今まで見えなかったもの、見る必要のなかったもの

世界的な需要の減退、減収減益、経済のマイナス成長という先の見えない状況の中で、企業はこの変化に必死で向き合おうとしています。

「工場の生産をストップしている間に、設備の総点検をしています」

好景気に支えられ、右肩上がりの成長を続けてきたA社も、今は受注量が1/3に減り、24時間フル稼働の二交代制を一交代制に切り替え、週4日の操業で生産を調整しています。生産がストップした工場は、嘘のようの静けさで、稼働しているときには聞こえなかった蒸気漏れの異音などの異状が手にとれるほどに、わかるようになりました。状況が変わると、今まで見えなかったもの、見る必要のなかったものが、いろいろと見えるようになります。

 

こういった状況の中で、企業はこの変化に真剣に向き合い続けています。生産量、受注量など売上の減少の中で、まず真っ先に目が向くのは、費用の見直しでしょう。

「内製することはできないか」「本当に必要なものか」「やめることはできないか」など、どの企業も今まで以上に踏み込んだコスト削減を迫られています。

A社では、減産を受けて現場に余裕ができ、月に2回、2時間程度の改善活動に力を入れ始めました。今までも改善活動は、方針として義務づけられ、全社レベルで行なわれてきましたが、これを機に勤務時間内に改善活動にあてる時間を確保し、日常業務に組み込んだのです。

 

この変化をきっかけに、今まで見えなかったこと、見ようとしなかったことが次々に見え始めました。特に顕著だったのは、現場の社員が話し合いを通じて協力しながら問題を解決していく本来の現場の力が予想よりもはるかに落ち込んでいることでした。

各職場が改善活動の時間を確保したまではよかったのですが、いざメンバーが集まってみると、「誰からも意見が出ない」「意見が出ても、その後どう扱っていいのかわからない」という職場が続出したのです。それには、改善活動の結果のみが管理されていた、という背景がありました。

改善件数の目標さえ達成していれば、そのプロセスは問われないため、職場の監督者が一人で改善活動に取り組むということが長きに渡り続いていたのです。現場では改善活動が活性化していない、そもそも、活動自体が実質的に行なわれていないことは、誰もが認識していました。

しかし、右肩上がりの成長の中では、「忙しいから時間が取れない」などの理由をつけて、あえて問題化しないことを許す雰囲気が組織の中に内在していたのです。

A社ではこの状況を真摯に受け止め、チームで問題を解決していく本来の現場力を取り戻すべく、マネジメント層が動き始めました。

一歩踏み込んで現場を知り、現場力とは何なのか、改善活動は何の意味があるのかということをとことん議論し、実態に即した現場支援ができるように動いたのです。

向き合うことで見えてくる本質

大きな変化は、今まで隠れていた物事を見えるようにし、その事実に深く踏み込む動機を与えてくれます。企業が、この大きな変化に向き合っていこうとするならば、見る必要に迫られているコストをカットしながらその効果をはるかに上回る組織の力を維持、向上させていくことにつながっていきます。

これは、ある経営者の方が口にしていた言葉です。

「本当に厳しい時代というのは、この不況が一息ついた後に待っている、本物が見極められる時代、真の生き残りをかけた戦いが始まる頃だと思っている」

本物や本質というのは、見て見ぬふりをしてきたものに向き合うことによって強化されていく、組織本来の力によって、生産性を上げていくことです。

組織の生産性が上がるということは、コストが下がるという重要な側面をも含んでいるのです。