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後編は、普段の仕事のコミュニケーションで「思っていても言わないこと」「わざわざ言葉にしないこと」が自然に出てくるようなやりとり(相互作用)を念頭に、対話に不慣れな人でも今すぐに始められるシンプルな「3拍子の対話のステップ」をご紹介したいと思います。
INDEX
「話す・質問する・聞く」自然なやりとりの流れをつくる
めざすのは、「表面的でない」納得のいくやりとりです。特に意識しておきたいポイントは、やりとりの呼吸(リズム)を合わせること。身構えた関係の中での適当に合わせる話、当たり障りのない言い方ではなく、お互いが感じたまま、思ったことを素直に口に出すやりとりができれば、リアルな「事実・実態」も見えやすくなります。
【3拍子の対話のステップ】
人の「表面的でない」発言は、情報・エネルギー・気持ちの束でもあります。それを生かしていくやりとりのステップは3拍子。まず自分から構えをはずして「素直に話す」ことで、安心できる対話のモードをつくります。そして相手の話に対しては、同調だけで終わらせないで、ちょっと踏み込んだ「質問をする」。会話のキャッチボールの過程では、発言の真意を聞き、気持ちをしっかり「受けとめる」ようにして、できるだけ納得のいく自然なやりとりにしていきます。
話す
自分の言葉で話す(構えない・飾らない)
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・自分の思ったまま、感じたままを話す。
・話は、まとまっていなくていい。
・自分を主語にして話す。
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「発言はまとまっていなくてはならない」「いいことを言わなければならない」という思い込みがあると、話すほうも聞くほうも苦しくなります。話をする時は、まず自分のほうから素直な気持ちをそのまま言葉にすることで、お互いに“構えない”やりとりが始まるようにします。気持ちの乗ったやりとりの流れをつくるためには、無理に話を合わせたり、背伸びをしたりせずに「わからない、知らない」と率直に言えることも大切です。
やりとりがざっくばらんになればなるほど、本題の核心に早く近づくことができ、込み入った話、踏み込んだ話も相談しやすくなります。
◆この口ぐせに注意
「~をしなくてはいけない」「~であるべき」「~するしかない」など、ふだん知らず知らずのうちに使っている言葉。もしかしたら必要以上にルールを重視したり、誰かに言われたことや、周りにどう思われるか(人からの評価)を気にするメンタリティになっているかもしれません。自分の言葉で話す時には、他人から見てどうかよりも「自分の気持ちにそっているかどうか」を大事にします。
◆相手にも自分の言葉で話してもらいたい時は
たとえ相手がガードを崩さず構えたままであっても、自分だけは正直な気持ちをありのままに言うようにする。相手と意見が違って合わせたほうがよさそうな場合でも、「私は○○と思いますが、やっぱり~ですよね」と、一応は自分の中にある思いを言葉にすることはできます。そんな気持ちの表明が刺激になって、相手のカタい態度がゆるむかもしれません。(ただし、「地雷」には注意)
◆「聞き専」には「これでいいんだ」の体験を
「自分のことを話すのも苦手、相手に質問するのも失礼な気がして、ずっと『聞き専』で通してきた」という20代の若者。ある対話の場で、初めて勇気を出して自分の思っていることを話してみたら、それに乗っかった人が同じように自分の思うところを語ってくれたことに驚いたそうです。この体験でやりとりの感覚がつかめたことによって、「これでいいんだ」と徐々にですが自分の言葉に自信が持てるようになっています。
質問する
「その心は?(なぜ)」を「追い質問」する
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・相手の話で気になったことを質問する
・目的や意図、思いなどを聞く
・より具体的に聞いていく
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やりとりをどんどん発展させ、話の全体像をあぶり出しながらリアルな生情報を誘い出す最大のカギは「質問」です。
たとえば、誰かの「○○改革に全力を尽くします」という発言を聞いて、あなたはどう感じるでしょうか。「意気込みはわかるが、具体的に何をするのだろう?」と瞬間に疑問を感じたならば、それを質問することが“やりとり開始”の合図です。
同じように日常業務の中でも、意識して「ちょっと突っ込んだ質問」をしてみる。やりとりを表面的に終わらせず、質問しながら続けていくことで、その人がなんとなく感じていることや本当に言いたいこと、実際に見ている状況が気持ちと一緒に出てくるようになります。
また、「なぜ?」は、表に出ない事実や思いを引き出す誘い水になります。「もっと詳しく」「もっと具体的に」と質問することによって水を向け、人の中に埋もれる情報やアイデアがどんどん表に出るようになると、やりとりも生成的なものになり、創造的な対話へと発展していくのです。
◆組織人は「質問されれば」ついつい話す
情報収集にはアンテナを張りつつ、自分からは“余計な情報を出さないほうが安全”と思っているのが多くの組織人。ただし、質問されれば「相手が聞いてくれたから応えたまで」という安心感から発言しやすくなります。
「部下にどう声をかければいいかわからない」という上司のつぶやきをよく耳にしますが、「~だけど、どう思ったか聞かせて」といった声かけや、説明に対して「なんでそう思ったの?」と重ねて質問することで、両者ともにやりとりのリズムに乗りやすくなります。
◆気楽になれる言い回し
ちなみに、こうした投げかけは「深掘り質問」と呼ばれることも多いのですが、ある男子大学生は「追い質問」と呼んで多用しているようです。「深掘る」「引き出す」のような言葉には深追い感があって相手を緊張させるため、無用な「圧」をかけない言い回しにして話しやすい雰囲気をつくろうという若者感覚での工夫なのでしょう。
◆質問から情報活用へ
「なぜ?」「どうして?」「その心は?」などの質問が誘い水になって顕在化してきた情報が、仕事を見直す、やり方を変えるテコになることもしばしばです。
・「その仕事は○さんよりも私がやったほうがよさそうです」⇒ 業務分担の最適化に
・「あの仕事はやり方をちょこちょこ改善しているけど思いきってやめたほうがいいんじゃないか」⇒ 仕事の見直し・再構築がテーマに
・「人材不足とIT化は大きな流れだけど、お客さんとの信頼関係はどこでつくるか誰か考えているのかな?」⇒ 組織の機能の見直しに
聞く
思惑なしに、発言に集中する
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・発言の真意をキャッチする
・気力、気持ちを受けとめる
・自分の思い込みに気づく
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せっかく発言したのに、すぐ否定されたり、スルーされたりすると、「やっぱり言わなければよかった」「次からは黙っておこう」という心持ちになるもの。発言内容の良否判断ではなく、まず受けとめて「言おうとする」気力が萎えないように“その調子”を大事にします。
こうしたいという自分の思惑、最終的にどうするかはいったん置いておいて、「そういう見方もあるね」「それは知らなかった。ありがとう」と、発言自体を受けとめるようにすると、メンバーも話してよかったと思えて、上司部下のやりとりの呼吸も合ってきます。
◆「意見を聞いたあと」に対するマネジャーの気がかり
「実は、メンバーから意見を聞くのが怖いんです」
ある会社の新任管理職の人から打ち明けられた悩みです。その人は何事においても自分の意見がしっかりあり、職場のメンバーの話をじっくり聞いてしまうと、いざ自分の考えで仕事を進めようという時、みんなを説得するのが難しくなるのではないかと思っていたようなのです。その背景には、管理職として「チームをまとめていかなければならない」「自分が結論を出さなければならない」という強い責任意識がありました。
でも、「聞く・受けとめる」ことと「解決する」ことは違います。
むしろ、メンバーからの違う見方にふれて初めて「こうするしかない」と思っていた自分の思い込みに気づくこともあります。正解は常に一つとは限りません。個々のメンバーの内面にある思いや温めていたアイデアが出てくることで職場に活気や利益がもたらされたりするのです。
「表面的でない」やりとりのメリット
・関係のカタさがゆるむ(自分も相手も)
・気持ちと動きが楽になる(仕事が進めやすくなる)
・リアル生情報をもとに、成果に向けたプロセスの創意工夫ができる
〈話す・質問する・聞く〉3拍子のリズムでやりとりができれば、お互いの置かれている状況や見ているもの(現状認識)、考えなどもキャッチできるようになり、人の気持ちや感覚など内面にある事実とともに「生きた情報」が表に出てくるようになります。コミュニケーションの知識やテクニックでがんじがらめになりそうな時は、このシンプルな対話のステップを踏んでみることをおすすめします。