オンボーディングとは、新入社員が企業にスムーズに適応できるようにするプロセスです。企業が新しく入った社員に対して行う一連の取り組みや研修プログラムを指し、新卒社員や中途採用社員の職場環境への適応や社内文化の理解を促進します。オンボーディングの目的は、新しい社員の早期離職を防止し、活躍できるようにサポートすることです。企業にとっては、従業員満足度を高め、生産性を向上させる効果もあります。この記事では、オンボーディングとは何か、その目的、導入方法、メリットについて詳しく説明します。

オンボーディングとは

オンボーディング(on-boarding)は、もともと「乗り物に乗っている」という意味ですが、乗り物を会社や組織に見立て、新卒社員や中途採用社員が同じ乗組員として、新しい環境にスムーズに適応するためのプロセスとして表現されています。
具体的には、新卒社員や中途採用社員が入社から定着するまでの期間に企業が提供する公式・非公式の研修、プログラム、施策などのサポートを指します。初日から業務に慣れるだけでなく、企業文化や組織の価値観を理解することも含まれます。こうした取り組みにより、新入社員が自信を持って仕事に取り組むことができ、早期に活躍することが期待されます。企業にとっても、新入社員の定着率が向上し、長期的な人材育成に寄与します。

オンボーディング導入の背景と必要性

かつては、新入社員が自ら適応することが期待されていましたが、現代のビジネス環境ではそれだけでは不十分です。
最近は、人材流動性が高まり、中途退職が増加していますが、十分に研修や体制、制度が整っていない企業もまだ多くあります。その結果、せっかくコストをかけて採用を行っても、組織に馴染めずに転職を繰り返してしまう可能性があります。
また、コロナ禍の影響でリモートワークをする人が増え、職場で対面のコミュニケーションをとる機会も減っています。こうした環境では、新入社員が不安や疑問を抱えても、解消することが難しくなってしまいます。
これらの背景から、計画的なオンボーディングによって体系的かつ計画的に新入社員をサポートすることで、安心して業務に取り組める環境づくりが必要になっています。

オンボーディングの目的

これまで説明してきた通り、オンボーディングの目的は、企業に新しく加わった社員が迅速に組織に適応し、効果的に業務を遂行できるようにすることにあります。このプロセスは、新入社員の職場環境への適応を支援し、企業の期待される成果を迅速に達成することを目指しています。
ここでは、オンボーディングの目的について、詳しく説明します。

社員の定着率の向上

社員の定着率向上はオンボーディングの主要な目的として挙げられます。初期の段階で適切なサポートが得られないと、新入社員は不安やストレスを感じ、早期離職のリスクが高まります。オンボーディングのプロセスを効果的に実施することにより、新入社員が職場環境や業務内容に迅速に適応でき、職場への愛着や満足度が向上します。これにより、定着率の向上が期待でき、安定した人材確保が実現します。

新入社員の早期活躍

効果的なオンボーディングプログラムを設計することで、新入社員が必要な知識やスキルを迅速に習得できます。これには、業務フローの理解、使用するツールやシステムの操作方法の習得、チームメンバーとのコミュニケーション強化などが含まれます。初期段階から具体的な目標設定とフィードバックを行うことで、新入社員は自己効力感を感じながら業務に取り組むことができます。これにより、新入社員は早期に活躍できるようになります。

新しい組織文化の理解促進

新入社員が企業の価値観や文化、期待される行動規範を理解し、一体感を持って働けるようにします。例えば、企業のミッション、ビジョン、バリュー(基本的な価値観)を伝えることで、企業が目指す方向性や価値基準を理解し、日々の業務でその方針に沿った行動を取ることができます。また、職場でのコミュニケーションスタイル(例えば、オープンドアポリシー、フラットな組織構造、形式的・非形式的なコミュニケーションツールなど)や、職場の雰囲気(カジュアル、フォーマル、協力的、競争的など)を理解してもらうことも有効です。

オンボーディングのメリット

オンボーディングのメリットは多岐に渡りますが、主なものとして生産性向上、従業員満足度の向上、人材育成施策の強化、コストの削減などが挙げられます。ここでは、それらの具体的な内容について説明します。

生産性の向上

新入社員が迅速に会社の業務フローやツールの使い方に慣れることで、短期間で効率良く業務を遂行できるようになります。特に、初期段階での詳細な研修や実務へのスムーズな移行支援は、早期からのパフォーマンス発揮を促進します。また、オンボーディング期間中に設定された明確な目標と適時なフィードバックが、新入社員のモチベーションを高め、業務の成果に直結します。こうした取り組みは、組織全体の業務効率を向上させ、総合的な生産性向上につながります。

従業員満足度の向上

新入社員が職場に適応しやすい環境を提供することで、安心感や職務に対する理解が深まります。この結果、職務満足度が向上し、社員が長く働き続ける意欲が高まります。また、オンボーディング期間中にチームとのコミュニケーションが活発になり、人間関係の構築に役立ちます。企業文化や価値観を共有する機会が増えることで、社員同士の結束感が強まり、職場全体の雰囲気が良くなります。これらの要素が総合的に従業員満足度を高め、企業の魅力を増す結果につながります。

人材育成施策の強化

オンボーディングの導入に際し、体系的かつ計画的な研修プログラムを整備することで、新入社員が必要な知識やスキルを効果的に習得できるようになります。初期段階での適切な育成は、社員が今後のキャリアを描きやすくし、長期間にわたって企業に貢献するための基盤を築きます。また、資料や研修内容の標準化により、各社員が同じレベルの教育を受けることで、組織全体の能力向上が期待されます。

コストの削減

オンボーディングはコスト削減に寄与します。新入社員が早期に退職することは企業にとって大きな損失であり、再採用や再研修のコストが発生します。適切なオンボーディングプロセスを導入することで、このリスクを大幅に軽減できます。体系的な研修プログラムやサポート体制を整えることで、新入社員の定着率が向上し、採用コストや教育コストの節約にもつながります。

オンボーディングの方法

ここでは、オンボーディングを効果的に行うために、企業側で必要な準備や流れを説明します。まずは目標設定とスケジュール作成を行い、その後、職場環境の整備と関係者への情報共有を行います。オンボーディングプロセスの最後には導入後の振り返りを行い、改善点を見つけ次回に活かすことが重要です。これら一連のプロセスを通じて、新入社員がスムーズに職場に適応し、早期に即戦力となることが期待されます。

目標設定とスケジュール作成

まずは、目標設定とスケジュール作成を行います。具体的な目標を設定することで、新入社員がどのように成長し、何を達成すべきかが明確になります。この目標には、業務スキルの向上、人間関係の構築、企業文化の理解などが含まれます。
また、これらの目標を達成するための詳細なスケジュールを作成することで、プロセスが体系的かつ効率的に進行します。初日から1週間、1カ月、3カ月といった期間ごとに目標を設定し、進捗状況を確認することで、新入社員が自分の成長を実感しやすくなります。これにより、モチベーションも高まり、成功に導くことができます。

環境整備と関係者への情報共有

オンボーディングをスムーズに進めるためには、職場環境の整備と関係者への情報共有が不可欠です。新入社員が必要な設備やリソースをすぐに利用できるように準備を整えておくことが求められます。例えば、PCや業務ツールのセットアップ、関連資料の提供などを事前に済ませておきます。
また、関係者への情報共有も重要です。上司やチームメンバー、関連部署のスタッフに新入社員の到着を知らせ、どのようなサポートが必要かを周知することで、協力体制が強化されます。オンボーディングの重要性について腹落ちした上で、前向きに新入社員をサポートしてもらえるように、丁寧な説明が求められます。

導入後の振り返り

オンボーディングの最終ステップとして導入後の振り返りを行います。このプロセスでは、新入社員がどれだけ目標を達成したか、どの部分で課題があったかを調査し、評価します。アンケートやインタビューなどを通じて振り返りることにより、オンボーディングプログラムの効果を客観的に確認し、必要な改善点を見つけることができます。
また、振り返りを通じて新入社員へのフィードバックを行うことで、彼らの成長を促進し、次のステップに向けた具体的なアクションプランを立てます。チーム全体で意見を共有し、改良点を検討することで、次回のオンボーディングがさらに効果的になります。こうした取り組みが継続的な成長と組織全体の改善に繋がります。

【参考】オンボーディングとOJT・Off-JTの違い

補足情報として、オンボーディングとOJT(On-the-JobTraining)、Off-JT(Off-the-JobTraining)は共に新人育成の手法ですが、目的や手法が異なります。オンボーディングは、新入社員が企業文化や価値観を理解し、職場にスムーズに適応するための包括的なプロセスを指します。これには、初日から数ヶ月にわたる計画的な研修やサポートが含まれます。一方、OJTは日々の業務を通じて実際の業務スキルを習得する方法です。具体的な業務を行いながら、必要な知識や技術を先輩社員から学ぶ形式が一般的です。Off-JTは、日々の業務や職場を離れる点は異なりますが、業務に必要な知識や技術を学ぶという点では目的が同じです。つまり、オンボーディングは広範な適応支援であり、OJT、Off-JTは業務スキルの具体的な習得に焦点を当てています。この違いを理解することで、新入社員の育成における各手法の役割分担が明確になるでしょう。

オンボーディング実施のポイント

オンボーディングを成功させるためには、いくつかの重要なポイントに留意する必要があります。これらの要素は、新入社員が企業に迅速に適応し、効果的に職務を遂行できるようにするために不可欠です。それぞれのポイントを押さえることで、新入社員の定着率や生産性が向上し、組織全体のパフォーマンスが改善されます。

事前のコミュニケーション

入社前に企業のビジョンやミッション、業務内容について詳細な情報を提供することで、新入社員は安心して入社を迎えることができます。具体的な事例として、オリエンテーション資料や会社のガイドラインを事前に送付することが有効です。また、事前にメンターやチームメンバーと連絡をとる機会を設けることで、コミュニケーションのハードルを下げることができます。これらの取り組みにより、新入社員の不安を軽減し、入社後のスムーズなスタートをサポートします。

必要な情報の提供

新入社員が新しい組織で仕事を円滑に進めるために必要な情報を提供することも目的の一つです。例えば、規則やルール、業務マニュアル、人員情報、各部門の仕事内容などの情報です。新入社員向けのオリエンテーションの実施や研修などは、情報提供の手段と考えられます。また、上司やチームメンバーとのコミュニケーションによって、明文化されていない情報を伝えることも効果的です。

職場での声かけ

新入社員が配属された職場で「困っていることはない?」「なんでも相談してね」といった声かけを行うことで、新入社員はチームメンバーと気軽に話ができるきっかけを作り、相談しやすい環境を作ります。困った時に相談することができれば、心理的なストレスを軽減することがきます。職場に受け入れられていると感じられるようになります。

多方面からのサポート体制強化

多方面からのサポート体制強化は、新入社員が迅速に職場に適応するための鍵となります。専任のメンター制度だけでなく、チーム全体が協力して新入社員を支援する環境を構築することが求められます。例えば、定期的なフィードバックセッションや質問がしやすいオープンドアポリシーを導入することで、新入社員が感じる不安や疑問を解消できます。また、社内のリソースやツールの使い方を学ぶためのトレーニングセッションも重要です。これにより、新入社員が必要なスキルや知識を迅速に習得し、職務に対する自信を高めることができます。

小さな目標の設定

1on1ミーティングなどを通じて小さな目標を設定することで、新入社員は達成感を感じやすくなり、モチベーションを維持しやすくなります。例えば、初週の目標として基本的な業務ツールの習得、最初の1カ月間の目標として特定のプロジェクトに参加するなど、段階的に達成するべき課題を提示します。これにより、新入社員は自分の成長を実感しながら、着実に業務に慣れていくことができます。目標達成の過程で得たフィードバックを基に次のステップに進むことで、適応と成長が促進されます。

取り組み事例

最後に、オンボーディングの成功事例をいくつか紹介します。これらの事例を通じて、具体的な実施方法や効果を理解することができます。それぞれの企業がどのようなオンボーディング戦略を採用し、どのような成果を上げているのかを確認することで、自社のオンボーディングプロセスの参考にすることができます。

事例1:サイボウズ【新卒社員向け】

サイボウズでは、多彩なバックグラウンドを持つメンバーがチームの一員としてスムーズに働けるように、新入社員向けにオンボーディングプログラムを実施しています。
新卒社員に向けては、「個人の自立」と「チームワーク」の2つを軸に、社会人としてのマインドセットやキャリア選択に対する考え方など、3週間の研修を通じて汎用的な知識・スキルを身に着けます。
この他にも、毎朝、同期や人事とコミュニケーションをとるための「ザツダン」の時間が設定されています。また、入社1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月のタイミングで、新入社員のコンディションをヒアリングする「オンボーディングサーベイ」を実施し、困りごとや相談などを共有しやすい仕組みづくりを行っています。

事例2:サービス業【中途採用社員向け】

従業員50名弱のあるサービス業の企業では、中途採用者に対して既存社員との全員面談を推奨しています。一人ひとりと1時間程度の時間をとり、生い立ちや趣味、仕事内容などについて雑談を行います。これによって、中途採用者が早めにメンバーについて知ることができ、相談しやすい環境を築いています。また、様々な部門や立場の人と話をすることができるので、企業全体の状況や文化などを知るきっかけにもなります。結果として、組織への適用が早く図れるようになり、中途採用者の早期離職が減少しました。

その他企業の事例

その他にも、さまざまな企業がオンボーディングで優れた成果を上げています。例えば、スタートアップ企業では、フラットな組織構造を活かして新入社員がすぐに意思決定に参加できるようにする事例が見受けられます。これにより、新入社員のエンゲージメントが高まり、創造性が促進されています。また、グローバル企業では、多国籍なチームを持つ利点を生かし、異文化交流プログラムを通じて新入社員の国際的な視野を広げる取り組みもあります。こうした事例からも、各企業が独自のオンボーディング戦略を駆使して新入社員の適応と成長を促進していることが分かります。

まとめ

本記事では、オンボーディングについて、その定義から目的、導入方法、メリット、成功事例に至るまで詳しく解説しました。事例からも、効果的なオンボーディングが社員の早期離職を防ぎ、生産性を向上させると同時に、従業員満足度の向上にも繋がることが分かります。今回ご紹介したオンボーディングのプロセスやポイントを意識しながら、みなさんの企業や組織ならではのオンボーディング施策を考え、実践してみて下さい。