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進化する「安全」の考え方と活動の進め方
現場が考え動くレジリエントな「変化対応力」が焦点に
INDEX
うまくいっているのか? 活動プロセスを可視化する「成果モデル」
CS運動のさらなる活性化と全社的なレベルアップをめざし、JR東日本では、2019年度から3年間にわたって組織開発型アプローチの集合研修を実施しました。Safety‐Ⅱの考え方を参考にして、活動の成果をあげている表彰職場を対象に実施された進化研修です。
スコラ・コンサルトが担当したグループワークでは、1年目に参加した表彰職場のメンバーにそれまでの活動をふり返ってもらい、成功(活性化)要因の分析・構造化を進めました。
今後も続けられていくCS運動が“うまくいっているのか”“停滞しているのか”を見える化・指標化できる成果モデルを開発するためです。これにより、メンバーが日々の活動をモニタリングする、組織で共有するなど活動のレベルアップに活用することができます。
図1は、ワークで抽出した活性化要因をもとに作成した「CS運動活性化の仮説モデル」です。
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2019年の進化研修は、活動成果として抽出した要素を整理してアンケートの質問項目を作成し、2020年の第2回進化研修参加者に対して事前アンケート調査を実施。仮説モデルの中の ①心理的安全性 ②チームワーク ③CS運動の活性化状態、のそれぞれの要素がどのように関係しているのか、相関を明らかにしようと試みました。
(「心理的安全性」と「チームワーク」の質問項目は、既存の研究で検証されたものを使用)
同時に、ここでは、③のCS運動の活性化状態を測るための「成果指標」を抽出しました。
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仮説の背景 ~安全風土づくりをめざして重視してきた2つの要素
さかのぼって、2004年のCS運動推進リーダー研修をスタートした時、「どんな職場でミスや事故が起きやすいのか?」について特徴を出してもらい、それを「逆CS職場」と名づけました。(参照コラム)
そして、「何がCS運動の本質的な目的か」を話し合い、「安全風土づくり」をめざして、①なんでも話し合える、相談できる関係性(心理的安全性の原点)を築く ②日常業務として全社で取り組む職場単位の実践活動のためのチームワークを高める、という目標を掲げて進めてきました。
CS運動では、その後の全社展開を通して運動自体の捉え方や体制などを見直し、自主的な成功事例を横展開するなど、感覚的には成果の手応えを感じていました。それを今回、あらためてSafety-Ⅱの観点から「成果が出ている職場は、なぜうまくいっているのか?」、成功要因を明らかにすることにしたのです。
図1の仮説モデルは、スコラ・コンサルトが風土改革で経験的に重視してきた「心理的安全性」と「チームワーク」という2つの要素が、CS運動の活性化にも関係しているのではないか、という仮説にもとづいています。
【心理的安全性】
たとえば、職場の心理的安全性が担保されていれば、ミスやよくわからないことを報告したり、相談もしやすくなります。困った時には協力や支援が得られ、チームの創造性や新規課題への挑戦度が高まることも実証されています。
その意味で、心理的安全性は、新たなリスクの発見や対処の準備、ルールの見直しや改善提案など、活動のレベルアップにもつながる可能性があります。
【チームワーク】
また、チームワークを構成する①チームプロセス(チーム内の関係性、目標の共有など)②チームの指向性(積極性や挑戦意欲・学習など)③チームリーダーシップも、活動を活性化させ、メンバーの参加意欲を高めて活動成果をあげる重要な要因であると考えました。
「活性化のモノサシ」3つの成果指標を抽出
CS運動では、社員一人ひとりが安全感度を高め、自主・自立的にリスク回避や低減の行動をとれるような状態をめざして、活動のレベルアップと活性化に取り組んできました。しかし、果たして活動が狙いどおりに“うまくいっているのか”を測る共通のモノサシについては明確にできていませんでした。
これまで、「安全である」ことを示す指標としては、「重大事故ゼロ」「ヒヤリハット報告件数」「労働災害件数」など、定量的な目標が掲げられてきました。しかし、それらはあくまで結果です。どのような前提条件をクリアしていくことで達成確率を高められるのか、リスクを低減できるのか、といった“うまくいく”結果につながるプロセスや定性的な観点については、指標化することが困難でした。
そこで前述のように、2019年の研修で成功要因の構造化を行ない、活動成果と考えられる質問項目を設定。それをもとに仮説検証のためのアンケートを実施しました。
その回答を因子分析した結果、「活動が活性化している状態」と考えられる以下の3つの定性的な成果指標を抽出することができました。
【CS運動活性化の成果指標】
① チームの創造性・自律性
② 運動の意義・チーム効力感
③ 運動を通じての成長・満足感
この3つの成果指標(因子)から、活動が活性化している職場は、
①チームの創造性や自律性が高まっており、②CS運動の意義を感じて自分たちで課題を解決できるという効力感を持ち、③活動を通して自己の成長や満足を感じている、状態にあることが読み取れます。
「心理的安全性」と「チームワーク」はどのように成果に結びつくのか
仮説モデルの設定段階では、「心理的安全性」と「チームワーク」がそれぞれ独立して活動の成果に影響を与えているのではないかと考えていました。
この仮説に対して、2020年に実施したアンケート調査を統計的に分析した結果、2つの要因がそれぞれ成果に直接影響するのではなく、「心理的安全性」から「チームワーク」を経由して、活性化・成果指標に関係していそうだということがわかりました。
このことからあらためて、単にものが言える、挑戦できるという心理的安全性だけではなく、日常業務における活動の実践を通してチームワークを高めることでCS運動の成果につながっていく、という「CS運動活性化(成果)モデル」が設定されました(図2)。
この図からは、心理的安全性が担保されていれば活動が活性化されるわけではなく、それはあくまで必要条件であり、日々のチームワーク(活動)の条件整備や実践の場が大切だということがわかります。また、活動が日常の職場の業務とは別物として形式的に行なわれても意味がない、ということも言えるでしょう。
活動の成果につながる前提条件をモニタリングする
これまで、CS運動がうまくいっているかどうか、積極的に活動しているかどうかは、外部観察や推進者たちの取組みテーマ、発表内容などの印象に頼ることが多く、各職場からの推薦基準も曖昧でした。
今回、定性的な3つの指標を評価者とも共有し、活用できるようになったことで、うまくいっていることに着目しながら、日頃の活動成果を当事者がモニタリングし、改善すべき課題を行動レベルで共有することが可能になるのではないかと考えています。
また、心理的安全性を高めた上でのCS運動という“日常業務におけるチーム活動の実践”自体に意義があることから、形式的な会議や机上での報告書作成にいくら熱を入れても「活動の活性化」という成果には結びつかないことがわかりました。
このことから、これまでJR東日本でCS運動を活性化するために行なってきた、「現場が自分たちで考え、工夫してまずはやってみる」という組織開発的なアプローチが、安全活動のパラダイムを変え、同時に組織としての価値観を変革することにつながっているのではないかと考えています。