経営層のコミットとメンバーのメンタルケアが制度を支えた
このアンバサダー制度や養成プログラムが成果を挙げた鍵は、経営のスポンサーシップと上司のサポートがあったこと、そして、アンバサダーメンバーのメンタルを支える仕組みを作ったことだ。
辰巳さんの同期入社でもあり、気心が知れている鈴木加代子取締役はアンバサダー制度のスポンサーシップを発揮し、アンバサダーが養成プログラムで職場を空けることなどへの理解を進めた。また、メンバーがプログラムを通して出て来た改善策を鈴木宏生会長や鈴木取締役、総務部長、各職場の上司に対してプレゼンテーションしたことをきっかけに、「部門や支店の壁、上司と部下の壁をアンバサダーがするするっと軽やかに破っていった」(鈴木取締役)様子を実感し、応援を約束した(下写真)。
一方、辰巳さんは会議を通じて管理職にアンバサダー制度を説明すると同時に、折に触れて、上司に電話や面談でアンバサダーメンバーの様子を聞いたり、アドバイスしたりしたという。
「“各支店の課題を抽出して解決策を考える”際には、上司がアンバサダーに選ばれた部下に、“そこまでやらなくてもいい”とストップをかけたことがありました。業務範囲が広すぎると負担を心配してのことでしたが、その気遣いがやる気を阻害することを説明し、“本人たちがやりたいことをさせてください。そのことで本人たちもやりがいを感じるし、成長しますから”と説明しました」(辰巳さん)。
そして、時間が経つにつれて、上司もアンバサダーメンバーをサポートするようになり、アンバサダーの時間や資金などの使い方の自由度が増していった。その空気はほかの中間管理職やトップにも波及していき、若手社員にチャンスを与えようという雰囲気が広がった。「新卒採用会場で若手社員に説明させたり、学生面談を担当させたり、出張に同行させたりといったことが増えました。この制度をきっかけに、アンバサダー以外の人たちが変わっていくのが面白かったですね」(辰巳さん)。
初めてリーダーシップを取る経験に戸惑うアンバサダーメンバーのために、メンバーと辰巳さんだけが見られるSNS(Google+)を設けたことは、思わぬセイフティーネットになった。「養成プログラムの最中に“私には無理”と泣きながら訴えたメンバーもいました。そういう状態を知ったうえで、凹んでいる仲間にお互いにSNSで“元気?”と呼びかけて、反応がなければ電話もしていたようです」(辰巳さん)。今関さんも町田さんもSNSで仲間の状況を共有し、相談しあえることに支えられたという。
また、養成プログラムにスコラ・コンサルトのプロセスデザイナーの簑原麻穂がポジティブ心理学を組み合わせていたことも助けになった。心理テストで自分の強みを知ったうえで、さらに周囲から教えてもらう、落ち込んだら、それも自ら表現して自分自身を回復させるといったプロセスを教えていたことで、アンバサダーメンバーたちは、心のコントロールがうまくなったと話す。
「アンバサダーメンバーは責任感が強く、何とかしようという気持ちが焦りにつながっていましたが、次第に背負い込んだものを1回降ろして、冷静に周りを見られるようになりましたね。挫折を経てアンバサダーが成長していく様子がみてとれて、うれしかったです。この経験は自分たちが研修の講師役になったときに大いに役立つはずです」と辰巳さん。
辰巳さんと簑原が辛いとき悩むときに頼れる姉貴分となったこともメンバーの心の安定や制度の定着に大きく貢献している。「辰巳さんはスポーツのクラブの監督。私たちはプレイヤー」(今関さん)、「採用のときから面倒をみていただいているので、お母さんみたい。ものすごく誉め上手で、味方がいると思えるのが安心。ジブンガタリをしてくださったときに、この辰巳さんに選んでいただいたのがうれしかった」(町田さん)、また、「ポジティブ心理学を活かした簑原さんにはカウンセリングをしていただきました」(今関さん)といったコメントからも傍で支える存在の大きさがわかる。
現在、第1期のアンバサダーメンバーはそれぞれが職場研修を開催すべく、計画を立てているところで、受講者も自らが選んでいる。また、第2期のアンバサダーメンバーの候補も選定中だ。チャンスを与えられた人がまた誰かのチャンスを作る。わくわく成長プロジェクトの次のステージはすでに始まっている。
鈴木 加代子取締役
「普段の業務にプラスしてのプロジェクトですから、周りの人の協力を仰ぎ、学んだことを実践として部署に広げていくのは、本当に刺激的だったと思います。アンバサダーに参画する以前はほとんど面識のなかった仲間と、ここまで信頼関係が築けたのも大きな成果。土台作りの1年が終わり、これからが本当のアンバサダーの仕事で、壁のないフラットな組織作りの一助を担ってもらいたいと思っています」