研修担当者だからこそできること

私はもともと研修講師ではなく、現場での変革の取組みを支援することが本業であるため、この声には実践者の視点から見て「なるほど」とうなずけるところがある。ただし、研修の効果を高めるためには、講師が実施するプログラム内容を変えるだけでは不十分で、それを職場に生かしていくために「研修担当者にもやれること、研修担当者だからこそできること」があるだろう。

その役割とは、研修と職場をつなぐ架け橋(コーディネーター)になるということだ。

 

職場での実践に役立つ研修プログラムとして、最近ではその実施方法にも工夫をこらし、講義形式ではなく、ワークショップ形式で参加者が討議するスタイルが増えてきた。また、1回の受講だけでは実践にはつながりにくいことから、インターバル期間を設けて複数回開催し、その間に実践や調査研究をして結果を取りまとめる方法を取り入れたプログラムなども効果的だ。

しかし、受講者が職場に戻って、本番である現場で実践していくためには、受け皿である職場においてさらに二つの条件が必要になる。

  1. 受講者が職場で担っている業務の中に、プログラムを生かすような場面があること。
  2. 受講者が職場の中で取り組むときに「周りの職員が協力してくれる」可能性があること。

 

これに関わっているのが職場で受講者の育成責任を担っている上司である。そこで研修担当者には、受講者と上司が職場でどのようにプログラムを役立てていけばいいのか、についての相談に乗り、職場での連携が進むように支援するという役割が求められる。研修計画にもとづいて研修プログラムを企画・実施するといったこれまでの役割に加え、研修で学んだことを職場の実践を通じて職員の成長と仕事の質の向上につなげていくといった人材育成コーディネーターとしての役割である。

そのためには、日頃から職場とのつながりをつくっておくとよい。例えば、研修の案内を出す時や、研修で出された課題を提出する時なども書面やメールでデータを受発信するだけではなく、実際の職場に出向いて受講者や上司と話をしておくと、職場の現状を把握して、プログラム内容にも反映しやすくなる。また、研修でグループディスカッションをする際にテーブルを回って情報を共有しておくこともお勧めだ。グループディスカッションの場は、受講者の生の声を聞き、受講者との関係を築き、意欲や悩みを感じ取る貴重な機会である。

職場と一緒に悩み取組むパートナー

これまでの研修担当者は「企画者」の立場で研修の事務手続きをするだけで、講義中は席を外してしてしまう人が多かった。これでは、せっかくの機会を損失していることになる。また、グループディスカッションのときにも、よそよそしく覗き見るようなスタンスでは、受講者から敬遠されてしまいかねない。

研修担当者にとってグループディスカッションへの参加は、「プログラムの目的と職場の実態のギャップ」を把握し、職場展開のために何が必要かをみずから考える、コーディネートするための重要な準備フェーズと言える。コーディネーターは、指導者ではないのでみずから解決しようと無理をするのではなく、困ったときには講師の助言や提案を受けたり、研修担当部門の上司や同僚に相談すればいい。

職場の実践を支援する役割は、職場と一緒に悩み取組むパートナーになることが出発点になる。