デキる店長、「部下を変えたい」

店長の大見さんは責任感の塊のような人。当然、売上目標達成へのこだわりも強い。陰のあだなは「ジャイアン」。一度決めたら引かないという姿勢を見て店舗スタッフがつけたものだ。

営業会議では、予算未達のギャップを埋めるための対策を細かくメンバーに指示し、競合対策にも余念がない。店はトップセールスマンでもある大見さんの意見を中心に運営がなされていた。

しかし、予算と実績のギャップはなかなか埋まらない。店舗スタッフを見ていると、「おもてなし」を重視すると接客時間が長引き、客数に対応できない。「商品説明を徹底」すると、十分に話を聞くことなく商品の説明に時間をかけるためにお客様から納得を得られない。

これらが、自分の仕事と組織の目的のつながりを深く考える機会を奪い、結果、社員の成長速度を減退させていることにつながっているのです。

売上と親身な応対とが、なかなか両立しない。大見店長は両方できていた人だから、できない人の気持ちがわからなかった。

3キロ先の九条店にいる加藤店長は大見店長の同期である。彼は店長業を楽しんでいたし、店舗スタッフの表情にも輝きがあった。

加藤店長の言っていること「お客様のパートナーとなる」は、自分の言っていることに近い。「もっと俺の言うことをわかってほしい」という一方的な気持ちで、大見店長は自店のスタッフを研修という形で九条店に派遣することにした。

ジャイアンが泣く

研修後、加藤店長を招いて東店で店舗スタッフミーティングをした。そこで大見店長は、言っていることはほとんど一緒なのに、加藤店長が言っていることはみんなに深く伝わり、自分が言っていることはそれほど伝わっていないという現実に直面した。

「お客様にありがとうと言うのは半人前、お客様からありがとうと言われて一人前、それがパートナーということ」といった仕事へのこだわりから発せされる言葉には説得力があった。なにより加藤店長は、とにかくメンバーの話を聞いている。自分が喋っているのは3割、あとの7割はメンバーが喋っていた。

加藤店長のミーティングの進め方を見ながら、大見店長は自分のいたらなさに涙がこぼれてきた。さらにミーティング後の懇親会では、「おまえは本当のところ部下をあてにしていないだろ」という加藤店長の言葉に堪え切れず、飲む暇がないほど大泣きに泣いた。

パートさんも含めて全員で運営する

自分は加藤店長のように「売り込まなくていい」とは言えないが、「全員で勝つ」ことにはこだわれる。今までは、全員を4番バッターにしようとしていたのかもしれない。

それからの大見店長は、今まで意見を聞くことが少なかったパートさんにも積極的に意見を出してもらうように心がけた。すると、いつもお客様と応対している第一線の人たちだからわかる、自分の気づけなかった意見が山のように出た。

一番お店のことを考えていたのは、一定期間で異動になる社員ではなくて、その地域で今後も働き、生活していくパートさんなのかもしれない。

今まで自分が無意識に引いていた「戦略を考える人と指示を受けてやる人」という境界線。この境界線が、自分の顔色と指示でしか動けない店をつくっていたのかもしれない。

大見店長のマネジメント改革がはじまった。

「考える人とやる人」の可能な限りの一致をめざす

「高業績よりも好業績を」。それ以来、大見店長の発信し続けているメッセージである。

高業績とは、今までのような、大見店長の発案で動くことで一定期間に得る業績。好業績とは、店舗スタッフと一緒に考えて導き出した結論で得られる業績。

好業績の実現をめざして2カ月目、お客様から「最近雰囲気がいいわね」とほめられた。4カ月目、今まで低かった覆面調査で100点を取ることができた。6カ月目、業績が上がり始めた。

自分も含めてみんなで決めたことだから、失敗しても気づきがあり修正されていくことが、今までとの大きな違いだった。

大見店長は加藤店長と一緒に、この6カ月の自分自身の変化について話し合った。

大見店長の決めたマネジメント新6カ条

(1) 部下の意見を評価しない、意見の理由を探る、聞く

(2) その場ですぐに意見を求めない、考える時間をもってもらう

(3) 競合店調査も大事だが、振り回されない

(4)結果の管理よりも結果を生み出す「要因づくり」に知恵を出し合う

(5)店舗施策の項目は「みなが乗れるもの」という要素も判断基準とする

(6)自分の店をよくするのではなく、会社がよくなることを考える

現在、大見店長率いる東店の店舗ミーティングには、他店舗からの店長の参加が増えている。彼らはメンバーの発言量の多さに驚き、以前の大見店長が加藤店長との比較で感じた「本当は部下をあてにしていない自分」を感じる店長も多い。

大見店長と加藤店長は、さらに「自由闊達なロマンのある保険サービス業になる」を旗印に掲げ、自分たちのことを「世話焼き人」と評して変革に取り組んでいる。