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「顧客のため」と自分たちの意志が重なるところにイノベーションは生まれる
では、どうすれば前例や常識にとらわれずに、イノベーションを起こしていく柔軟な会社に変わっていけるのだろうか。
私たちがお手伝いした3社の事例をみてみよう。いずれも、企業風土改革を通じてイノベーションを実現し、顧客の生活や仕事に向上をもたらした取り組みである。
・A社(カーディーラー)
値引きゼロでも新車販売増、お客様からの紹介による固定客増
・B社(テーマパーク)
新たな大型遊具がなくても、子供たちがヒーロー・ヒロインになれるイベントに家族連れが集まる
・C社(自動車メーカー)
仕事の生産性とドライバーの安全を両立させる開発思想が生み出したトラックが大ヒット
A社では、「カーライフを支える」ことが自分たちの仕事であると考え、新車の売り込みという疲労感の伴う活動をやめた。B社では、テーマパークに求められるものを問い直し、「子供たちがヒーロー・ヒロインになれる場になる」ことを新たな目標に掲げ、お客様とともに楽しみながら実行するイベントで成功しつつある。C社は、ドライバーからの感謝の手紙や要望を重視して開発することが、新たな仕事の習慣となった。生産性と安全を共に追求したトラックは、単なる生産財ではなく、ドライバーの相棒としてお客様の支持を得たのである。
結果としてイノベーションを生み出した、その原動力はどこにあるのだろうか。
ポイントは、当事者の思いで新しい事業の軸をつくっていく活動(価値洞察)に徹していることである。
●今まで自分たちが見ていなかったものをゼロベースで見えるようにする。
●与えられたコンセプトではなく、部門・立場を越えた仲間と一緒に、自分たちで考え抜いてコンセプトを導き出す。
●見込みが立つか、やれるのかといった予測可能な計画ではなく、顧客が望んでいるであろうことと自分たちの事業への思いが重なり合う接合点を追求する。
●それに乗れる、こだわれるメンバーで動きを起こし、試行錯誤しながら事業の軸をかたちづくっていく。
「思いの乗った価値洞察サイクル」を日常化させる
イノベーションの活動とは、商品・サービスを通じて、お客様の期待以上の信頼や心地よさを、しかもお客様が要望を口に出す前に感じ取り、もたらすこと、と私は考えている。
それを実現するための取り組み――お客様のニーズを探求する、部門を越えて構想を練る、あたりをつけてまずやってみる、やってみてわかったことから自分たちの仕事の意味を再び問い直す、という「思いの乗った価値洞察サイクル」は、通常のPDCAサイクルとは違う。このサイクルが日常化しているかどうかが、イノベーションを起こす会社になれるかどうかを左右すると言えるのではないか。
事例の3社からお客様が得た価値は、次のようなものである。
・カーライフの楽しみとメンテナンスの煩わしさからの解放
・子供の最高の笑顔とそれを見られる保護者の喜び
・安心して車と共に仕事ができる信頼(安全と生産性)
会社が変化し続けていくためのタネを見つけ、それを育てていく原動力は、お客様が望んでいるであろうことと、自分たちが実現したいことの間にのみ、見いだすことができるのである。
そもそもイノベーションとは、今まで自分たちが見ていなかったものを見ようとすることから始まるのだ。