労働時間マネジメントから、働き方を見直すプロジェクトへと進化

――そもそも、『スマイルワークプロジェクト』がスタートした経緯を教えてください。

坂本さん:我々が進めている『スマイルワークプロジェクト』は、2016年頃から検討が始まったものです。当初は、労働時間の柔軟性を高めるため、固定されていた労働時間をフレックスタイム制にするなど、労働時間マネジメントに関する取り組みを考えていました。しかし様々な検討を加えたところ、当社の特性などが徐々に見えてきました。第一線で働いている社員も、今後は年齢の幅が広がり、働き方も多様化していきます。 単に労働時間の問題だけを検討して社員のためになるのかという疑問が生じたのです。働く人の価値観・ライフスタイルはどんどん変化していきますが、そうした外部要因の変化に対し、会社としてどのように適応していくか、が問われていると感じました。会社や社員はもちろん、顧客にとってもより良い3年後、5年後にしていきたい。そのためには、目の前の課題だけではなく、未来を起点としてワークスタイルや組織の在り方を見直し、仕事の価値を高める必要があるという結論になりました。

そこで今回のプロジェクトは、自分らしい働き方を自己選択し、個々人が仕事の価値を高めていく「はたらきがい向上」の取り組みと再定義し、全社へリリースしました。

 

「はたらきがい」と「成果」の両方を向上させる『マネジメントシナリオ』を選択

坂本さん:方向性は決まったものの、『スマイルワーク』の取り組みを進めていくにあたり、業績向上にどのように寄与するのかが課題の一つでした。どのような方策を行うか検討する中で、スコラ・コンサルトのコンサルティングサービスに、「はたらきがい」と「成果」の向上が一つになった『マネジメントシナリオ』という仕組みがあることを知りました。成長を支援するマネジメント、そしてキャリア支援を行い、自分らしい働き方を追求する。その結果、コミュニケーションが活発になり、チームワークの醸成にもつながる。これは当社にフィットすると感じましたね。
そこからは社内に『マネジメントシナリオ』を導入するため、企画・立案を行いました。
人事としては『マネジメントシナリオ』に大きな可能性を感じていましたが、重視したのは導入に対する組織の温度感でした。

鈴木さん:現場にとっては、目の前の顧客の課題解決をしていく活動と並行し、追加で新たな取り組みに挑戦することになるので、組織の自発的な想いがないと難しいと感じていました。
そこで、仕事の意義を実感して働くことではたらきがいを生み出し、自律して成長することで顧客に貢献することにつながっていく、その成長を支援するものこそ『マネジメントシナリオ』であるということを、時間をかけて説明していきました。
自律・自走できる部署に手を挙げてもらい、間接部門が2部門、営業部門が3部門、手を挙げてくれたので、まずはそこからスタートすることになりました。

 

『マネジメントシナリオ』を導入することになった部署では、どのように展開していったのでしょうか。ここからは、実際に『マネジメントシナリオ』を導入した現場の声を聞いていきます。

メンバーを通して成果を上げるには、と頭を悩ます日々

――まずはどうして『マネジメントシナリオ』の導入に手を挙げたのか、をお聞かせください。

近藤さん:私はCAD・Creative事業部の人事課に在籍しています。主なミッションは採用と研修です。採用は、エンジニアやクリエイターといった専門職の方の採用をしています。
研修では、派遣スタッフ の方向けにCADやBIM/CIMソフトの技術スキル研修を行い、育成型の派遣やスキルアップ支援を行っています。
と言っても一昨年8月に責任者になったばかりで、どのようにマネジメントしていけばいいか悩んでいましたね。責任者になると、自分が動くのではなく、メンバーを通してどのように成果を挙げていくのかが重要になってきます。チームメンバーは目の前の仕事に一生懸命だけど、仕事をこなすだけになっている、という現状も見えてきて、私自身何もできていない、管理職としての役割を果たせていない(=メンバーを不幸にさせている)と感じていたのが正直な気持ちです。そんな時に人事からのメールで『マネジメントシナリオ』の説明会案内があり、少しは参考になるのでは、と思い参加しました。

『マネジメントシナリオ』は、これまで思ってもいなかった手法で、多くの学びがあり有意義な時間でしたね。同時に、これまでやってきたことのないマネジメント手法になるため、多少の抵抗感もありました。それでも、人生で大半の時間を仕事に使うのだから、はたらきがいを持ってもらいたい。そのためには魅力的な手段であると感じ、手を挙げました。
ただ、すぐに軌道に乗ったかと言うと、そうでもなかったですね。部署内でセミナーを開いたのですが、メンバーの中にはなかなか「シナリオ」を書けない人もいました。スコラ・コンサルトの内田さんが一人ひとりに時間を取ってくれて、何度も繰り返し丁寧に「シナリオ」 を書くための問いを投げかけてくれたのです。その甲斐もあって、各々にとって自分らしい「シナリオ」が出来上がり、徐々に浸透していった、といった感じでしょうか。

 

上の視座に立つ、とはどういうことか

――メンバーから見て、『マネジメントシナリオ』はどのように映りましたか?

 落合さん:私は採用チームに所属しており、専門的なスキルを持った社員の採用を担当しています。結論から言えば、かなりの手ごたえを感じるようになりました。ビジネス系の書籍を読んでいると、度々「上の視座に立つ」という言葉が出てきます。読んでいてなんとなくわかった気でいたのですが、それが具体的にどういうことだったのか、理解できていなかった、ということに気づかされました。

新しいことを始めるのですから、もちろん最初は抵抗感もありました。しかし『マネジメントシナリオ』に取り組んでまず「狭いところしか見えていなかった」ということに気づかされました。実際、「シナリオ」を描いてみると、我ながら「薄っ!」と思いましたね。そもそもこれであっているかもわからない。これでいいのかな、と迷いながら書き進めていきました。そこで見えてきたのが、自分は業務を回すことしか考えられていなかった、ということ。オペレーションはできていても、それが最終的にどこにつながっているのか、を認識できていなかったのです。
たとえば「お客様」は誰だったのか、といったことです。採用を行う以上、自分達の目の前には求職者がいます。面接を通して、パーソルテンプスタッフの魅力を伝え、私達のビジョンへの共感を得て入社を決めていただく。その意味でお客様は求職者であることに間違いはありません。しかしそれだけではない、ということに気づかされました。一つは上長。部署に課せられたミッション・目標を達成するために働く、気持ちよく仕事をするためには共に働く上長もまた「顧客」として捉えることができないか、と考えたのです。さらに求職者と派遣先の企業をつなぐ広告エージェント。市場のニーズを熟知している彼らの期待に応えることもまた、私達の仕事だと考えたのです。そしてその先にいる派遣先の企業。今までは目の前の「顧客」しか見えていなかったのですが、近いところから順番に考えていくことで、視野が広がっていきました。それと同時に、視座を高めるとはどういうことなのかを、身を持って少しずつ理解していきました。

もう一つ大きかったのは、チームの中で、自分の仕事の立ち位置を俯瞰できたことですね。「シナリオ」を書いてあらためて思ったのが、認識のズレです。チームの目標と自分が日々行う業務のつながりが可視化されていなかったのです。だからこそ何かやりたいと思っても、それが果たして正しい方向なのか・ずれているのかがわからず、決めきることができませんでした。そして部署内でチームワークが取れているようでも、お互いの認識がずれていて、実際はバラバラに仕事をしていたことが見えてきました。

 

「役割をこなすだけ」からの脱却

――『マネジメントシナリオ』を導入して、実際働き方はどのように変化しましたか?

近藤さん:『マネジメントシナリオ』の学びを深めていくうちに、チームメンバーが自身の存在意義を明確に可視化できていないのではないか、と感じました。たとえば、研修チームの講師メンバーは、派遣スタッフの方への就業支援・スキル支援への想いは強くあったものの、「自分達は誰のために働くのか、会社にとってどんな貢献をすべきなのか」を明確に意識できていなかったのです。

『マネジメントシナリオ』を導入し存在価値への意識を可視化することで、ただ研修をするだけではなく、派遣スタッフの「はたらく」に伴走していくことが、自分にとってやりたいことではなかったのか、ということを考えるようになってくれたのです。
そして、派遣スタッフの方の「もっと学びたい、スキルを高めたい」という気持ちに応えるために、オンライン研修やウェビナー、動画コンテンツなどを拡充し、時間や場所にとらわれない学びの場を幅広く提供する取り組みを、積極的に行ってくれるようになりました。
こうした動きは、目に見えて直接的に売上などにはつながらないかもしれません。しかし、以前は一人ひとりが与えられた目の前の役割をこなすことが仕事という認識がありましたが、現在は 自分達で考え、やってみたいことに挑戦していく、それが会社にとっての利益につながっていくと、メンバーの考え方が大きく変化しました。

 

ビジョンの共有で仲間を理解

近藤さん:もう一つ、大きく変わったのは日々のコミュニケーションだと思います。『マネジメントシナリオ』はそれぞれのビジョンや目標を共有するツールです。その過程で互いにアドバイスをもらいながら作っていくため、一緒に働く仲間への理解や、業務のつながりへの理解が大きく前進し、それがコミュニケーションの活性化につながっていますね。
私のチームは採用チームと研修チームで、それぞれミッションが異なります。『マネジメントシナリオ』を学ぶ前は、互いの業務について、両チームとも理解できておらず、他のチームがバタバタしていても「忙しそうだな」と感じるくらいでした。ただ、『マネジメントシナリオ』に取り組んでからは、小さなことでも共有するようになりました。

「こういうことやってみたいんだけどどう思う?」
「自分はこういう想いで取り組んでいるんだけど、これでいいのかな?」

そんな声かけが増えたのです。互いに「できることはないか」といった会話が増えたことで、議論も活発になりましたね。また、これまではあまりなかった社内の営業やコーディネーターなどとの会話も増えました。
『マネジメントシナリオ』に取り組むことは、確かに負担もあります。時間も取られ本来の業務にしわ寄せが行くこともあるかもしれません。しかし以前は日々、業務に向き合う中でゆっくり考える暇はありませんでしたが、『マネジメントシナリオ』に取り組む時間を無理に作ったからこそ、本来なら最初に共有しておかなければならないことを互いに認識することができたのだと思います。

 

未来に向け『マネジメントシナリオ』の位置づけを模索中

――今後の展開などをお聞かせください。

近藤さん:『マネジメントシナリオ』によって、メンバー全員で目指すべき姿を共有することができました。さらにワンステージ上を目指せるようにしていきたいですね。今では『マネジメントシナリオ』は課を超えて事業部全体をよくするための起点となっている、という声も課内でよく聞くようになってきています。

鈴木さん:人事としては、手を挙げてもらった部署から、さらに全社へ広めていきたいと考えています。今回、『マネジメントシナリオ』の効果は思ったより汎用性が高いことを認識しました。目標などを数字に落とし込む部分も多いため、営業部門で力を発揮すると考えていたのですが、近藤のように間接部門でも大きな効果がありました。それぞれ個別にあったチーム、そして社員の成果、キャリアビジョン、目標をつなげて可視化し、共有することで、副次効果も大きいと感じています。傍から見ていても、『マネジメントシナリオ』を導入した部署では社員間の雰囲気が良くなり、会話の質が非常に高まっていると感じます。数値目標の共有だけでは知りえない、互いが何を目指しているのか、といった個の深いところまで共有できたのが大きいのではないでしょうか。


『マネジメントシナリオ』はチームと個人それぞれのミッション、ビジョン、戦略を1シートで表現する思考プロセスです。このシートを使って仮説検証のサイクルを回すと視座が高まり、「仕事に追われる状態から、仕事を追う状態に」変化していきます。まさに今回、パーソルテンプスタッフではこれが大きな効果を発揮しました。今後は事務局の方々でこの取り組みを広げ、自走していく形を目指しています。