研修の講師役を務めながら、社内をつなぎ課題解決を促すアンバサダーを養成

アンバサダー養成プログラムは、大阪本社かスコラ・コンサルトの大阪事務所で終日あるいは半日で開催され、計8回を重ねた(図1)。「まずはジブンガタリ。これによってグループの結束が強まりましたね」と辰巳さん。

プログラムでは、今後、職場研修を担える「講師役」としての心構えやスキルを中心に学ぶ一方で、実務に活かせる研修として、上司との面談を経ての「職場の課題出し」といった宿題を毎回出し、職場でうまくいかないことを共有したうえで、最適な対応法を一緒に知恵を出しながら考えるというものだ。

「スタート時では、アンバサダーメンバーも上司もふだん話さないことを話さざるを得なくなり、お互いにプレッシャーを感じたようです。結果的には上司も職場に対しての危機感や課題共有ができ、パート社員を含めた部内コミュニケーションの活性化につながりました」と辰巳さんは振り返る。

 

当のアンバサダーメンバーたちはアンバサダーという役割やこの養成プログラムをどのように感じていたのか。結城配送センター 物流課の今関由美子さんと東京店 営業事務課の町田沙紀江さんの2人に聞いてみた。

今関さんは短大卒業後、和気産業に入社し、以来、結城配送センターで物流事務を担当して22年目になる。「社内で人と楽しくつながる経験があまりなかったのですが、不満は変えられないものと思っていました。アンバサダーになって結城配送センターから外に出てみて、逆に閉塞感に気づきました。もっと楽しく仕事をしていいのだと思いました」と話す。

養成プログラムに参加しながら、2017年5月に初めてのオフサイトミーティング“もっと楽しく幸献するための作戦会議”を自らが開催。自己主張しない結城配送センターの社員にジブンガタリをしてもらい、お互いを知ることから始めた。最初3回は5名と少人数だったが、最近は配送センターの社員全員が何らかの形で関わる。

職場の改善案を出すオフサイトミーティングで「倉庫内をもっときれいにしたら、仕事の効率が上がる」といった意見が出た後、少しずつ手の空いた人が片付けるようになり、実際に仕事の効率も上がったという。「ほんとうはむしろみんな意見を言いたかったのだなと感じています」(今関さん)。

 

また、研修で人との付き合い方を学んだことで、自身が変わったという。「自分と会話が少なかった人に対して自分が“こういう人だ”というレッテルを貼っていることに気づき、気楽に話しかけるようになりました。そうしたらだんだん会話が増えて、職場の雰囲気も変わり、職場内でお互いに仕事をカバーし合えるようになりました」(今関さん)。

もう一人の町田さんは、大学時代にテニス部に所属し、よさこいサークルでも活動している。東京店で営業事務を担当して4年目にメンバーに選ばれた。

「入社後、2年ほどで仕事に面白みを感じられなくなり、悩んでいました。アンバサダーで職場以外の支店に行けるのは楽しみでしたが、経費と時間を使って行くという責任を感じていましたし、忙しいし、女性だけのメンバーで考えても効果があるのかなと思って、一度断りました」(町田さん)。

その後、辰巳さんや上司からの強い薦めもあってアンバサダーとなり、そこで、自分がアンバサダーとして出張することを上司たちから営業事務の社員全員に話してくれるように依頼したという。

 

町田さんは、かねてから営業と物流のつながりが薄く、とくに急ぎの仕事やトラブルのときに営業事務が板挟みになると感じていたため、結城配送センターへの出張を申し出た。

「配送センターの人たちがどんなふうに動いているのかがわからないまま仕事を頼むより、倉庫を見に行って話し合うほうがいいと考えました」(町田さん)。

そして、急な配送依頼はまず倉庫で荷出しをする社員に先に電話してから、物流事務の担当者に連絡するなど効率的な手順をすり合わせし、東京店の営業の人たちに報告、東京店と結城配送センターの社員の双方に喜ばれた。

 

この町田さんのフットワークの軽さと、仕事をまとめる力に辰巳さんも驚いたという。「仕事の手順を変えるのに男性社員なら周囲との調整に時間がかかり、躊躇するところですが、町田さんは出張内容の実施報告書を関係部署に提出すると同時に、周囲に趣旨を説明して協力を得ました」(辰巳さん)。

 

“チーム力Up研修”として、“営業事務ガールズミーティング”も業務中に開催している。パート社員も含めて、営業事務の女性7人が抜けるため、周囲に電話対応を依頼して、2時間集中して業務改善の提案を出す。「営業事務の仕事の進め方は担当者それぞれがカスタマイズしているので、それを共有化したいと考えています。ただ、学んだことをみんながやらなくても、よしとしました」。企画部の社員に来てもらい、商品知識の勉強会も実施。「どれもアンバサダー制度という枠組みがあるからできたことです」(町田さん)。

 

こうしてボトムアップで小さな風が起こり、アンバサダー養成プログラムが終わるころには、業務の見直し、マニュアル化などの改善が少しずつ進み、社内のコミュニケーションもよくなっていった。