スコラ・コンサルトが関わって、社長の強力なコミットのもとに取り組んでいる<部門間の連携を図る><将来の事業像を描き直す><マネジメントのしくみを変える>等々の風土改革活動の中では、それはとても小さなアクションに見えました。彼ら自身もそれだけで会社が良くなるなんて思っていませんでした。それでも、彼らはドアを塗りました。

年末のお休み中に集まり、自分たちで社名ロゴをデザインし、カッティングシートにしました。ついでに案内板も手製で作りました。やろうと思ったら、設計・調達・工機・板金・組立、それぞれに技能を持った仲間がいました。せっかくだから、お客さまのためにと道路に導線となるラインも引いてしまいました。会社のロゴが大きく入った事務所のドアは思った以上にきれいな仕上がりになりました。

部門横断の「現場ミーティング」

現場社員の自由な集まり「現場ミーティング」の参加者は、一般職の人たちです。彼らは会社を良くしたいと思い、部門横断で集まり、それぞれに意見交換し合いました。当初から、もっと仲間を増やそうとあの手この手を試みました。これといった権限を持たない自分たちの役目は、現場の共感者を増やしていくことだと考えたからです。
でも、思うような成果は出ず、なかなか人数は増えませんでした。「この会って、本当に意味あるんだろうか」と思い悩む時間が続き、ある日、参加者のひとりがポツンとつぶやきました。
「せっかく集まったこのメンバーで何かひとつやってみようよ」
そして、塗装の剥げかかったドアをきれいにすることにしたのでした。

小さな小さなそのアクションは、しかし、会社に対して大きなインパクトを与えました。古くから会社を知る常務はこう言いました。
「昔、会社のやり方に腹を立てて、トイレのドアを蹴破った人がいた。それを思い出しました。一方で、今回は自分たちの会社のドアを自分たちできれいにしてくれた人がいる。それを思うと、とってもうれしくて・・・」
一生懸命に風土改革を推進している社長も彼らに深く感謝していると言いました。
「本当にはお客さまのほうを向いていない看板。そういうものがこの会社にはまだたくさんある」という社員の言葉を社長はブログに書き留めておられました。

社員の小さなアクションが、会社の大きな一歩へ

もちろん、このアクションで会社がすぐに良くなるなんてことはありません。この会社の風土改革はまだ続行中です。その後もたくさんの壁にぶつかっています。でも、彼らの小さなアクションは確かに会社の上層部の心に大きく響きました。事の大小ではなく、部門を越えて、自主的なメンバーがひとつのことを成し遂げたのです。
それは間違いなく、変革がめざすモデルの一つ(部門横断のチームをつくり、自ら考えて行動し、具体的なアウトプットを出すこと)になりました。そして、いつの日か変革が成功し、この会社の風土が良くなったある日、たぶんみんなで語り合うことになると思います。
「あのドアの塗り直しから始まったよね。今から思えば、あれこそが、じつは大きな、大きな一歩だったよね」と。