土改革に参加しました。日頃の上司部下という関係を離れて語り合うオフサイトミーティングでは、逆にいろんなことを教えてもらったと笑います。

「社長って、どんな人なのか、肩書き抜きで飲んでみたい」
この一言から生まれた「成果」とは

2008年、彼らは活動から1年目を迎えるにあたり、コアメンバーが一同に集まる「成果報告会」を行なう予定です。

彼は胸を張ってこう言います。
「年末に開催した『社長との飲み会』、ぼくはあれを自分のグループの成果として報告するつもり。あれだけで十分だと思っています」

彼の主催するコアネットワークのメンバーが「社長って、どんな人なのか、肩書き抜きで飲んでみたい」と何気なく言ったことから始まった企画。たかが社長と飲むだけ、なのに、実現まではけっこう大変でした。
経営と現場との壁は想像以上に大きくなっており、現場のマネジャークラスも、経営まわりの部長クラスにとっても、現場社員が社長とじかに接することは、必要以上に緊張することだったのです。
誰を呼ぶか、どこでやるか、そもそもの目的は何か、それが風土改革なのか、飲み会でなくディスカッションではダメなのか、とりあえず一度企画書的なものを作ったほうがいいのではないか…。当事者からも、そうでない人からもいろいろな意見が出ました。

「一人の個人として、ただ飲んでみたいだけ…」という何気ない意見は、オフサイトならではの意見です。この意見を口にしたメンバーのために、彼は奔走しました。どんな議論も批判も受け止めて、粘り強く実現に導きました。
そんな飲み会が盛り上がらないわけがありません。社長は楽しみ、そして自分の言葉で熱く語る社員に感激され、社員の声に耳を傾けました。現場社員から誘って実現した飲み会なんて初めてだったのです。もちろん参加メンバーも楽しみ、社長の素顔に触れたことを喜びました。

眼に見えない大事な「成果」を広げたい。
一人ひとりの小さな行動一つひとつが「成果」になる

変革の成果とは、あるいはゴールとは何でしょう?

彼と同じコアネットワークに属するメンバーの一人は、こう言います。
「オフサイトミーティングを通して、たくさんの人と会い、多くの刺激や気づきをもらった。これは眼に見えないけど、大事な成果。この熱と、この輪を拡げていきたい」

社長はこんなふうに言っています。
「自発的に行動する社員の数が増え、その数がある分水嶺を越えたときに当社の本当の力が発揮されるだろう」

私の眼には、両者は同じ夢を夢見ているように映ります。組織内のあらゆる階層で、あらゆる部門で、本音の議論が飛び交い、どんな小さなアイデアも大切にされ、育てられる。互いを尊敬する社員がいきいきと働き、組織のどこからでも知恵が生み出される、そんな組織です。
だから、本音の議論を広めようとする一人の行動が成果。人数を増やし、コアネットワーク化していくことが成果。コアネットワークから生まれる小さなアクションの一つひとつが成果なのだと思います。