社内で話し合いをする際は、“個々の関心や聞き方には偏りがある”という事実認識のもとに相互理解をはかり、みんなで共通の前提に立って考えるための工夫をすることがおすすめです。
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現状認識や問題意識の視野は「自分の関心」が中心
心理学の用語に「選択的知覚(selective perception)」という言葉があります。多くの情報の中で「その人にとって重要な情報、好ましい情報が選択されて知覚される」ことを指します。
たとえば「会社は売上が一番大事」と信じている人の場合、売上に関する情報ばかりに目が行き、逆に「会社は人が一番大事」と信じている人は、人に関する情報ばかりに目が行く、という潜在的な傾向があります。
こうした選択的知覚には良い面があり、「自分にとって重要」という優先順位があるおかげで、
- 数多くの情報の中から関心事を効率よく取捨選択できます。
- ことさら重視しない情報を遮断することで集中力を保つことができます。
その一方で、現実には、自分が重要だと思っていても他の人にとっては不要だったり、自分が不要だと思っていた情報が他の人や組織にとっては重要だったり、ということが起こります。前の例でいえば、社長が「売上第一」と言っている会社では、売上に関する情報は多く集まりますが、それ以外の情報はあまり表立って扱われない、というように「全体にとって重要」な情報に死角が生じるのです。
問題関心の強さで、他の問題が見えなくなることも
私たちが風土改革のご相談に応じる時にも、この点には注意するようにしています。「会社の風土が悪い」「組織間の連携が取れていない」「コミュニケーションが少ない」から「これを何とかしたい」という相談者の関心は身近な問題現象に基づくものであり、その解決方法に向いていることがよくあるからです。
企業人にとって“いかにして解決するか”が関心事なのは当然ですが、それと同時に「なぜそこが問題なのか、そこを問題視するのはなぜか」といった理由に目を向けることも大切です。しかし、そこにはあまり関心が払われず、問題の“全体像”を意識しながら話をする人は多くない気がしています。
問題意識というのは、それぞれが直面する事実・実態、現実の場面から生まれてくるだけに確かであり強烈です。しかし見方を変えれば、自分の見えている範囲だけに関心の焦点が絞られ、他の問題を見えなくしている可能性があります。そこで私たちが質問によって視点を変えてみたり、いろいろな人に話を聞いたりしていくと、別の面からも問題が見えてくる、問題はもっと違うところにある、といったケースは少なくないのです。
たとえば「経営の姿勢に問題がある」と指摘する人に、「マネジャー層はどうですか?」「中堅・若手層にも問題はないですか?」と質問をすると、急に歯切れが悪くなることがあります。話を聞いていくと、経営層の言動に対してはアンテナが立っているので問題がよく見えているが、それ以外の階層については情報がなくて実態をあまり知らなかった、ということがわかったりします。
選択的知覚による関心の偏りが制約になって、主観だけでは見えない部分が生じているということです。
では、このような“選択的知覚の壁”をどうやって超えていけばいいのでしょうか。後編では、視野を広げて現状や問題を捉え直すためのアプローチについてご紹介します。
(後編につづく)