顧客が何を求めているか

ある高級家具店で、月初の販売会議をオフサイトミーティングのスタイルで行ないました。まず、A店長が「当店の商品価格が他店に較べて“安い”ことを、いかに顧客にアピールするか」というテーマを出しました。
この小売店では、昔から“安さの訴求”が基本的な営業方針です。ところがこの日、A店長の投げかけに対して、若い元気なパート社員のBさんが日ごろ感じていた違和感を思いきって口に出しました。
「店長、私たちは高価なもの売っているのですから、安さではなく高級感を演出して、一流ブランド店のような雰囲気のお店にしませんか」

こういう発言をするのは、とても勇気のいることだったと思います。彼女の虚をつくような提案がきっかけとなり、その後の議論は流れを変え、全メンバーを巻き込んで大いに盛り上がりました。そして、話し合いの末に到達したのは、「実は、私たちは顧客の要望を知っているようであまり知らない。今から一週間、顧客が当店に何を求めているか、全員で接客時にヒアリングをしてみよう」ということでした。
一週間後、ヒアリングの結果を持ち寄って、みんなで出した結論は、意外にも「顧客が本当に求めているのは、気軽に立ち寄れる明るいお店の雰囲気と親近感のもてるフレンドリーな販売員」というものでした。さっそく、接客やセールのやり方をこのコンセプトにもとづいて企画したところ、来店客数や売上高が大いに向上したそうです。

「多様性」のコーディネート

ここで取り上げたいキーワードは「多様性」です。

Bさんの意見は、従来の営業方針からすると、いわば“異端”ともいうべきものでした。しかし、彼女の意見は明らかにミーティングの質を大きく変化させ、組織に眠る“創造性”を呼び起こしました。組織の中の多様な考え方やアイデアには、組織の創造力やパフォーマンスを高める大きな可能性があります。

ここでは、オフサイトミーティングなどの「場」における多様性の取り扱いについて考えてみましょう。「多様性のコーディネート」には、いくつかのポイントがあります。

(1)「異質なものが許容される」という雰囲気をつくる

組織内の多数派の考え方や暗黙の規範などからはずれた意見も、制約条件にとらわれない姿勢を持つことによって、ここでは許容され、歓迎されていると感じられるような、安心感のある雰囲気をつくります。

(2)「場」に存在する多様性を浮かび上がらせる

場でやりとりされる多様な意見の中に、価値の対立軸になっている「極」を見つけ、メンバーと共有します。先のエピソードでは、「安売り(A店長)」対「高級路線(Bさん)」という2つの「極」がありました。
話し合いの中で「極」の顕在化がどのように機能するかというと、たとえば「安売り」というテーマだけで話をすると、「いかに安さをアピールするか」という安易な「How to」の次元の話に終始しがちです。ところが、ここに対立する「極(=高級路線)」が現れることで、「そもそも、わが社はなぜ安売りなのか?」という「そもそも論」、「Whyの議論」が起こりやすくなり、より本質的なレベルで議論がなされるようになるのです。

(3)「対話」を促進すること

「極」をめぐって話し合う中で、対話が深まると、単純な「AorB」の議論を超えて発展することがあります。
先のエピソードでは、当初「安売り」か「高級路線」か、という議論がしばらく続いた後に、A店長とBさんが実は同じような思いをもっていることがわかりました。それは、「本当に顧客に役立つ、いいお店にしたい」という思いでした。そして、両者とも、「本当に顧客が何を望んでいるのか」という実態に向き合うことなしに、それぞれ「安売りを望んでいるはず」「高級感を望んでいるはず」という思い込みをもっていたことに気づいたのです。これは大きな気づきで、「みんなで顧客の声を聞いてみよう」ということになったのです。

メンバーみんなでたどり着いた結論は、「安売り」でも「高級路線」でもありませんでした。でも、本当の意味でチームメンバーの衆知が集まって生まれた創造的な解決策だったのです。