▼前編はこちら
「会社との接点」にポジティブな感情があるか?
ハード面で整備しやすい「働きやすさ」と違って、個々の「働きがい」は理屈抜きの感覚や感情が焦点になるため、もっと豊かな感情が呼び起こされる働き方になるよう、体験の質を変えていくことが大切です。
社員にとっての仕事を「意味・価値を感じる楽しい体験」に変えていくことがエンゲージメント向上のカギになるのです。
INDEX
「夢のない体験」の中にいる社員が、意欲や期待を取り戻すには
私たちはこれまで数多くの会社でオフサイトミーティングや面談を行ない、社員の日々の体験とそこに生じる感情に接しています。
どの企業でも共通して聞かれる声を下記のように取り上げてみました。
【社員をあきらめ気分にさせる会社の日常】
・自由にものが言えない
・職場のメンバーがバラバラでお互いに無関心
・考える余裕がなく、仕事に変化がない
・「考えるのはお前の仕事じゃない」と言われる
・困っても相談できる相手がいない
・失敗できないから余計なことはしない
・なぜこの仕事をやっているのかわからないでやっている
・結局は、数字だけで評価される
誰が見ても息苦しくて、楽しくなさそうです。
人材が塩漬けにもなりかねないこのような会社で働く社員は、仮に知り合いが転職を考えていても「うちへ来いよ」とは決して勧めないでしょう。
表向きはどうあれ、内実は夢の持てる会社とは思えない、個人が価値ある仕事で存分に力を発揮して会社に貢献でき、意欲的に成長していける「いい会社」には程遠いからです。
では、どうすれば社員の減退した仕事への意欲や会社への期待を取り戻せるのでしょうか。
もちろん福利厚生の充実のようなモノの提供は、ないよりはあったほうが従業員満足度は高まります。
しかし肝心なのは、いかに人が本来求めている根源的な「創造の楽しさ」や「成長への意欲」に応えていくか、という持続的なエンゲージメント向上のアプローチです。
そのためには、「仕事本来の意味や価値を実感する」「大事なことに集中して考え動く経験をする」といった社員の感情面に寄り添う体験と環境のデザインをしていく必要があります。
ここで焦点となる感情は、一過性の強い情動ではなく、あいまいで言葉になりにくい気分、感じ、印象といった深い感情です。
頭ではわかっているけど、どこか腹落ちしない、内面深くにある後ろ向きな感じ。あるいは、何だかわからないけど嫌じゃない、どこか心地いい、といったポジティブな感情。
特に、会社・仕事と自分とのつながりの質を高めていくには、安心・信頼や意欲に関わる主要な接点で“いい感情”が積み上がって持続していくような環境をつくることが大事です。
気分がポジティブな状態であれば、自分のほうから「やってみよう」と内発的な動機で行動が起こりやすくなります。
自分であれこれ考えながら動くのは主体的で楽しい状態ですから、意欲は持続します。
いい気分と行動がリンクしていれば、会社や顧客や世界に貢献したいなど、自分なりの価値を置いた取り組みに惜しまずエネルギーを注ぐ「オーガニック(自然)な好循環」の状態につながっていきます。
さらに、好きなことや楽しいことには我を忘れて没頭する、といった熱中状態をいう「フロー体験」に至ると、その体験はウエルビーイングや生産性、創造性にも大きな効果があると言われています。
組織の上下関係の中では、つい「社会人たるもの~が必要」「仕事だから~せねばならない」「この役割なら~すべきだ」などと義務や心構えを言いがちですが、内発的動機に関わる楽しさや喜び、好きといった感
情を抜きにしては、やりがいと成果が結びつくフロー状態は生まれないということです。
子供でも大人でも、学校であっても企業であっても、エンゲージメントの本質は、人本来のビビッドな感情を生かしていくことなのです。
“自分不在の仕事”から抜け出す「異体験」の導入
前に挙げたように、多くの社員が「言われたことをやるだけ」の仕事の日常は変わりっこないと「あきらめ気分」になっている場合、さらには、今までの仕事のあり方が会社としてそう簡単には変えられない場合、い
かにして社員が仕事本来の意味や価値を実感し、成長や創造の楽しさを味わう体験の機会を提供すればいいのでしょうか。
そのカギになるのが、新しい価値観にもとづく「異体験」の導入です。
みんなが変わらないと思っている日常の中でも、特にやりがいや人・組織に対する感情、組織の生産性が重なり合っている「接点」を意識して、今までにない「人と仕事との関わり方」を体験してみます。
(ここで想定する体験は、さまざまな関係者との本音の話し合い、自分の仕事を多角的に考えるワークが中心です)。
【主体的を高める価値観】
正しいかどうか ⇒ 「どうしたいか」
短所是正 ⇒ 「長所伸展」
どうやるか(枠内思考)⇒「意味・目的・価値は何か」(軸思考)
【安心・信頼や内発的動機に関わる3つの接点】
①コミュニケ―ション
一方通行から双方向へ。本音で自分の意見や思い、意志を伝え合い、弱みも含めて「ありのままの自分」を互いに認め合う。
②関係性
「一人で頑張る」から「人と一緒にやる」。相談・協力できる安心の関係性の中で、周りや全体と自分とのつながりを理解し、自分を見直す。
③仕事のあり方、進め方
「言われたことをやる」から「自分で考えてやる」へ。やるべき仕事を機械的にさばいていく“自分不在”の仕事ではなく、自分の考えや思い、意志をしっかり入れて主体的に仕事と関わっていく。
これまで、組織で仕事をしながら「自分不在」が当たり前だったコミュニケーション、人や仕事との関わりに「自分」や「個性」をしっかり入れていくことがポイントです。
主体的に関わっていくことで、安心や自信、気づきや発見のワクワク感、考える楽しさのような新たな感情も生まれてきます。
このリアルな体験の狙いは、「自分の会社生活は変わらない」と思ってあきらめている社員の内面に、「自分の回りだけでも変わるかもしれない」という変化の期待が生まれることです。
これまで組織風土改革をお手伝いしてきた経験でいえば、社員の心の奥にくすぶっているネガティブな感情、問題意識の元には「本当はこうありたい」という反対の感情が潜んでいるものです。
それゆえに、今までとは違う価値観にもとづく「人と仕事との関わり方」の体験には、共感や快感も大きいのです。
盛り上がった感情を、業務の場でも持続させるには
体験を通じて、人や仕事に主体的に関わり、周りの協力関係や全体が見えてくると、自分の見え方や視野、仕事への欲求も変わってきます。
体験のあとは、そこで盛り上がってきた気持ちをその場限りで終わらせず、うまく守っていくことが大切です。
体験で取り上げた3つの接点は、本来、仕事の日常を有意義にするためのポイントですから、業務の現場でも下記のように、そのエッセンスをうまく取り入れて、少しずつ習慣にしていくことがおすすめです。
(3つの接点は、現実には絡み合っているため、どれを取り上げても相互に影響していきます)。
【業務の場にある接点を良くする】
・お互いに顔を見たら声をかける。
・職場で「対話・相談型」のコミュニケ―ションを体験してみる(言ってみる、対話してみる、相談してみる、一緒にやってみる)。
・日常業務を「対話型」にして、仕事の中に「相談・協力」を持ち込む。
・「与えられた仕事」であっても行き詰まったり、困ったりしたら、上下左右で気楽に相談・雑談ができるようにする。
そこから別途、「この仕事の本来の目的は…」といった“そもそも論”を皆で一緒に考える話し合いの場を設けてみる。
毎日が楽しくなるのは、何といっても「人との接点」に気持ちが通い合い、つながりを感じ、気力が湧いてくるようなやりとり、「いい相互作用」があることです。仕事の日常で日々それを実感できるだけでも、社員の気分は変わっていくはずです。
大事なのは、瞬間的に大きく感情を動かす刺激ではなく、気分・雰囲気・空気を「快適」のほうへ変えていく、じわじわとした環境形成です。
社員が自分を取りまく環境に「意味や価値」を感じ、自分が考え動くことが「喜び」になるようにする。そんな「自分で考えて動くことは楽しい」日常をめざしていくイメージです。
最後に、私が長年担当している研修の参加者が「何に満足したか」をまとめたものをご紹介しましょう。
働く人たちの感情が価値づける「働きがい」というものを考えるヒントになればと思います。
〈気持ちを前向きにする体験の実感〉
□「新しい自分」との出会い、「新たな自分」の発見
□ 成長している実感
□「仲間」との出会い
□ 受けとめてもらえてる感
□ 自分なりに考え、やってみて結果を出せた自信
□ チームのつながってる感、一体感
□ なんでも言い合える、相談できる間柄の安心感