和気産業の前身は1922年(大正11年)に大阪市内に創業された家庭金物問屋「和気商店」で、まもなく創業100年を迎える。現在は東大阪市に本社と大阪店を置き、東京店(さいたま市)、福岡店(福岡県粕屋町)、滋賀県日野町の中部営業所と関連会社の物流センター、仙台市内の仙台営業所、関連会社の茨城県の結城物流センターといった拠点を持つ。社員は約160名で、営業、物流、管理、商品の4つの事業部と総務・管理部門では、部署を越えての異動はほとんどない。また、現地採用されるケースもあって、転勤も少ない。さらに、女性社員はサポート業務が主で、女性の管理職がいないのが現状だ。

高度成長期から順調に売り上げを伸ばし、経営は現在も安定しているが、拠点の点在化や硬直した人事制度などによる社員の意欲の低下という課題に直面していた。そこで、新しい研修・教育制度を創りながらリーダーが育つ風土改革を始めることとなった。

 

この大任を任されたのが、1996年に中途採用で入社した、現・総務人事部の辰巳佳余子さんだ。辰巳さんは大学新卒で大手化学企業に就職し、間接管理部門に配属され、関係会社の採用支援や管理職研修の企画や役員秘書も経験している。和気産業では商品開発担当の初めての女性社員となり、その後、大手量販店への営業を経て、2010年に総務人事に配属された。社員と新卒の両方を育てる社員教育体系を作るのにはまさに適任。「社内の縦と横をつなぎ、人が人を育てる風土づくり、社員が成長する仕組み作りが必要だと感じていました」と話す。

 

社員の意欲の低下を示すアンケート結果から、風土改革の必要性を痛感

辰巳さんは10年間途絶えていた新卒採用を復活させ、新入社員教育制度を作った後、2016年、社員の仕事への意欲を知るためにアンケートを実施した。回答率は約8割で、「“誰もわくわくしていない”という衝撃の結果でした。風土改革の必要性を痛感しました」(辰巳さん)。

その結果を受け、「わくわく成長プロジェクト」がスタートする。まずは自社商品のプレゼンテーションのスキルアップを目的とする「わくわくプレゼン祭り」で、社員に商品提案を動画でプレゼンテーションしてもらった。「総務主導ではなく、社員と一緒に、これまでとは全く異なる新しい社員教育を創りたかったのです」と辰巳さんは説明する。

「わくわく成長プロジェクト」で次に手がけたのが「アンバサダー」の養成だ。アンバサダーの使命は、「“わくわく”を社内に広め、所属や拠点を超えて縦横をつなぐこと」。埋もれていた社員を主人公にして、チャレンジできる環境に整えたうえで、その人の強みを引き出し、その人が次の人のための環境を整え、強みを引き出すという、よい循環を広げることを目指した。

アンバサダーの候補メンバーは辰巳さん自身が40歳以下の社員の履歴書と適性検査などから選んだ。辰巳さんがそれまでの異動や総務の仕事で社員のほぼ全員の顔を知っていたことも幸いした。「社内をプラプラ歩き回って話をする“プラプラトーク”をして、働き方や人柄を見ました」。一方で、アンバサダー制度を始めることを各支店長に話して、職場からも候補者を推薦してもらった。

 

その結果、辰巳さんの選んだ社員と職場から推薦された社員はほぼ一致し、個性と相性を見て、5人の女子社員に決定した。「いずれも学生時代にクラブ活動でキャプテンやマネージャーとして人の面倒を見てきて、リーダーシップがあり、一を言えば十を察する、感度の高い女性たちでした。ただ、それまで注目されることもなく、女子社員の先輩もいる中で、地道に主にサポート業務を続けていました」。そして、いよいよ2016年9月、この5名のメンバーが第1期生とするアンバサダー養成プログラムが始まった。