こういう非常時には、「不要不急の外出を控え」待機することになる方が増える一方で、一早く現場にかけつけて「不眠不休で対応に追われる」方がいるものです。
中でも、公務員の方々は、“住民の生命と財産を守る”使命を果たすべく、後者の役目を担っておられるわけですから大変でしょう。

非常時に想定外の課題に対応するにあたっては、「迅速」かつ「柔軟」に判断・行動することが求められます。
それには、平常時から異常を敏感にとらえる「感受性」と、ゼロベースで新しい方策をイメージする「発想力」を持ち、立場を越えて助け合える「横のつながり」を備えておくことが大切です。

公務員は、日常業務において法律や規則などに関する知識をベースに法令や上司の指示命令を遵守し、与えられた職務や役割の範囲内で難なくこなすことに注力しています。
それを非常時だからといつもと全く異なるアプローチを急に求められても、すぐには身体が反応できないことがあるのではないでしょうか。

そこで、非常時の想定外にも力を発揮できる職員になるために、日頃からわずかな努力でできる準備運動のポイントをお伝えいたします。

(1) まちに出て、歩いて回る

災害時には、木が倒れたり、道路が陥没していたり、異常を訴える通報が絶えません。
しかし、異常が発生しているのは、通報される大きな被害ばかりとは限らないものです。
高齢者や障がい者など、必ずしも異常を訴えられるとは限りませんから、声なき異常をも察知する感受性を持っておく必要があります。

それには、役所の窓口で相談を受けるだけでなく、日頃から、「ゴミを拾う」「イベントの案内チラシを配る」「地域の集会に出る」など業務に限らず積極的に地域に出て行く機会をつくり、自分の目でまちを見て歩く時間をつくる、そんなことが異常時の問題発見力につながります。

ジョギングやウォーキングが趣味ならば、健康増進を兼ねて行なってもよいですね。
できればその時々に、「とある人」に成りきってみることがお勧めです。
例えば、「サッカー部で活躍している中学生なら」「最近まちに越して来た新婚の奥様なら」「老々介護に追われている高齢の男性なら」「空き巣を狙っている泥棒なら」など。
目線を変えて見ると、いつもとは違った景色、情報が飛び込んで来くるはずです。
見方を変えれば、気づく力も増してきます。

(2) いつもと違うやり方をする

異常時には、「あるはずのものがない」「来るはずのものが来ない」と慌てることがしばしばです。
しかし、いつも同じパターンで仕事をすることに慣れていると、違う発想がなかなか浮かんで来ないものです。
これでは、意欲があっても問題の解決には至りません。

そこで、日頃からちょっとしたイレギュラーなことがあったときにそれをチャンスととらえ、いつもと異なる方法にチャレンジする習慣をつくってみるといいでしょう。

隣の人が休んだら、代わりに電話に出て応対する、普段メールしている部署に歩いて通知を届けに行ってみる、いつも作ってもらっているお弁当を自分で
つくってみる、最寄駅と違う駅で降りて帰るなど。小さなことから毎日一つずつ、ゲーム感覚で試してみたら、その方法を考えるだけでも、ずいぶんと思考が柔らかくなるものです。
もし可能なら、職場の朝礼で、週に1回、みんなでできる違うやり方にチャレンジしてみてもいいかもしれません。

水が出なければ、電気がつかなければ、電車が通じていなければ、店に物がなければ、いざというときに求められる対応力は想像をはるかに超えるものですが、創造力は想像力を超えては生まれてこないものだと思えます。

かつて、私は、新幹線でイチローに会ったときに、サインをしてもらいたくても鉛筆しか持っておらず、残念な思いをしたことがありました。
この話を異業種交流会後の飲み会で、私がイチローと握手をしたとのエピソードとして語ったときに、みんなは笑っていましたが、
その横でトヨタ自動車の社員だけが、下を向いてぶつぶつと「口紅、まゆずみ」とつぶやいていたのです。
それは、トヨタの改善手法の中で、常に「もし・・・がなかったら」という思考のトレーニングをしていた習慣から、彼女が導き出した筆記具の代替物でした。
私は、改善の思考習慣が瞬時に働く脳の鍛え方にとても驚かされました。

「思考」を変えることには、訓練が必要です。
それでも、思考は行動と表裏一体となっていることがあるため、行動をちょっと変えてみることが、思考を変え、発想を生むきっかけになることがあるのです。

(3)他の組織の人と一緒に活動する

想定外の課題が舞い降りて来ると、当然想定外の解決策が必要になり、その実行プロセスにおいていつもと異なるパートナーと力を合わせることが必要になってきます。

しかし、日頃組織の肩書を背負って仕事をしていると、他の組織の人と一緒に仕事をするためのハードルはずいぶんと高くなっています。
通常ならば「誰と関わるか部署、役職、担当者を指名する」「所属長の了解を得る」「日時を指定する」「通知文を出す」「協力を依頼する」「役割分担を調整する」など、かなりの工程を経る必要があるからです。

非常時には、そんな手続きを踏んでいる余裕はありません。
自部署の上司とさえ連絡がうまくつかないことがあったりします。
そんなときには、自ら直接相手と向き合い、「まずは、これでやりましょう!」と、リスクを伴う判断をして、合意を得る交渉をしなければいけない場面が大なり小なり出てくるでしょう。

それには、日頃から異なる部署や地域の団体、他の自治体の人と一緒に行動して、どこまでなら頼めるか、どんなことなら任せてもらえるか、ある程度見込みをつけられるぐらい日頃から成功と失敗の経験を積み重ねておくことが役立ちます。

昔なら学生時代には文化祭が、地域にはお祭りが、会社には運動会などのイベントがいくつもありました。一緒に事を成し遂げるプロセスは、チームワークをつくる訓練の機会になっていたのかもしれません。
しかし、市町村合併をして出身の違う職員どうしが一つの組織になり、また、パワハラやセクハラ、個人情報の取扱が厳格になった今日では、同じ庁内でさえ人と人の関わりが希薄になってきています。

それゆえ、どんなに些細な場であっても、人と人が組織を越えてランダムに関わり、つながり、共に活動できる場を敢えてつくり出す必要があるのだと思えます。
最近では、庁内やまちづくりでオフサイトミーティングの場をつくる職員も出てきました。地方創生のためのワークショップやイベントも見受けられます。
いつ、誰とどのように関わるかの、関わり力を体得する機会と思ってこのような場に参加してみるのも一つです。

1) まちに出て、歩いて回る → 感受性を高める
2) いつもと違うやり方をする → 発想を豊かにする
3) 他の組織の人と一緒に活動する → 人と関わる力をつける

自分の身の回りからできることをみつけて、試してみてはいかがでしょうか。