企業が時代を越えて持続する存在だとするなら、改革の真の成果は「変化し続けることで常に選ばれる企業になる」ことだと私は考えています。

ここでは、企業の顔である商品や事業の「強み」(=潜在的な財産)を応用力で最大化し、その取り組みを“伸び悩む経営の突破口”にしていく、変化対応のアプローチをご紹介したいと思います。

賞味期限の切れた「強み」を見直す取り組み

思えばコロナショックのずっと前から、人口減、少子高齢化がさまざまな分野に影響を与える2020年問題がありました。
企業にとっては、市場の縮小や事業継続、雇用をはじめ近年の災害リスクや脱炭素化なども加わり、雪だるまのように膨らむ複合的な課題への対応を迫られる時代です。
事業の課題解決にも今までとは違うアプローチが必要になっています。

企業規模の大小にかかわらず、今日の企業が抱える課題はそのまま国にとっての課題でもあります。
私たちも少し前から地方自治体と一緒に、地域産業支援として地場企業の経営改革をお手伝いする機会が増えてきました。

2020年問題の影響は地方に行くほど深刻です。当然、東京や大阪のような大都市、大消費地ではありません。
雇用の受け皿になる企業がなくなる、伝統的な地場産業や商業地がさびれるなどして人口流出が進み、地域全体が魅力や勢いをなくしています。
地場企業の多くは本業の伸び悩みで経営基盤も弱いことから、一見すると「打つ手なし」と思われがちなケースです。

足りない点のほうに目を向けると確かにそうかもしれません。
しかし、従来の事業が持つ「強み」の賞味期限が切れただけで、資源が枯渇しているわけではありません。
これまで顧客に支持されてきた本業の「強み」は、会社が蓄積してきた有形・無形の財産を源泉にしています。
そこにさかのぼって、また新たな強みを見いだし、商品・サービスの革新につなげていくことで、本業を若返らせることは可能なのです。

たとえば、着物の縫製を本業とするBtoBの企業では、自社企画で定期的に「着物の文化祭」というイベントを始めました。
そこを新たな情報発信の場として、着物のリメイク、着物のコート販売、着物のダイレクト受注はもちろん、長襦袢(着物の内側に着る肌着)のアップサイクルや、シルク素材のベビードレス開発にも着手しています。
着物を知り尽くし、なんでも縫える技能を生かして、エンドユーザーとダイレクトにつながる新たなビジネスの局面を開いたのです。

「着物を縫う」会社から、「着物の素材を生かす」会社へ。
市場の変化に合わせて、自社の新たな「強み」を掘り起こすことで事業の新陳代謝は進みます。
前提となるものが変わることで、仕事の進め方や組織の動き方、メンバーの意欲や姿勢もまったく変わってきます。
このような取り組みは、経営にとって短期的なインパクトが大きいだけではありません。
長い目で見れば、会社が持続していくために変わり続ける力を育てる改革でもあるのです。

答えの見えない取り組みには「変化の練習場」が必要

自社の財産として「有るもの」から、世の中に「無いもの」を創出して、全体変化の突破口にする。
これは、やってみなければ答えが見つからない取り組みですから、変化のイメージや変わり方を学び、チームで実際にトライ&エラーをしてみる、学習と実践のための「変化の練習場」が必要です。

たとえば、学習の場では、時間と空間を広げて創業からの歴史をひも解くことから始めていきます。
自社の根幹にある技能・技術や経験・知恵などの本質をつかむことができれば、それを応用展開していくイメージもおぼろげに見えてきます。

この、社員と経営の拠りどころである自社の財産の掘り起こしと、財産のポテンシャルを引き出すような脱常識の新しい価値観の見つけ方が、「有るものから無いものを生み出す」プロセスの最大のポイントです。
いわば、「ぶどう」という財産を「ワイン」という価値に転化していくための考え方やプロセスを、自社の事業の現場で実践し、みんなで「やってみる」体験を共有しながら体得していくのです。

とはいえ、前述のような厳しい条件下にある地場企業の場合は、改革にあまり時間がかけられません。
そのため、事業・商品と人・チームの成長が一体で高まる条件を「変化の練習場」に凝縮し、“自社の財産をチームの想いで全方位的に展開する”プロセスを短期のプログラムで進めています。
支援のコンセプトは、「今ある資源を足場にした飛躍で、お金をかけずに、生き残る」。
人の成長力と会社が培ってきた無形資産、顧客との関係性を資源として最大限に活用します。

その場合も、関わるメンバーの課題意識と自らの意志でやることを特に重視しています。
なぜなら、顧客に向けた変化の取り組みは会社の利益につながると同時に、社員のやりがいや誇りにもなります。
取り組みの持続にも関わるこの好循環を成り立たせるためには、メンバーの主体的な参画が必須条件なのです。

打つ手なしに見えても「突破口」は開ける

私たちの支援プログラムに共通する特徴は、「自社資源を応用展開する
商品・サービスを、当事者が自分たちで考え、チームの意思と力で自律的に進める」状態をつくること。
1回きりの結果を出して終わりではありません。
変わる環境とともに自社の事業や商品の持つ意味を考え、提供形態や販路なども含めて見直し続ける仕事の思考、それを形にしてトライ&エラーを重ねる文化・習慣が根づくことを目的にしています。

これは地域産業支援に限らず、企業においても基本は変わりません。
事業ポテンシャルをあらゆる形で引き出すプロセスを通じて、人と企業の成長をめざす、課題別の風土改革アプローチです。

プログラムに参加する企業は、もちろん現状の経営への危機感も大きいのですが、業績回復や向上は通過点として、もっと先の10年後にはどうなっていたいか、そこに近づくために必要な商品・サービスの革新にチームで継続的に取り組んでいます。
さらに、税収面では運命共同体でもある自治体というスポンサーとの間には、地域の再生・発展という共通の願い、大目的があります。
自治体が呼びかけることで、自社の改革の視野を広く持ちながら、参加する企業同士が相互学習する場を拠点に、オープン連携で商品・サービスを生み出すワークショップを行ない、共同で作成した地域課題の解決活動の展開シナリオをもとに、個々の企業の現場でさまざまな挑戦をしています。

「選ばれ続ける会社」になるための急転回は小回りで

想定にないことが次々に起こるニューノーマルの今、前年対比で設定した目標を達成していく強化型の計画だけでは成長のシナリオを描けなくなりました。
頭ひとつ抜け出すことができているのは、「今、これからの社会には何が必要なのか」を商品やサービスでいち早く顕在化させ、共感と利便性によって需要創造を果たしているビジネスや商品です。

しかし、そんな正解は最初から見通せるわけがありません。だからこそ重要なのは、正解に早くたどりつくための動き、自社の財産を人の想いで全方位的に展開する変革のプロセスと、チームの育成だと私は考えています。
自社の事業や商品を支えてきた財産を掘り起こし、顧客とのやりとりの中で新しい価値を見つける。事業や商品・ビジネスを革新するとともに、自分たちを変えていく。そんな、ぶどうがワインになるような変化の取り組みが新日常の仕事ではないかと思います。

当然、それは一足飛びにはいかないからこそ、新しいことに取り組む動き出しの早さと、小回りな試行錯誤のサイクルを回すための「変化の練習場」が有効だと感じています。

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