メンバーがwebでつながって在宅で働くテレワーク環境は、業務の効率だけではなく、放っておくとメンバー同士や会社との関係性が薄れていき、従業員エンゲージメントを低下させるからです。多くの職場で起こっているこうした物理的、心理的な“分断状態”に対して、マネジャーは手の届くところで何ができるのでしょうか。

身の回りの変化で生じるメンバーの不安を取り除く

今まで同じフロアでメンバーの顔を見ながらマネジメントしていた部課長が、メンバーとのリアルな接点が減ったテレワーク体制に戸惑いながらも、分散しているメンバーをどうマネジメントすればいいのか、今までとは違うスタイルを模索しています。

複数の企業で聞いた〈課長の不安と悩みトップ3〉

1.忙しそう、順調そう、困っていそうだなど、リアルのオフィスでは感知できたメンバーの状況が一気に見えなくなった。どうやって一人ひとりの実状や気持ちを把握すればいいのか。日々のコミュニケーションをどうすればいいのか。

・Zoomミーティングでは「問題ないです」と聞いていたが、じつは誰にも相談できずに悩んでいた。
・口数の少ない人は、オフィスでは目が届くので気にかけていられるが、Zoomでは目立った発言がないと目につかないために存在感が薄くなる。何か起こっていても気づきにくい。

2.業務・工程管理、労務管理を遠隔でやるにはどうすればいいか、日々手探り状態。ずっと姿が見えていないと適切な管理・調整ができない。過程の管理は無理なので「信じる」「成果を把握する」ことが大事なのではないか。

・在宅だと勤務時間を決めていても、責任感から自己判断で超過勤務をした場合は把握できない。
・進捗は問題ないと聞いていた件が、じつはスタックしていた。目で見て勤務の実態を確認できないため、言葉どおりに受け止めるしかない。
・現物や現場を一緒に見ながらの打ち合わせなどはオンラインのデータ共有ではうまくいかない。

3.このままテレワークが続くと、メンバー間や、個人と会社との間に距離ができてしまうのではないか。方針のもとに職場の一体感、求心力をどうつくっていけばいいのか。もともとの関係性の濃淡がまともに出てしまい、個々の仕事の進め方にもバラツキがあって、チームワークが低下している。

・気がつくといつも同じメンバーで話をしている。以前から距離があったメンバーとはますます話さなくなっていることに気づいた。
・方針について、仕事の中で折々に伝えることができないため、方針の徹底をするのが難しい。個々の判断に委ねる場面が増えて、結果的にズレていることも。
・メンバー全員と顔を合わせるのは月1回の会議。もともと口数の少ない職場で、Zoomでも自宅のPCにカメラが付いていなかったり顔を見せない人がいて、溝ができているのを感じる。

また、立ち話のような雑談がなくなり、社内情報がタイムリーに伝わりにくくなった。小耳にはさんだりする情報の下地がないと、突然大きな通達が下りてくるように感じ、会社の方向性がつかみにくくなったという声も耳にします。

オフィスという職場のホームベースをはじめ、いろいろな面で今まで当たり前にあった拠り所が消えたことで、メンバーの帰属感やチーム感は薄れます。メンバー同士の連携が弱くなると、リモートではマネジャーも目配りしきれないため、仕事の流れやスピードに影響が出てきます。

まずは、寸断された職場のつながりを回復する手当てをする。心理的に安心・安全を実感できるコミュニケーションによって、身の回りの環境変化に対するメンバーの不安を取り除き、新しい働き方に早く慣れて仕事が回るようにすることがマネジメントの急務といえるでしょう。

手の届くところで関係を温めるコミュニケーションの工夫をする

目下のビジネスが直面する混乱への対応や、今後の回復、成長にも関わってくるだけに、いかに早く職場を新たな環境に適応させてメンバーの意欲を高め、協力・連携するチームの力を発揮できるようにするか、マネジャーの気持ちは焦ります。

しかし、日常のタスクマネジメントさえおぼつかないのがテレワーク体制の現実です。目視のきかない不安をマネジャーが乗り越えるためにも、心理的安心感の上にメンバーの自発的な相談や助け合いが生まれるような関わり方として、限られた手段であるコミュニケーションを見直してみることが大切です。これはテレワークで危惧される従業員エンゲージメントの低下に手を打つことでもあります。

いい関係というのは本来、温かいもの。そこでコミュニケーションのポイントにしたいのが「温度感」です。

在宅ワークの一人仕事による孤立や情報不足、業務や組織の変更、評価や業績、さらには先行き不安など、さまざまな不安は気持ちを冷やし、場合によっては会社に対する不信感にも転じます。エンゲージメントの低下要因でもある、この「気持ちの冷え」を解消するのが、熱意や思いの伝わる双方向のコミュニケーションです。しかも可能なかぎり密に、日常の業務マネジメントの中でも温度を高めたやりとりをすることで、毛細血管のようにじわじわと関係を温めていくのです。

先日、おつきあいしている会社の部課長に、テレワークのメンバーとのやりとりで工夫をしていることについて聞いてみたところ、比較的うまくいっている部課長が実践していたのは以下のようなことでした。

✔会議の前に全員でちょっと「最近どんな感じで毎日過ごしてる?」「プライベートはどうしてる?」など雑談する。

✔一日1回決まった時間に10分ぐらい、課の全員またはチーム単位でZoomごしに話をする。今やっている自分の仕事のことや、仕事で共有したいことなど、ちょっとした話をするだけでもみんなの表情がなごむし、身近に感じられるようになる。

✔進捗管理や労務管理は細かくやらない。基本的に信頼して任せている。必要な進捗チェックは当然やるが、口頭だけに頼らず、アウトプットも一緒に見るようにしている。

✔若手だけで毎日15分ほど話し合う機会をつくった。困りごとの共有や、ちょっとした改善を自分たちで相談してやるようになった。

✔気になるメンバーとは短時間でもいいから1対1で話す。問題について話し合うような構えで緊張させないよう、雑談を交え、質問は抑えぎみにして気楽な雰囲気をつくる。

✔若い人は意外とwebのほうが活発に発言する。それを生かし、テーマを与えて発表してもらうなど存在感を発揮できる機会をつくる。

✔テレワークでは、新入社員が業務や人に慣れるのに時間がかかる。新人の出勤時は、必ず中堅クラスが一人ついて相談にのるなどサポート体制をとる。

✔特に顔を合わせる機会が激減するのは他部署。共通の仕事がないかぎり接点がまったくなくなったため、同じ階層同士で会社の状況や部下のマネジメントを含めた仕事の状況を共有したり意見交換をする対話の場をつくった。

エンゲージメントの下地づくりは「上司の手仕事」で

気持ちの通い合うコミュニケーションは、立場を離れて、自分の言葉で「気楽にまじめ」に。まとまった時間を取れるときは、業務上の話を離れて、今それぞれが感じていることやモヤっとすることなどを、少しじっくりと聞き合い、話し合う。日々の業務の中では会議・ミーティングの前後の数分や、定期的に10分程度の時間を取って、気楽な雰囲気で雑談をする。お互いの心理的な距離を縮めようとする上司の働きかけの努力は、部下のものの言いやすさや問い返しのしやすさを引き出し、仕事の早さや質、連携にも影響してきます。

上司と部下の関係を超えて「この人なら安心して相談できそう」「この上司の考えは共感できる」「この人は自分の状況をわかってくれる」と安心や信頼が引き出されるのは、やはり上司の手仕事から生まれる“人対人”の温かい関係なのです。

マネジャーの手の届くところで実践する日常的なコミュニケーションの努力は、まずはやり続けるだけでも、じわじわと効いてきます。熱を伝え合う関係、温かい信頼関係は一足飛びに進むものではなく、それなりに時間がかかります。やり続けることでお互いに筋力がついて、血流が良くなり、関係も温まっていく。そういう意味では筋トレにも似て、一夜にして成らずなのです。