いい職場をつくりましょう!

「いい職場をつくりましょう!」
これは、私が管理職研修を実施するときに必ず掲げているコンセプトです。
異動がつきものの公務職場においては、毎年メンバーが入れ替わります。自身が異動することもあれば、上司やメンバーが入れ替わることもあるでしょう。それゆえ、経験年数分だけ職場を経験していることになり、これらをふり返ってみると、「いい職場だった」と印象深く思える場合もあれば、さほど印象が残らず淡々と過ごして終わる場合、さらには「こんな職場二度と嫌だ」と思えるような場合とがあるからです。

そこで、「どんな職場なら、いい職場でしょうか?」と質問して、その要素を書き出してもらい、分類すると、

・朝夕のあいさつ
・ちょっとした声がけ
・ねぎらいの言葉
・困ったときに相談できる
・何でも話せる
・協力し合える
・笑顔と「ありがとう」がある(特に上司から)
・仕事の節目に飲み会ができる
・緊張した中でも冗談が言える
・間違いをきちんと指摘し合える などなど

ほぼ100%に近い確率で、“相互の関わり方”に関する項目が最多となるのです。

それは、今流行の言葉で言えば「心理的安全性のある職場」と言い換えられるのかもしれません。しかし、相互の関わりは、「関わりをよくしましょう」と目的化して取り組んでも進められるものではありません。

何のために、どんな職場をめざしているのか

「安全」であることはもちろん大切な基礎的要件で、満たされないと不満を生じる衛生要因となるものですが、「いい職場」はそこからエネルギーが湧き出てくる動機付け要因となるものと言えます。
それには、自分たちの組織が何のために存在するのかという組織使命や、ともに何をめざしているのかをしっかり共有しておくことが大切です。

しかし、役所では、このベースが共有されないまま組織運営されていることがよくあります。それは、すべての住民に対してあらゆる政策を遂行する必要性があることから、職員にはまず所管する職務が割り当てられ、組織はそれらを束ねる単位として設計されているところがあるからではないでしょうか。それゆえ、組織の使命やビジョンは、都度確認をして共有する必要があるのです。

特に、近年住民への公的サービスは、行政だけではなく多様な主体で担っていますので、施策や事業のビジョンや目標を共有するだけでは不十分で、自分たちの職場・組織が果たす使命は、パートナーとの関係を考慮して再定義し直す必要があります。
また、職場内で異なる事業や業務を担っている場合には、その違いを超えてお互いに関わり合う必要性やメリットをとらえることは、個々の職員には困難なところがあるはずです。
それを職場全体で対話して、みんなでめざす職場のありたい姿を思い描いていくことには上司のリーダーシップが求められます。

この前提条件の有無が、同じような関係性のよい職場でも、慣れ合いの生ぬるい職場と和気あいあいとしながらもメリハリのある職場の違いを生み出していくことになるでしょう。

お互いの成長を励まし合えているか

次に、これら組織使命とビジョンも、自分たちにその機能、役割を果たし得るだけの実力がなければ執行しきれません。
それには、お互いが今どんな状態にあり、どんなことに困っていて、どんな能力を高めていく必要があるのかについても概要を知り合っておくことが、いざという時に相談や協力がし合える関係を築いていく第二の前提条件となってきます。

特に、コロナ禍以降のマスク習慣では、お互いの表情を読み取りにくくなっていますから、この関係づくりには、以前よりも時間と手間をかける創意工夫が必要となっているでしょう。上司と部下で1on1など適宜面談を行なうことはもちろんのこと、職員どうしが自身の人となりや強み弱み、困っていることを安心して自己開示できる機会を創っていくことは、上司のスポンサーシップによるところが大きくあります。

そんな使命やめざすものを共有し、相互に果たす役割を理解し、必要な能力の向上に向けて取り組めている、そんな一連の組織運営状態が、トータルでつながりのよい「いい職場」を築いていくことになるわけです。

部署や階層を越えた連携によるチームづくり

ただし、昨今では地域の課題は複雑化、高度化しており、単独の部署だけでは仕事が済まなくなっています。それに伴い、この「いい職場」の範囲も、関連部署や関係機関、事業者などを含めた範囲に広がってきています。

こうした環境では、日頃の職場内とは異なり、接する頻度が限られていたり、また、お互いの専門領域や職種も異なると、仕事の状況や、業務の特性などへの理解もすぐにはしにくいところがあるかもしれません。メンバーが、それぞれの担当する専門性を発揮しつつ、一つのチームとして機能するためには、間をつなぐ役割を担う人の存在や場づくりのスキルを持つ人が必要になって来るのではないでしょうか。

地域においては、行政職員がそのコーディネート機能を持つことが多くあると思います。ただ、役所の中であれば、部署と部署の間でお互いの関係を築いたり、深めたりする役割を、誰がどのように担っているでしょうか。

また、新しい首長が就任した直後であれば、首長と職員との間に当然ギャップがあります。早期に相互理解を図っていくために、どんな機会を設けているでしょうか。
さらに新しい計画の策定やDXなどの部門を横断した取組では、管理部門と事業部門、事業部門間をつなぐためには、管理部門の職員がコーディネート機能を果たすことが求められているとも言えます。

人と人の間に溝ができたり、ズレができると、チームとしての力が生み出しにくくなるだけではなく、それぞれが孤軍奮闘しつつ、誰かに相談できず悩みを抱えてメンタル不調に陥る人が出て来たり、問題の発見や対処が遅れてサービスに支障を来たす危険性も増していきます。
互いの関わりを持つことは、面倒な側面もありますが、一人ひとりが少しずつ機会を持つようにすれば、職場全体を少しずつよい方向に進めることができるはずです。「あきらめない」こともその大切な規範の一つと言えそうです。

「いい職場」から「いい役所」へ、そして、「いい地域」へと、チームとしての関係づくりを進めていくために、NPO法人自治体改善マネジメント研究会では、「チーム経営研究会」を毎年2自治体ずつ実施しています。
9月1日には、2023年度に取り組まれた富山県滑川市と三重県伊勢市との成果発表会を「自治体改善ステップアップセミナー」として開催しますので、ぜひご参考ください。

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みなさまの自治体で「いいチームだった」と言える経営の取組が増えて来ることを応援しています。