活動メンバーに聞く

矢野博之さん、登田浩介さん、山田裕貴さん、大屋敦嗣さん

オフィスにいては、お客さまの声が聴こえない

有志によるCSマン活動が始まるきっかけを教えてください。

矢野 CS部の風土改革活動の一環として「課長マネジメント研究会」という場がありました。課長が10人ほど集まってオフサイトミーティング形式で自分のことや仕事への悩み、思いなどを何回か話し合ったのですが、メンバーで話していくうちに、自分たちの力で「CSマン活動」を立ち上げようということになったんです。

私たちは毎日たくさんのお客さま対応をしているにも関わらず、みんな、お客さまとの距離を感じていました。お客さまに役立っている感覚がなく、自分たちの仕事に自信がなくなっていたんです。仕事のやり方にも違和感がありましたが、それが何であるかはわかりませんでした。

お客さまからはいつも、「対応か悪い」「遅い」「技術力を疑う」といったお叱りを受けていました。担当はその一つひとつの苦情にていねいに対応しているのですが、良くなる感じはありません。どうしたらいいかわからずモヤモヤするけど、仕事も忙しくてお互いに相談することもないし話せる仲間もいません。

そんなモヤモヤした気持ちを参加した10人の課長で話し合ったんです。

「日々まじめに仕事をしているけれど、それで、お客さまに本当に満足いただいているのだろうか?」
「お客さまの声って、お叱りをいただくとき以外、実はほとんど聞いていないよね」
「お叱りをいただけるのも一部のお客さま。ほとんどのお客さまとは話したこともないよね」
「本当にお客さまが何を感じ、何を望んでいるのか…実はよくわからないよね?」
「私たちの仕事ってなんだっけ。お叱りに誠実に対応することが僕たちの仕事だっけ?」

 

自分たちの仕事の「ありたい姿」についても話しました。

「お客さまに寄り添い、困っていることを解決できる。そしてお客さまに喜ばれる。そして自ら考えて自ら行動する」

そんな話をしていくなかで「お客さまの声はオフィスにいてもわからない。お客さまに直接話を聞かないと。じゃあ、直接話を聞きに行く?」ということになったんです。

もちろん、私たちは何のためにお客さま訪問をするのか、何回も何回も話し合いました。そして保守のプロがお客さまの声を直接聞いて、お客さま満足度(CS)向上をめざそうということになり、その中から「CSマン」という言葉が自然に生まれたんです。

 

ほかの皆さんは、どんな思いで参加されたのですか。

登田 私の仕事は通信設備の保守なので、確実に作業をして品質をしっかり維持することが第一です。手順書などの決まりがきちんとあるので、自分なりに考えてというのではなく、決まったことを着実かつ正確にやっていくことが求められるんです。

でも一方で、お客さまからは要望に合わせて柔軟に対応することが求められていました。私は今のままの確実なオペレーションだけをしていくことに疑問を感じ、「もっとお客さまに寄り添ったオペレーションをしなければ」と危機感を持ちました。

お客さまをマクロではなく、ミクロで見なくてはいけないと感じていたときに、この活動のことを聞いて躊躇なく参加することにしました。

 

山田 CS部に配属されて1年が経過した頃、私は日々の故障対応に疲れていました。
当時の私は「故障対応は言われた通りのことだけを機械のようにこなす」「オペレーション=マニュアル通りにやる」という考えでした。このような考えで仕事をするのは、ある意味とても楽ですが、一方では何も考えることができない苦しみがありました。

当時の自分の仕事に対する考え方や取り組み方を変えたい、自分自身の殻を破るきっかけを見つけたい、そう思って2012年9月の第2期メンバーとしてCSマン活動に参加したんです。

 

大屋 本当にお客さまのために何ができるかを考えたとき、一人ではできないですよね。人と人、社員同士のつながりがもっと必要だから、少しでもつながりを広げていきたいと思っていました。

CSマン活動に参加したのは、今の仕事の枠を超えて、組織一体となってお客さまサポートをすることで何かできるのではないかと思ったからです。

私はこれまで、オペレータの応対スキルを向上させる取り組みにも業務として携わっていました。そのときに感じていたのは、お客さまとの接点をもっと大切にすべきだということ。組織としても、現場やお客さまの声に耳を傾けるべきだと思っていました。

通話録音でクレームを聴いていると、私たちの組織の体質についてもお叱りをいただいたりしているんです。それがとても悔しかった。メンバーと連携して、もっと大きな力でお客さまに向かう姿勢を変えていけないかと考えたんです。

案ずるばかりで一歩も動けなかった1年間

CSマン活動の立ち上げはどんな感じでしたか。

矢野 全然うまくいきませんでした。本当にたいへんだったんです。
「お客様の声を聞きに行く」というと簡単に聞こえるかもしれませんが、会社の指示ではなく自分たちだけで考えて行動するとなったときに、はじめてその難しさに気づきました。

実際、CSマンと名づけてから、お客さまのところへ行くまでには、1年もかかりました。その間に何人かの課長が脱落していきました。

たとえば、お客さま先へ行くのはやはり営業の仕事ではないか、お客さまに何か言われたらどうしようかとか、心配ごとが次から次に浮かんできて―。

訪問されたお客さまは迷惑かな、本当に行っていいのかな? 何も話すことが無くなったらどうしよう……とか。でも、それに対する答えは考えても見つかりませんでした。

課長が10人も集まっているのに、お客さまのところへ1歩も踏み出せないのがショックでした。そのうち、メンバーだけでなく周りからも、(上司の指示ではなく自分たちで考えて行動する)この活動に対する否定的な意見がたくさん出てきて、正直、もう活動できないと思ったこともありました。

一歩が踏み出せない壁をどうやって乗り越えたのですか。

矢野 そうですね。今の職場に問題を感じているのに、課長が10人も集まって何もできなかったら、ここで我々があきらめてこの活動が終わってしまったら……やっぱり自分たちは今の仕事を何も変えられないのではないかという危機感と、なんとかしないといけないという使命感があったように思います。

あきらめそうになったときは原点に立ち返って、「何のためにお客さまのところへ行くんだっけ?」を繰り返しました。

「私たちは、お客さまを知らない。知らないとあるべき姿に進めない」

そういう使命感で乗り越えたんだと思います。それは、オフサイトミーティングを何回も何回も重ねて気心の知れた仲間がいたから、あきらめずに続けられたんだと思います。