複業の時代

公務員の世界でも神戸市の「地域貢献応援制度」が先駆けとなり、副業での公益活動を積極的に推進しようとする動きがあり、公務員の持っている知見を地域の活性化に活用していくねらいがあると思います。

もともと家業としての農業などで実質的には「複業」をして、家族や地域に貢献、溶け込んでいた方は多いのではないでしょうか。それが名実ともに社会から必要とされる時代になってきています。

かくいう私も

私自身もスコラ・コンサルトの社員を10年近く経験したあと、個人事業主となり、スコラ・コンサルトの仕事を業務委託契約で行いながら、自分自身の事業として八百屋を営むパラレルワークに挑戦しています。

そういう仕事のしかたを許容してくれるスコラ・コンサルトのユニークさにもひと言触れたいところですがそれはまた別のお話。

八百屋の話に戻りますと、起業の思いは「農薬や化学肥料に頼らない農家さんの力になりたい」ということでした。新規就農した若者や、大量生産方式をやめて無農薬に切り替えた年配の農家さんたちと知り合い、「この人たちのための販路を作りたい」と思ったのがきっかけです。

集荷や援農で中山間地を含む小さな集落の畑をたびたび訪れるようになり、それまで知らなかった豊かさに出会えたことは私の世界観を大きく変えてくれました。たとえば、私が取り引きしている地域の中には「消滅可能性都市」の最上位にランクインしている地域も含まれていましたが、数字や統計から見える世界とはまったく別の見え方がありました。新規就農のため移住してきた若者たちが地域のお祭りに参加し、雑草の生える畑を昔からの農家さんにからかわれながら、自分で育てた野菜や隣人からもらった猪肉などを食べて元気に暮らす姿。都市部における若者数人の力はそれこそ多勢に無勢ですが、人口が2000に満たない山間部の村における数人には大きな存在感があります。山の恵みとしての食べ物も豊かですが、それ以上に自分自身の存在を重要なものだと感じることのできる心の豊かさの中でいきいきと働き、生活している姿を見ることができたのでした。

活躍する行政の力と課題

こういった数字では測れない豊かさを持つローカルにおいて、行政の力はとても貴重で有用です。「地域おこし協力隊」の制度を利用した移住者や新規就農者にもたくさんお会いしましたが、行政の力がうまく地域の活性化につながっている好事例だと思います。また、個人農家さんの中には小型の機械が1台あればぐっと作業が楽になるという方や、共同で利用できる加工所さえあれば農閑期にも現金による補助金や各種公共施設が大きな力を発揮してくれます。

一方で課題だと感じていることは、それらが一部の公務員の方々の熱意と献身的な努力に支えられたものであること、補助金などの利用には手続き上のハードルが高いものも多く、まだまだ必要とする方々すべてに情報が届いていないことです。課題は民と民の間にもあります。農業、特に有機栽培や自然栽培では定まった「王道」というものがなく、畑ごとに違う気候風土と向き合いながら農家さんごとに創意工夫しているのが現状です。そのため、自分の農法が正しくて、他の農家さんのやり方を受け付けないという人も意外に多く見受けられます。

八百屋としていろいろな農家さんとつき合うと、どの農家さんも独自の工夫、農法、なかには哲学のようなものを語ってくれる人がいて、おもしろくてしかたありません。お互いに交流がないのはもったいないので、取り引きしている農家さんどうしの畑見学の機会を企画したところ、たいへん喜んでいただきました。

ローカルの豊かさを対話の力で

副業による公益活動への参画環境が整備され、さまざまな知見を持った公務員の方々が地域社会に公的にも私的にも入り込みやすい時代が到来しようとしています。そして、私が見聞きしてきたローカルの、特に小規模農家として所得の多寡にとらわれない豊かな暮らしを実現しようとしている人々にとって、公務員の持つ知恵、知見、人脈は大きな支援になる可能性を持っていることは間違いありません。その可能性を花開かせる決め手のひとつが「対話力」ではないでしょうか。さまざまな情報を届けるため、NPOの活動の現場や役場の中でも助成金の説明会など、対話が必要になるシーンは無数にあると思います。また、人と人を結びつけるニーズはさらに大きく、個性的な取り組みや工夫をしている人と人や、移住者と元からの住民とを結びつけるためにも対話は欠かせないのではないかでしょうか。

私たちスコラ・コンサルトが長年にわたって培ってきたオフサイトミーティングの手法は1対1の雑談にも、大人数での会議にも使える工夫がいろいろあります。農家さんとの対話、思いのある公務員どうしの対話、地域住民どうしの対話、さまざまな場面に活用していただき、公務員の方々が地域社会の明るい未来を切り開くカギとなって活躍していただくことをひとりの八百屋としても心から期待しています。