意志ある事業部への伴走支援

三好 3つのアプローチについて話したとき、意志ある職場への伴走サポートは伺ってなかったですね。

礒貝 例えば、映像音響DXを担うコネクト社メディアエンターテインメント事業部は、人事部長から支援の相談がありました。毎年実施する「従業員意識調査」のランキングが年々下がり、とくに「組織協力体制」の数値が低かったんです。
調査結果だけじゃなく、例えば「経営会議などで本音の議論ができていない」「既存事業部門と新規事業部門がうまく連携していない」「それが業績にも影響を及ぼしている」と人事部長は肌で感じていたようです。
事業部のなかで「情熱のある部長がいる部署」をいくつか選び、まず「コミュニケーションが取れる関係性の再構築」に取り組みました。

戒能 対話を通して、各人の思いや問題意識が明らかになってくると、そのうち事業部内で「やってみたらよかった」という評判を聞くようになり、対話の場が事業部内に広がりましたね。

三好 コミュニケーションの課題は、どの企業も抱えています。「本音の対話」から入る組織開発も多い。しかしコミュニケーションをよくするだけでは、問題解決になりません。先のステップも考えて展開を進める。
事業部としての専任事務局のスタッフと皆さんとで頻繁にミーティングをして、一緒に作戦を立てながら進めていましたね。

礒貝 事業部長や人事部長と相談して、事業部の組織開発専任事務局を置きました。そして事業部内の各部門ごとに2人ずつODPを養成して進めていました。かなりしっかりした体制でした。

三好 そして、次のステップとして事業部経営層のチーム化に進展しましたね。

礒貝 横展開の流れができてから、「経営幹部チームの組織開発も必要だ」という話が事業部長や幹部層から出てきたんですね。幹部メンバーが入れ替わったタイミングだったので、合宿形式でオフサイトミーティングの場を設けました。
「本音のところ、事業部の戦略についてどう思っているか?」と率直に話し合ったんです。

戒能 一番印象に残ったのは、事業部長の方針について、幹部の認識や解釈がバラバラだったことです。幹部の段階で理解がズレていたら、下の人たちに伝わるはずがありません。合宿の場で、幹部たちが「そういうことなのか」と腹落ちした。あらためて方針の理解をすり合わせて、共有できたのは大きな成果だったと思います。

三好 「経営幹部チームの組織開発」は最重要テーマです。とくに大企業は、幹部はアンタッチャブルな感じで対象外になりやすい。プロの組織開発コンサルタントでも、そのテーマに対応することができる人は少ないんですが、皆さんはきっちりやっていました。
並行して、組織開発の基本スキルを身につけた実践者を養成し、自走化を準備していましたね。

戒能 初めは、事業部事務局と私たちで毎週ミーティングを開き、事業部長や部長と対話しながらガッツリ伴走しました。事業部の方たちが自走できる状況は徐々につくった感じです。
礒貝さんは、部長さんたちへのコーチングも個別にやってましたね。

礒貝 ある部長さんが「部のトップとしてどう行動すべきか」と悩んでいたんですね。大西さんと私でお話を伺って思いを引き出しやすくしました。
私たちは対話の場で、部のメンバーから率直な意見を聴いていたので、部長の行動が全体にどう影響しているかも見える。いま思うと、かなり複雑なことをやらせていただきました。

戒能 事業部内では、新規事業部門を立ち上げる一方、既存事業部門では活動期間中に工場閉鎖もあったんですね。そうした職場での活動はしんどかったですね。

三好 重要なお話ですね。伴走するからこそ感じるしんどさやつらさだと思います。
組織開発は「ユース・オブ・セルフ」が大切だといわれます。自分の見聞きしたこと、気づき、感触などを総動員する。皆さんの伴走は、現場に入り込んで同じ空気を吸い、肌感覚で組織の事実・実態を知り、組織の状態や課題を把握するという、まさに「ユース・オブ・セルフ」の実践だったと思います。
他の大企業では、推進スタッフといってもツールを紹介して終わり、伴走までやらないところがあります。現場の直接支援は大変ですからね。

戒能 もう、クタクタになります。片手間にできるもんじゃないと思いますね。
でも、2年間の伴走で、従業員意識調査に成果がはっきり現れました。活動前は属する事業会社内で最下位だったのが、3年連続でトップになったんです。もちろん、組織開発の効果だけではないでしょうけど、大きく寄与できたと思います。

「構造化されていない組織開発」に伴走する

三好 職場への伴走支援は、パナソニックの特徴ですね。形が決まったプログラム、ツール、ワークショップの実施といった「構造化された組織開発」だけではない。チームの状況や進捗に合わせて臨機応変に組織進化のプロセスをつくる。「構造化されてない組織開発」を並行して進めているという特徴です。

戒能 支援前はめちゃくちゃ考えて「こうやっていこう」とプランを立てますけど、その通りにはいかないですね。

礒貝 プランをしっかり立てても、状況に応じて全部捨てることもあります。「見立てと違ったな。必要なのはこっちだ」と方針転換する。
私たちは必ず2人1組で活動をリード(コーリード)するので、2人で相談しながら、その場その場で次の手を組み立てるんですね。

三好 臨機応変になるのは、組織が生き物だからですね。生身の人間が集まっていれば、型通りに進まないのは当然です。
組織がもし機械なら、部品交換みたいに型通りのプログラムをインプットすれば成果が出るでしょう。でも実際は、複雑な生態系みたいなものですから、そう簡単にはいかないんです。

河村 今おっしゃった「生き物」として組織の状態をどう捉えるかは、組織開発の難しさであり、醍醐味でもあるのかなと感じています。

戒能 私たち伴走者は先入観がないから、かえって見えてくるものがありますしね。

礒貝「皆さん、こうなんですね」と見えたものを話したら、「全然気づいていなかった」とびっくりされることはあるね。私たちが第三者として現場に入る意義です。

戒能 ただ、注意しているのは、依存されすぎもいけないということ。

三好 頼られすぎは「自分たちの組織は自分たちでよくしていく」の精神に反することになる。

礒貝 だから、伴走しながらも、自走の準備が必要になるんですね。