今回は、プログラムの中で出会った、「地域を良くしていきたい」という思いを持った当事者たちの産学連携を通じた取り組みの概要と、その成果をご紹介させていただきたいと思います。

プログラムの概要

「信州大学 信州100年企業創出プログラム」は、2018年に中小企業庁のモデル事業としてスタートしました。続く2019年には、信州大学に加えて「金沢大学 共創型観光産業展開プログラム」もスタート。どちらも特定非営利活動法人SCOPと株式会社日本人材機構が中心となり、地元の大学や企業と連携して、首都圏の中核人材を地域企業にマッチングし、定着を図っていく事業として展開しているものです。

この事業の目的は、人材の首都圏一極集中を是正して、地方へと人材を流動化するというエコシステム(生態系)を形成することにあります。
事業内容は、大学が首都圏にいる企業や個人で活躍する人材を、まずはリサーチフェロー(研究員)として受け入れ、リサーチフェローは大学内に設置される特設ゼミに所属しながら、地域企業をフィールドに研究・実践を行い、企業の経営課題の解決と将来構想の策定に取り組みます。1週間のうち3~4日企業に出向き、1~2日は大学のゼミで企業の課題解決(あるいはソリューションの精緻化)に必要な知見を教員や特任教員たちから学びます。

私たちは、このプログラムの一部でリサーチフェロー一人ひとりの進捗状況に合わせて、経営課題の解決に向けたシナリオを一緒に考えるディスカッションの場をサポートしています。場には、他のリサーチフェローも加わることで、同じように現場で苦労を重ねている仲間だからこそできる気づきやアドバイスが生まれてきます。ディスカッションから次のアクションのヒントを得ることで、リサーチフェローたちは、自信をもってまた現場に戻っていけるようになるのです。

プログラムの成果

リサーチフェローを受け入れた企業側は、プログラム参加費を支払うことで、首都圏で活躍する高度な経験を持った人材を自社の課題解決に活用できる機会を得ることができます。プログラムの成果報告会では、受け入れ先企業の社長や従業員から、「新しいビジョンを示してくれた」「若手社員がリサーチフェローの働きに刺激を受けていた」「職場の雰囲気が明るくなった」といった、前向きな感想が多く出されました。
半年という短い期間にも関わらず、リサーチフェローが果たした役割が大きいことがわかります。

そして、プログラム終了後は、本格的に派遣先企業に雇用/就職するかどうかについて、企業とリサーチフェローで相談しながら決めていくことになります。
本プログラムでは、半年を超える時間をかけて企業とリサーチフェローがじっくりお互いを見定めることができるため、就業におけるマッチングミスが生じにくいと言われています。また、新しい働き方を創出する狙いもあり、従来の地域企業にはなかった終身型雇用以外の兼業型、パラレルキャリア、協業などさまざまなかたちで将来の関係性を構築する可能性が広がっています。

大学側にとっても、地域企業に人材を供給するための新たなソリューションを提供することで地域貢献が高まります。さらに、際立った成果を出したリサーチフェローには“客員教員”の称号を付すことによって、大学の産学連携事業を継続・進展していくことにもつながります。もちろん研究活動を進めるリサーチフェロー側にとっても大学での教育や研究に継続的に関われるというメリットがあります。

今後の発展に向けて

プログラムは半年で終わりますが、約半数の研究員はそのまま企業に残り、正社員として、もしくは外部パートナーとして支援企業や地域での新しい動きに関わり続けています。昨年は、信州100年企業創出プログラムの1期生が中心となって「信州大学 あしたシナリオ創造ゼミ」が立ち上がりました。プログラムを通じて“地域経済を支える人材は地域企業の中にいる”ことに気づいたリサーチフェローの想いが起点となっています。

私たちも引き続き変革のシナリオづくりを支援しており、20代~30代の熱い思いを持った人(コアメンバー)が多く参加され、お互いに励まし合い、一緒に新たな一歩を踏み出していくことできました。このような輪が広がり、ネットワークできることは、地域にとってかけがえのない活性化の資産になることでしょう。産学のつながりが地域の発展を可能にしていくのだとの手ごたえを感じることができ、私自身とても勇気づけられました。