先日、川口商工会議所で中小企業の経営者に向けて、「人が成長しエンゲージメントが高まる会社づくり」というテーマで講演しました。
日本は中小企業が全体の99.7%、従業員数も約7割を占めています。地域社会や経済の発展に欠かせない、日本全体を元気にできる可能性のある存在ですが、人手不足や高齢化など、人に関する課題を多く抱えています。川口市の企業経営者もまた、人の採用、育成、定着といった共通の課題に対し、 試行錯誤をしながら解決の糸口を模索していました。

そこで今回は、川口市の企業のみなさまとの議論も参考にしながら、多くの中小企業が悩む、採用・育成・定着について課題解決のカギとなるものは何かについて考えてみたいと思います。

1.採用は、相互理解を深めながらお互いを選ぶ“お見合い”プロセス
2.育成は、相互成長につながる“学びと気づき”の環境づくり
3.定着は、自分の貢献が実感できる“役割”と“相談できる仲間”がいること

採用は、相互理解を深めながらお互いを選ぶ“お見合い”プロセス

課題:会社の認知度が低い、地味で辛い仕事だから若い人が応募してこない

若い世代は情報の探し方や収集が上手です。
仕事や働き方に対する考え方や価値観が多様化する中では、あえて入口は、彼らの感覚で会社や仕事がイメージできるように、相手に合わせた見せ方や伝え方に変えておくと、相手に届く可能性が高まります。

例えば、会社や製品が社会にどう役立っているのか、どんな社会や未来をつくりたいと思っているのかといった メッセージが響きやすいようです。相手に見つけ出してもらうことで、採用の入り口に立ってもらい、次はお互いが大切にしている考え方や価値観などの相互理解を深め、最終的には、お互いが共に働きたいと思えたら お見合いプロセスは成功です。

育成は、相互成長につながる“学びと気づき”の環境づくり

課題:従業員の年齢構成に偏りがあり、考え方や価値観が異なり育て方がわからない

この点については、技術資格を使って相互成長の環境をつくっている製造業の事例を紹介したいと思います。そこでは、資格取得の勉強やトレーニングは勤務時間内にできるよう会社全体でバックアップをし、社員が取得をめざしている資格や取得した資格を開示されました。
これにより、社員どうしが自由に先輩や仲間と学び合い、取得者に質問をするなど相互成長につなげています。資格手当制度を充実させたことで、成長意欲が湧き、 結果的に高い技術者が集まる会社づくりにつながっているようです。自分の可能性や成長が実感でき、共に学び応援してくれる仲間がいる。 会社が制度や環境づくりなどのバックアップをすることで、相互成長が促進される組織を上手につくっています。

定着は、自分の貢献が実感できる“役割”と“相談できる仲間”がいること

課題:想像していた職場や仕事とは違う、自分と合わないと思ったら辞めてしまう

入社してまもない社員は、自分の居場所を見つけるのに苦労しています。
居心地が悪いと、辞めてしまうので、できるだけ早く、本人の強みや得意なことで、自分が役立っていると思える役割やステージを周りが見つけてあげること。最初描いていた職場や仕事のイメージと多少異なっても、自分はここで必要とされている、役立っているという実感があると 離職率は下がります。また、仲間と雑談や相談できる場づくりなど、ストレスを溜めない環境やしくみをつくります。ある程度仲間との関係ができて仕事に慣れたら、在宅勤務やフレックス勤務など、 本人のライフスタイルに合わせた選択ができると、 会社に対するエンゲージメントも高まり、定着につながります。

最後に、講演で参加者から「辞めてもらいたい社員がいる場合は、どうしたらいいのか。」という質問が出ました。
どうして辞めてもらいたいのですか?と尋ねると、「朝、黙ってタイムカードを押し、むすっとした態度で一言も話さず、仕事もせず定時に帰ってしまう。ベテラン社員なので注意ができない状態が長く続き、職場の雰囲気も悪くなってしまった。」と答えてくれました。
しかし、そんな態度をとり続けるのは、本人なりの理由があるのでしょう。本人の課題だからと切り離すこともできますが、周りに悪影響を及ぼす場合は 無視できません。ご本人に話を聴いたことがありますか?と尋ねると、「たとえ聴いたとしても態度はきっと変わらないよ」と、あきらめているようでした。

中小企業は、人が入れ替わらず同じ職場で働くことが多いので、レッテルを貼りがちです。
この課題は簡単に答えが出るものではありませんが、その方もきっと以前は仕事や仲間に貢献しようと思った時期はあったのだと思います。
今回紹介した3つのポイント全てに共通して必要なことは“対話”をすること。新人だけでなく、今いる社員全員にとって対話をするということが 1丁目1番地なのです。