上司と部下が話をする時、起こりがちなのが、上司のほうの伝えたい熱量が大きすぎて部下が引いてしまい、発言しなくなるケースです。これは一対一の面談に限らず、職場内のミーティングでも同じです。
では、どうすれば部下は重い口を開いて、活発に発言してくれるのでしょうか。
ここでは、「部下の発言が少ない」と話し合いの場に行き詰まりを感じている上司のために、「板書」を使って発言をうまく引き出すコツをご紹介します。
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ついしゃべりすぎてしまう上司が、部下の口を重くする
あまり自覚はないかもしれませんが、話し合いの場で“しゃべりすぎてしまう”上司は少なくありません。
・上司としての責任感から、自分の思いを熱く語ってしまう
・部下の発言に対して、上司としての見解、経験談や助言などで答えてしまう
・部下の発言を引き出そうとして、一方的に質問してしまう
多くの場合、しゃべりすぎる上司の前に、部下は沈黙してしまいます。
「みんなの意見は聞くけど、上司の結論は決まっている」
「ヘタに的外れなことを言うと、後でめんどくさいことになる」
「上司の思いの強さや、早すぎる思考スピードについていけない」
など、上司の熱意とは裏腹に、部下側の気持ちは立ち上がっていきません。
受け入れ余地のない上司のありようは、部下に考える余地を与えず、いつのまにか部下は考えないことを習慣にしてしまうのです。
もしも上司がミーティングのたびに“のれんに腕押し”のような手ごたえのなさを感じているようなら、よかれと思って押せば押すほど部下は引いてしまい、自分では考えなくなる、という悪循環に陥っている可能性があります。
私自身も、かつて部下を持つ立場にあった時、話の中身に入れ込みすぎて、自分ばかりが熱を上げて話してしまい、場の中で空回りすることがありました。また、みんなで一緒に考えたい気持ちはあるのに、「この企画を成功させたい」という上司としての責任感から前に進めることばかりを考えてしまい、話の流れに乗れない人、思うように発言できない人の意見を引き出す余裕がないこともありました。
その後、7年ぐらい前から今の仕事をするようになり、職場でのオフサイトミーティングをはじめとする対話の場にも数多く立ち会うようになりました。その経験の中で、過去の自分の職場ミーティングを思い出しては、もっとこうしていればよかったと反省や後悔をしたものです。
もっとこうすれば…と思うことの一つとして、特に私が「部下が発言しない状態」に悩むマネジャーにおすすめしたいと思ったのが、ホワイトボードなどで発言内容を可視化する「板書」の活用です。
では、なぜ「板書」が部下の意見を引き出すために有効なのでしょうか。
「誰が言ったか」や「意見のよしあし」に左右されず
内容に集中するための「板書」
私たちが支援先の職場で、メンバーが忌憚なく意見を出し合うためのオフサイトミーティングを行なう際には、主にサブコーディネーターが対話の流れにそって、みんなの発言内容をホワイトボードなどにどんどん書き止めていきます。(オンラインで実施する場合は、マインドマップソフトやWeb版パワーポイントなどを使用します)。
板書は議事録ではないので、基本的には発言内容だけを取り上げていき、「誰が言ったか」は書きません。
板書をする理由には、いくつかあります。
たとえば参加メンバーには、いろんなタイプの人がいます。話をするのが得意な人もいれば、じっくり考えるのが好きな人もいます。耳で聞いて話しながら考える人、文字で見たほうが考えやすい人もいます。思考のスピードも人によってまちまちです。そこに板書があることで、メンバーがそれぞれ自分のペースで考えたり、自分のタイミングで発言したりすることが可能になるのです。
もう一つ、前にふれた「しゃべりすぎる上司」が同席し、それが部下の圧になって意見を言いにくくしている場合にも「板書」は有効です。上司にとっても部下にとっても、“人から切り離した発言内容”を先入観なく客観的に眺めることができるからです。
評価者でもある上司がメンバーに意見を求める場面では、不用意な発言をすれば「認識不足、情報不足だ」「そんな意見しかないのか」「問題にするのはそこか」…といった上司の“答え合わせ”が始まるのが気になって、発言は言葉少なく慎重になりがちです。部下の側には、「誰が言ったか」が問題になって評価されることへの恐れや抵抗があるのです。
しかし、メンバーの発言がホワイトボードに書き出され、その内容を全員が等距離で客観的に見ることができれば、部下は上司の視線をあまり気にせずに考えることに集中し、自分の意見を出しやすくなります。
一方、上司にとってのメリットは、板書をすることで自分のしゃべりたくなる欲求や発言が自然に抑えられるという点です。そのぶん、自然とメンバーの話に耳を傾けるようになり、みんなの発言が出やすい場とはどんな状態なのか、リラックスした場の雰囲気やモードが体感でわかるようになっていきます。
「板書」を介して部下の意見を引き出し、一緒に考えるマネジメントに
このような効果を意識しつつ、私自身が「板書」をする上で心がけていることは、
①どの席からも見やすいように大きめの字で書く
…参加者全員からよく見えることを大切にしています
➁今、何について話されているか、発言内容の関連性(対比、同類など)がわかるように書く
…発言者自身もポイントが曖昧だったりするので、場のみんなに問いかけながら書いていくと対話が深まります
③コンテンツだけではなく、気持ちや思いなど目に見えない部分が表れている発言を大切に扱う
…気持ちや感情を書き出すことによって、場に共感が広がります。
こうした考え方にもとづいて現場のマネジャーが「板書」を活用してみた結果、「自分がしゃべるのではなく、メンバーの意見を聞けるようになった」「メンバーの意見にすぐに反応するのではなく、書くことによって一呼吸おいて、話し手の背景や意図を聞けるようになった」などの声が聞かれるようになりました。
(ただし「板書」を使って話の流れを誘導し、自分の言いたいことを押しつけようとした人は失敗していますが)。
そして私も、どこかで再び上司の立場になることがあるとしたら、その時は、「板書」を使って話し合いをしながら部下の発言を引き出し、一緒に考えるスタイルをマネジメントに取り入れたいと思っています。そうすれば、当時は見えなかった部下の良さを、もっともっと引き出せそうな気がするのです。