前著から5年の時が流れ、その間、多くの行政改革の現場を見てきました。そして昨今の「行政改革」について、改革の必要性はあるとしても、それが果たして組織内で有効に進められているのだろうかということに、しばしば疑問を感じるようになってきたのです。
一昔前と比べると、どの自治体でも行政改革は当たり前に進められる仕事の一部になっています。しかし、その進め方は自治体によってまちまちで、うまく進められていると言える自治体はどれほどあるでしょうか。
INDEX
試行錯誤するプロセスが必要不可欠
2000年に地方分権一括法が施行された頃、改革に取組んでいたのは一部の先進自治体のみです。取組みの前例は、ほとんどありませんでした。そこで先行する自治体では、改革のやり方一つひとつについて、「なぜ変える必要があるのか」「いかに変えればいいのか」をとことん問い直すことから始めていきました。「何が必要か」議論を重ね、自分たちなりに納得のいく答えが見出されるまで何度も修正し、練り上げ、ようやく仕組みをつくり出していったのです。まさしく「改革は生み出すもの」でした。それゆえに、庁内では様々な問題が顕在化され、意見が飛び交い、部門を越えた衝突や心の葛藤を伴いながら進められていました。
これらのプロセスは、取組む人たちにとって、決して心地よいものではなかったでしょう。けれど、その苦労をしたからこそ改革への思いを強く持ち、自分たちで知恵を出し合って考え、やりがいを大切にして行動する人がたくさん出てきました。内発的な動機を持つ変革当事者(主役)が、このプロセスから多く育ってきたのだと思います。
その後、事務事業評価や事業棚卸しをはじめとする様々な行政運営に関わる仕組みが「手法」として開発され、流布されてきました。さらに、平成の市町村合併や集中改革プランが全国一斉に推進されるようになったことから、どの自治体でも様々な改革手法を矢継ぎ早に導入する動きが拡大していきました。
しかし手法の導入スピードは早くても、そこには、取組む人たちが悪戦苦闘しながら試行錯誤するプロセスは見受けられません。むしろこれらの動きの根っこには、全国一律の横並びや、他自治体から遅れをとっているとの指摘を受けないようにする無謬性にもとづく思考、与えられた仕事をそつなくこなすといった旧来の「お役所体質」が見えてきます。
「新しいこと」を取り入れることと、「変わること」はイコールではありません。変わるためには、自分たちで悩む、迷う、失敗するといった苦い経験を積むプロセスが必要不可欠です。たとえ導入段階においてそれを避けて円滑に物事を進められたとしても、そのツケは後の活用段階になってやってくるものです。
たとえば、多くの自治体で「マニフェスト」「総合計画」「行政改革プラン」「指定管理者制度」「組織目標管理」「事務事業評価」「人材育成基本方針」「人事評価制度」「業務改善運動」「外部評価(事業仕分けなど)」など、行政経営を動かす様々な仕組みが精緻に整備されています。
しかし、自分たちの地域の独自性を発揮するという“そもそもの目的”に立ち返ったとき、それらの仕組みがどのような意味を持つのか、十分な議論がされないままに導入していたとしたら、どうなるでしょうか。手段である仕組みの中に、本来の目的と方向性が異なるものが混じって存在していることがあります。また、個々の仕組みと仕組みの間に、抜け、漏れ、解釈の違い、優先度のズレ、実態とのギャップなど、仕組みをつなげて運営していく経営システム上に問題を生じるケースが出てきます。
改革のムリに気づき、再整備する
こういった改革の進め方に不具合がある場合でも、現場から問題提起がなされることは、ほとんどありません。作業の困難さやボリュームの多さについては不満の声があがるかもしれませんが、仕組みのあり方にまでさかのぼって考え、意見を出すということは、ほとんどないのです。
つまり、これらの改革のムリに気づき、再整備することは、行政改革を牽引している管理部門の「政策企画」「財政」「人事」「行政改革」を所管する担当者や責任者、もしくは、これらを統括している経営幹部たちの内発的動機と自己改革力にかかっていると言えるでしょう。仕組みが現場で機能しているか、仕組みと仕組みが有効に結びついて組織全体で生きたシステムとして機能しているかを、改革を牽引する部門や責任者が自ら見直す必要があるのです。
今回の拙著『期待される役所へ ~行政経営のムリ・ムダ・ムラを突破する!』は、こうした組織に潜在する行政改革のムリをみつけていく総点検から、ページをスタートしました。これまでの改革を総点検し、導入された改革の手法を今一度見直し、自分たちの地域の目的、抱えている課題、組織における活用の実態に応じて仕組みのあり方を考え、生きた経営システムとして機能できるよう改革の質をバージョンアップしていく。その取組みに、本著を活用していただければと思っています。