社員アンケートを皮切りにさまざまな施策を実施

清水社長がまず手がけたのは、風土改革を担うメンバーを集めることだった。2016年1月、来る2018年の創立15周年をめざしてGrowing Innovation Project(略称GRIP15)を、植木さんら部長クラスを中心に7人の推進メンバーでスタートさせた。

GRIP15は最初のミッションとして社員アンケートの項目を練り上げた。「アンケートは原則としてGRIP15の推進メンバー7人に任せました。どうしても子会社だから仕事をもらえるという意識が社員にあるので、最後の段階で、名鉄本社に対する感触を聞く“意地悪問題”を入れてもらいました」(清水社長)。

このアンケートは質問総数が60問を越えるにもかかわらず、社員538名中、534名から回答が得られた。回答率は99.3%と高い数値を叩き出し、清水社長も推進メンバーも驚く結果だった。

「社員が真面目であることを認識しましたね。自由記入欄への記入も多く、社員は不満を持ちつつも、解決策を考えてくれていることがわかりました」(植木さん)。

「無記名のアンケートでしたが、部署名がわかるので、回答率が高かったのかもしれません(笑)。とはいえ、経営者への辛辣な批判や要望も多く書かれていました。また、上からやりなさいと言われたことはきちんとやる社員なんだということもわかりました。これは1つのパワーになると思いましたね」(清水社長)。

清水社長は、アンケートの結果はきちんと社員にフィードバックすると実施前から約束していた。「普通は大人数を集めてスライドを見せて説明して『質問はありませんか?』という方式で終わりますよね。それではもったいない。そこで、アンケート結果をもとに少人数で議論する形にして、議論の輪にときどき私も参加するようにしました。この議論によって、社員の当事者意識が高まったと思います」(清水社長)。

 

図1勉強会風景(GRIP通信No.3より)

このフィードバックは、現場でジブンガタリを交えながら、問題点を洗い出す「オフサイトミーティング」という手法を全社的に広げるきっかけになっていく。まずGRIP15の推進メンバー7人がその方法を勉強会で学んだ(図1)。

ただ、各部署でオフサイトミーティングを実施するには、7人では足りない。そこで、スコラ・コンサルトはサブメンバーの育成を提案。推進メンバーの7名がそれぞれ4〜5人に声をかけ、30名程度のサブメンバーを集め、サブメンバーにもオフサイトミーティングの方法を学んでもらい社内に広げるアプローチを取った。そうして、30か所でオフサイトミーティングを開催した。「このオフサイトミーティングには手応えを感じました。GRIP15のメンバーが部署間をまたいで、もう1年やるべきと言って進めてくれたのは嬉しかったですね」(清水社長)。

 

社内の7つの課題を見える化し、解決方法を探る

2016年に入ったころから、GRIP15では、オフサイトミーティングを続けながら、洗い出した課題を構造化し、約5か月かけて組織風土の特徴と課題を見える化した氷山図を完成する(図2)。

この構造図から明らかになった7つの課題について、推進メンバーが担当制で解決方法を練るワーキングチームを組織した。うち、Gの「明確なビジョン」は経営層が扱うべきテーマとして、役員が担当。「この課題が出てきたこと自体が経営への信頼が低いことの現れでした」(清水社長)。そして、進捗状況に応じて中間発表や8合目発表会を開催しながら、組織を変革することに対するGRIP15メンバーの当事者意識を醸成していった。

 

社長命令で、総務部が500名を超える社員全員の個人面談を実施

匿名のアンケートで社員の大まかな考えや不満は明らかになったものの、清水社長は社員が当事者意識を持つためにも個人個人が自分の意見を語ること、その意見を会社が聞くことが必要と考えていた。そこで、GRIPの活動とは別に、総務部に全員面談を実施するように命じた。

当時、総務部に異動していた植木さんを筆頭に、6人ほどの総務部員が手分けをして、業務の合間に1人が80〜90人を面談。総務部総務課の井上美代さんは80名に会いに行き、「それぞれ40分から1時間話しました。鋭気を吸い取られることもあり、ぐったりすることもありましたね(笑)」と乗り越えた今だからこその笑顔を見せる。一方で、現場に出向くことのメリットにも気づいた。「総務部に来てもらうと身構えられてしまうのに対し、自分たちの部署の部屋だと総務が来てくれたというムードを感じました」。

3か月ほどかけて全員の面談を終えた後、レポートをまとめたところ、その結果が社員アンケートの自由回答とも一致していた。「アンケートの自由回答の背景が一人ひとりの言葉から理解できてよかった。社員との信頼関係も芽生えてきた」と植木さん。「一番変わったのは総務部員です。職場でこんなに悩んでいる人たちがいるのに見て見ぬふりをしていたのかもしれないと実感しました」。今では上司に言えない相談を持ちかけられることもあり、人事異動後の社員のメンタルケアにもこれまで以上に注力している。