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今回の後編では、なぜこの3人の果たすべき責任が変わっていったのか、3人の仕事に対する認識がどう変化していったのかについて、お伝えしたいと思います。

変化を阻害していたものは何か

通常、社員の方の多くは「与えられた立場」「できること」「手段」という3つの起点から自分の仕事をとらえ、その範囲内で責任を果たすことが当たり前の仕事し方になっていると言えないでしょうか。3つの考える起点とは、以下のような起点です。

与えられた立場で考える
⇒「自分の責任範囲を越えてはいけない」

たとえば自分が営業部門なら、数値が達成しないのは自分たちの努力不足と考え、全社を代表して顧客の要望をフィードバックする責任を果たしにくくしている。

できることから考える
⇒「制約条件を疑わない。自分のできることを限定している」

たとえば商品企画担当者が、商品開発プロセスに違和感を感じていたとしても、できる範囲での最善策を求められる。結果として、商品力向上の芽を奪ってしまっている。

手段中心で考える
⇒「指示をいかにやるか、どのようにこなすか」

たとえば、経営の意思が決定した事項の真の目的を理解しないままに実行することを求められる。何が問題で、何を解決する必要があるのかという思考プロセスを持たないままに、日々の仕事を作業としてこなしてしまう。

これらが、自分の仕事と組織の目的のつながりを深く考える機会を奪い、結果、社員の成長速度を減退させていることにつながっているのです。

3人は何を変えていったのか、身につけていったのか

「会社」というチームの中で貢献し始めた3人は、仕事の目的と自らの役割について深く考える機会を、「総業務時間の25分の1の対話」の中に見出していったのです。
そして以下のような経験をしながら、自らが変化する環境を整えていきました。

(1) 思いを共有できる人を見つける ──仲間の存在

居酒屋ではなく会議の場で、問題について率直に話し合え、相談できる人を見つける。

(2) 人(特にトップ)を「引き算(弱み)」ではなく「足し算(強み)」で見る、新しい見方を持つ ──人間観

トップにもできない事があるのが当たり前、自分がその弱みを埋めるなり、トップの強みを生かせばいい。

(3) 自分にとって意味のあること、納得できることを行なうことを大事にする ──自分起点で考える

会社がよくなることは、自分がよくなることとつながっている、という実感を持つ。

(4) 自分の役割を立場だけでなく考え始める ──役割の再認識

営業マンだから、年下だから、といったことを言い訳にせず、「わが社」を主語に考え始める。

(5) 近い将来のありたい姿を仲間と描き始める ──目指す姿への参画

3年後や5年後に責任を持つ一人として、経営にも参画し始める。

「わが社、3年後を自分起点で考える環境がなければ、経営するのは私一人でした」

経営者の悩みの一つに「自分一人だけが会社の将来のことを考えている状況をなんとかしたい」があります。この状況を打開するために、たとえば経営計画づくりに参画させる、目標管理制度を導入して、自ら目標立案してもらう、権限委譲をして自ら判断して動かす機会を増やしてみる、方針の理解を促すための説明会の回数を増やすなど、さまざまな試みをされていると思います。
こういった試みは大切ですが、「経営が考える機能を担い、社員が実行する機能を担う」という暗黙のルールがある以上は、ある一定の成果を超えることは少ないのではないでしょうか。

社長と一緒に本気で会社の事を考える社員を増やすには、事例でご紹介した3人がそうであったように、「わが社」「3年後」「自分起点」で考える機会を合わせて整えていく必要がある。この「考える機会」をつくっていくことがトップの責任として、重要な要素となります。
事例でご紹介した会社で、活動のふり返りミーティングを行なっていたときに、A社長が話されていたことが印象的でした。

── 「今までは、自分一人が儲けの仕組み、人、組織のことを考えていた。今は、多くの社員が考えてくれるようになった。経営者としてこれほど心強いことはない」