・会社に対して新しい提案をしたい社員がいても、上層部にうまく伝えることができず、積極性を失っていた。社員が想いをどう整理・言語化して提案やチャレンジにつなげていくか、チャレンジングな組織文化づくりも急務であった。
事業ビジョン・組織ビジョンを考え抜く対話を通じ、社員が「自ら考えて動く」組織へ
静岡県を中心に、関東・東海地域で営業展開する医療機器の専門商社、協和医科器械株式会社は、「医療を止めない」を使命とする、メディアスホールディングス株式会社のグループ企業です。年々業績を伸ばしていますが、2025年問題を見据えて予想される医療業界のパラダイムシフトに備え、社員一人ひとりが「自ら考えて動く」必要性を感じていました。そのための人材育成、成長支援策として、座学ではなく対話による協働プロセスが向いていると考え、スコラ式組織開発・組織風土改革を採用。経営陣からミドルマネジメント層まで40人以上が参加したプロジェクトをTMT(Top Management Team)と題し、事業ビジョン・組織ビジョンづくりを進めました。本音で語り合うプロジェクトを通じ、会社の未来をつくる、社員一人ひとりの当事者意識とともに、お互いの想いや価値観をしっかり聴きあい、形にしていこうとする文化が芽生えています。(2023年3月取材)
- 社員が「自ら考えて動く」組織をめざすため、マネジメント層に向けた長期ビジョン策定プロジェクトを展開
- 事業を発展させていくための課題は、人・企業・事柄を深く知るコミュニケーションにあることに気づく
- 相手の意見の背景を深く読み取る力が身につき、その力を社内へ浸透させることで自律型の組織をめざす
・会社に対して新しい提案をしたい社員がいても、上層部にうまく伝えることができず、積極性を失っていた。社員が想いをどう整理・言語化して提案やチャレンジにつなげていくか、チャレンジングな組織文化づくりも急務であった。
メディアスホールディングスにおいて、協和医科器械を担当する役員。
TMTプロジェクト事務局のメンバー。
組織変革の必要性を課題と感じており、TMTプロジェクト事務局のメンバーに選ばれた。
営業全般のさまざまな企画をしており、その多角的な視点や発言力から、
TMTプロジェクト事務局のメンバーに選ばれた。
人事総務部で採用や健康経営などを担当。
TMTプロジェクト事務局のメンバー。
TMTプロジェクトの核となるCCWチームのメンバー。
起爆剤的存在としてプロジェクトに取り組む。
CCWチームのメンバー。
メンバー間で顔を合わす機会が少ない部署のため、コミュニケーション不足が課題。
CCWチームのメンバー。
TMTプロジェクトで学んだことを105人の支店メンバーに伝えることが次の課題。
CCWチームのメンバー。
普段は販売拠点からのさまざまな相談を受け、サポートしている。
CCWチームのメンバー。
TMTプロジェクトでの悩みの共有や学びの機会に感謝している。
2019年、日本の総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.4%となっており、超高齢化社会となっています。医療・介護業界では、1947~1949年まれの団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、人材不足に伴う地域病床の集約、医療機関の統合などの改革を行なっています。協和医科器械では、今後訪れる変化を見据え、社員一人ひとりが自律的に動く組織への変革が必要と考えていました。スコラ・コンサルトへの相談の中で、「ビジョンづくり」を通じた対話と協働のプログラムを、2021年から2022年にかけて展開することとなります。当初はどのような課題をお持ちだったのでしょうか。
激動の医療業界でさらに成長するには、自律的に動ける人材が必要に
――業績好調の御社ですが、組織に関してどのような課題を感じられていたのでしょうか。
住吉さん:コロナ禍以前から、医療業界には急速なパラダイムシフトが起こると感じていました。保険制度の改革や医療機関の統合などの動きもあり、Amazonなどのテック企業も、物流に絡んで医療業界へと進出してきています。当社としては中長期の将来を見据えた変化が必要だと、前社長の柴田や取締役の芥川とも話していました。
芥川さん:チェンジマネジメントや従業員が自分で成長する力が必要と考えていました。長い間、組織や従業員のマインドに関わる研修などは実施されていませんでした。この会社の業績は年々伸びており、成長が止まっているわけではないですが、組織変革によってさらに組織力を強化できるのではないかと考えていました。
住吉さん:従業員は目の前の業務を一生懸命やっています。しかしその一方で、将来に目が向いていないという指摘もありました。医療従事者の方々のご要望を聞いて、それに応えるだけで精一杯。そのご要望の裏にある潜在的なニーズをくみ取って提案する、という活動に昇華できていなかったのです。そこで、自分たちが将来どうありたいのかを考える必要があるということになり、スコラ・コンサルトに相談することにしたのです。
何か問題意識や課題があっても、自由に発言・提案できない雰囲気も
――一方で、現場ではどのような課題を感じられていましたか。
竹川さん:日々の業務において、個々人のスキルに依存しすぎる傾向がありました。組織力を強化できれば、もっと良い会社になると思っていました。営業担当者は、個人商店のように、担当する医療従事者と関係性を高めて売上を伸ばすことは得意なのですが、組織的には動いていないような懸念があったのです。
後藤さん:採用担当としては、少子化の影響もあり、特に新卒採用に課題を感じていました。多くの学生にとって医療機器は、身近な存在ではありません。今後ますます優秀な人材を他社と取り合うことになることを考えますと、社員の意見が尊重される風土や大きく成長できる環境などで差別化を図っていかなければと考えていました。
朝原さん:日々の業務の中では、何か新しいことにチャレンジしても「失敗してしまったら評価されないかもしれない」と考えてしまうような雰囲気を感じることですね。それゆえに、何か課題があっても会社側に伝えようとしない風潮がありました。特に業務量が多い管理職にはその傾向があったと思います。ですから、営業担当者も受動的になってしまいがちですよね。
伊野瀬さん:上司が会社の中で自由に発言できずに窮屈そうにしていると、部下のモチベーションは下がってしまうと思います。意見を伝える場がないのも問題ですが、何か発言しても否定されたり、責任が伴うだけであれば「言わないほうがいい」となってしまいますよね。
マネジメント層が「10年後のありたい姿」を考えるTMTプロジェクトを実施
――最終的にスコラ・コンサルトを採用した理由と、最初のフェーズで「ビジョンづくり」を実施するに至った経緯も教えてください。
住吉さん:まじめに取り組む社員は多いと思うのですが、単発的に座学研修をしても自ら考える力は身につかないと思いました。これまで、こうした研修を実施してこなかったこともありますが、あわせて「教わるマインド」を醸成する必要性を感じました。その点でスコラ・コンサルトは、一方的に教えるようなアプローチではなく、あくまで各々が考えることをサポートするという方法をご提案いただいたことが決め手となりました。
芥川さん:私たちは、創業当時からお酒を交わしながら本音の対話を重ねてきた歴史があります。スコラ・コンサルトでは、お酒は伴わないけど、気楽にまじめな話し合いをして共感を生む「オフサイトミーティング」の手法を取り入れていることも、納得感を得られたポイントでしたね。本来は合宿形式の研修を開催するつもりでしたが、コロナ禍の影響を受けて全てオンライン開催となってしまったのは残念でした。
住吉さん:当初、中期経営計画の策定プロセスの支援について相談をしていました。何度か意見交換する中で、未来を考える力を養うことの重要性に気づきました。計画の充実化と未来を考える力との両方の成果を同時に得るのは難しいと考え、最初のフェーズでは、10年後に私たちがめざすべきところをテーマにビジョンづくりをすることにしました。しかし、会社のビジョンは経営陣が考えるものだという認識をもったメンバーが多かったため、最初にメンバーの理解を得るのが難しかったですね。
実際の取組み
まずTMTメンバーが8人×5チームでそれぞれビジョンづくりを行ないました。オフサイトミーティング方式で「ジブンガタリ」「モヤモヤガタリ」によってお互いの人となりや問題意識を共有することから始め「会社の歴史」「自社が提供してきた価値とコア・コンピタンス」「若手社員の声」「組織を取り巻く外部環境」など、事業・組織の事実・実態について理解を深めていきました。
次の段階では「協和医科器械の未来を考えることにはどういう意味があるのか」「ビジョンを描くことにはどういう意味があるのか」など、今回の取組みの意味・目的についても対話を通じて探究を深めていきました。
そして、一人ひとりの認識や関心の範囲が広がってきたところで、各チームごとに未来ビジョンを描いていきました。身近なことから対話を始め、Will、Can、Mustの観点から多角的に事業・組織のこれまでとこれからを考えるプロセスを通じて、ビジョンを描く土台をつくっていきました。
竹川さん:ビジョンや経営計画というのは、上層部が考えて社員に周知するものだと思っていました。社員は設定した数字を達成するために動いていますので、今回の取組みには上層部とのギャップがあるのではないかと考えました。しかし、プログラムを進める中で、なぜこのようなギャップが生まれたかに気づくことになります。
伊奈さん:事務局としては、参加メンバーの理解を得られるまで苦労しました。今回は41名が対象となりましたが、各々が腹落ちするまでに時間を要し、最終的には「10年後のありたい姿」をテーマとして設定することで理解を得られました。
相手に興味を持ち、発した言葉の真意をとらえることが重要であることに気づく
――ビジョンづくりの取組みを実施していく中で、苦労された点を教えてください。
伊奈さん:オフサイトミーティングでは、対話によってお互いの壁を乗り越え、協働していくプロセスで成長していきます。参加者はテーマについて自分で考えたことを話す機会が与えられます。しかし、いざ考えることを求められると、メンバーからなかなか言葉が出てこず、沈黙の時間が多くなったことがたいへん苦痛でした。スコラ・コンサルトのプロセスデザイナーの方にもサポートしていただけるのですが、すぐには助け舟を出してくれません。最終的には、混沌から相互理解、共創へと導いていただきました。
実際の取組み
各チームからそれぞれ代表を2名ずつ募り(チーム名:CCW)10名と事務局が一緒になってビジョンを統合していきました。ビジョン統合のプロセスにおいては、CCWについてはスコラがファシリテーションを行ないましたが、各チームの意見を聞くプロセスにおいては、CCWが自分の所属するチームのミーティングのファシリテーションを行ないました。CCWにおけるビジョン統合においては、お互いの意見をとことんぶつけ合い、その意見の背景にある想いや価値観を深く理解し合っていきました。
同時に、それぞれの意見を構造化し、論理的に整理しながら、対話を進めました。この「右脳と左脳を行き来し、発散と収束を繰り返しながら、皆の想いと意志を束ね、合意形成していくプロセス」が、混沌から相互理解を経て共創へとつながっていきました。
(図表)対話の4フェーズ ※注記 「ウィリアム・アイザックスのモデルを参考に、スコラ・コンサルトにて作成」
朝原さん:ビジョンなんて今まで考えたことがなかったため、何から手をつけてよいのかわかりませんでした。わからないなりに思考をめぐらすのが目的だったのかもしれませんが、会社が進むべき方向や会社を好きになる方法、ワクワクできることを大切にするなど、普段から大切にしている小さなことを一つひとつ紡いで導き出せたような気がします。
伊野瀬さん:率直に10年後をイメージするのが難しかったです。私たちはTMTプロジェクトメンバーの41人の中から、CCWという核となるチームとして選ばれ、頻繁にトレーニングを行ないました。そこで学んだことを自分のチームに同じ熱量で伝える使命があったのですが、私自身のファシリテーション力が課題だと感じました。
勝地さん:私もファシリテーションについて初めて学び、その難しさを体感しました。自分がファシリテーターとしてチームをうまくまとめることができなかったのが反省点ですが、プロセスデザイナーの方々がファシリテーターとして立ち回る姿を目の当たりにして、より学びが深まりました。
坂本さん:自分の業務領域ならプロ意識を持って話せるのですが、ビジョンを考えるとなると途端に言葉が出なくなりました。しかし、いろんな意見を言ってくださるメンバーの存在があり、ビジョンが出来上がっていきました。私は最後まで(CCWとスコラ・コンサルトの)皆さんに引っ張っていただき、感謝しています。
言葉の裏に隠れた想いに寄り添えるよう、まずは相手に興味を持つことから
――沈黙からビジョンができあがる過程でどのようなブレイクスルーがありましたか?
竹川さん:私が印象に残っているのは、言葉の表層でなく、その背景を考えることの重要性を教えていただいたことです。氷山を例に、言われた言葉には隠された真意があると。日常業務においては、事務職のメンバーの真意をくみ取って熱を上げていく役目がありましたが、ひじょうに難しかったです。でもこれを実践していくことで、言葉に惑わされずに本質を深く探っていく習慣が身についてきたと考えています。
伊野瀬さん:意見が9:1に分かれる話題が出てきたとき、参加者全員でその氷山の一角を掘り下げていったことで、「こんな視点もあるね」、「そういう考え方もあるのか」など活発な意見交換ができ、最終的な結論が1の意見に逆転したこともありました。これは象徴的な出来事の一つだったかもしれません。
後藤さん:私も事務局としてみなさんから意見が出ないことに悩んでいたら、プロセスデザイナーの方から「人に興味がないんですよ」と言われ、衝撃を受けました。「対話を大事にするなら、まずは相手に興味を持たないといけない」とアドバイスをいただき、これもひじょうに学びになりました。
「自ら考えて動く」文化が芽生え、社内外に好影響をもたらす
――今回の取組みを経て得られた成果や感じられた変化についてお聞かせください。
伊野瀬さん:経営層や上司に意見をしても聞いてもらえないという雰囲気があったとお伝えしましたが、TMTプロジェクトで発言する力とくみ取る力を身に着け、考え方に変化がありました。「相手が求めることの背景を理解したうえで提案する必要性」に気づいたからです。以前、高額な装置を扱う営業部署に所属していたとき、受注できれば売上に大きく貢献するため、部下に対して「なんで?」をくり返して問い返すアプローチをしていました。顧客のニーズやその背景をつかみ、どうしたら商談をうまく進められるのかをメンバーと一緒に深掘りして成果につなげていましたが、これは、どこの部門においても通じることがわかりました。
稲垣さん:私は、何かトラブルがあったときに部下が感情的になることは悪いと思っていません。そのときに「自分だったらどうしたらよいか考えてください」とお願いしています。それが、率直な本音を引き出しながら解決に導ける方法だと考えているからです。若手のメンバーですと、すべて自分自身で考えて解決できるわけではありませんので、適宜アドバイスを行ないながらコミュニケーション不足を解消しつつあります。
勝地さん:会議のときに一方的な演説にならないよう、出席者への配慮が自然とできるようになりました。そうしたことで、メンバーからは少しずつ意見をもらえるようになってきました。私は子育て中なのですが、子供との対話においても言葉の背景をとらえるようになり、プライベートでも役立っていると感じています。
後藤さん:10年後のありたい姿をまとめることで、採用関連のパンフレットにそのメッセージを載せることもできました。これをみんなで考えたと学生に伝えられるのは大きな変化だと言えます。また、私が以前であれば感情的になってしまうような場面でも、冷静にその原因を紐解いてスムーズに会話ができるようになったのではないかと自己評価しています。
坂本さん:自分よりも役職が上の方々や、他部署の方々と率直な対話を重ねて、日頃の悩みを共有したり、立場が異なる方々とディスカッションしたりしたことが、自分にとって得難い経験となりました。個人的な変化としては、これまではチームのメンバーが困ったときにすぐに答えを与えてしまっていたのですが、背中をそっと押してあげるようなヒントを与えて、メンバーの考えを尊重できるようになりました。
住吉さん:「自ら考えて動く」という当初の目的について、達成の兆しが現れはじめています。本部長のレイヤーでは、役員からの指示・命令を待たずに小さなチームを作って課題に取り組もうとする動きがあります。私の知らないところでも組織の課題を抽出し、それを解決するためのタスクに落として取組みを進めるなど、今までにはなかった動きがあるようです。こうした動きが組織全体に浸透していくことを期待しています。
TMTプロジェクトのメンバーの学びを全社に、そして取引先にも展開していく
――今後の課題や展望などがあれば、お聞かせください。
朝原さん:ビジョンという成果物を得られたこともたいへん有意義でしたが、その過程の中で自分が学んできたこと自体が財産だととらえています。プロジェクトで得られたことを組織全体に浸透させて、会社に還元していくことが今後の課題だと考えています。
竹川さん:実は、今回の取組みで得た学びも受けて、ある重要な取引先メーカーと弊社の営業担当者それぞれに対して、はじめて無記名のアンケートを実施しました。取引先からは、普段からさまざまなご要望やご相談をいただいていますが、その裏にある背景やニーズを深掘りして、今後の営業活動にも役立てようと考えて企画しました。まだ途中経過ではありますが、双方の不満や課題が見えてきており、今後どのように解消していけばよいのか、話し合いの場を持つことになっています。こうしたギャップをなくしていくことで、顧客との関係性を強化していきたいと考えています。
芥川さん:協和医科器械は、医療分野のリーディングカンパニーです。これからもそうあるためには、医療業界の動向に応じて私たちも変化していく必要があります。社員も変化を恐れずに、自分で考えて柔軟に動ける組織になれるよう、後押ししていきたいと思います。
住吉さん:今回の取組みを通じて、各々が「10年後のありたい姿」に向けてアクションをし始めてくれているので、会社としてはこれからさらに推進していき、最終的には社員一人ひとりが考えて動ける、自律型の組織を実現してまいりたいと思います。
ビジョンづくりのプロセスでは、オフサイトミーティングによって事実・実態・本音で対話できる関係を構築し、業界トレンドを含め、認識の幅を広げ、思考も深めていきます。協和医科器械では、経営幹部やマネジメント層が部門や役職を越えて意見を交わすことで、将来の課題に対する認識・当事者意識が高まり、相手を思いやる姿勢が芽生えています。今後はこれを企業文化にするべく、全社への浸透をめざしています。
2022年9月から現職。前社長の柴田英治氏とともに、
スコラ・コンサルトとのプロジェクトを推進してきた。