挑戦が当たり前の創造的な仕事ができる環境へと変わるのを待っていると、技術・専門職は、意味や価値のシフトが進むこれからの事業の変化に取り残されてしまう。時代の変化や外の世界に目を向けて“閉じた”自分の仕事や役割を見直し、主体的に視野や能力を拡張する機会が必要ではないかと、この1、2年のエンジニアの状況を見て思うようになりました。自ら外側に踏み出し、異質にふれる体験をする個人が増えていけば、時間を要する組織風土や文化の変化にとっても誘い水になるはずです。

2016年に異業種・異職種のエンジニアの交流・学びの場として立ち上げたエンジニアLink。
自由に話し考えるため“ゆるさと安心”にこだわってきました。有志メンバーにも
意見をもらいながら行なってきた対話イベントや交流会には、これまで延べ数で
300社以上から830余名のエンジニアが参加しています。
さらに最近では、同じ分野・領域にとどまらない視野を求めて、事業開発に携わる
スタッフの参加者も増えてきました。
(以前と比べて、若手メンバーが外の場に出てくる機会が減っているのが気になります)。

「作業者化」が進み、エネルギーが低下している今日の現場

「もっと自分の仕事を面白くしよう」と活動してきたエンジニアLinkも9年目に入り、最近のエンジニアを見ていて気になる変化があります。

コロナ禍後、製造業はサービス化などの新たな方向へと進化を始め、AIやIoT、自動化などのデジタル技術活用、企業の事業転換や再編、協業・提携などの動きが活発になっています。表向きの構造面や財務面では変わってきたなと感じます。
けれど、その一方で現場のエンジニアはというと、ビジョンに夢見ることもなく、過去の延長線上で仕事をしている人が多く、現状維持バイアスから抜け出せない職場で心身ともに活力を失っているように見えるのです。

この傾向は、エンジニアLinkでオープンにやりとりする参加者の声を聞き、過去の状態と比較しても、さらに深刻になっている気がします。

【エンジニアを取りまく変化と課題】

・技術革新と関連・周辺業界の動き、世界市場のめまぐるしい変化
・デジタル社会を背景にしたデータ活用による価値創出
・DX推進による生産性向上、仕事の進め方の変革
・人手不足によるOJTの機能不全、技術継承の遅れ
・経験の浅い若手エンジニアの孤立、閉塞感

たとえば製品開発プロセスを取り上げてみても、最近ではソフトウェア領域が拡大してきたこともあり、プロジェクトに関わる人員の規模が巨大になっています。場合によっては数百人に及ぶメンバーが関わるものづくり・サービスづくりのプロセス。アウトソースの活用も進み、完成品の全体像が見えないまま仕事を進めることも珍しくありません。

大規模プロジェクトの中では、個人の業務は細分化され、自分の分担をこなせば役割を果たしたことになります。仕事の全体像がつかみにくい視野狭窄の中で、自工程の完成度を上げることが仕事になってしまう。こういう状況では“自分の分担をこなすのが仕事”と心得てしまう「作業者」が生まれがちです。

もともと専門性の高いエンジニアの仕事は、工程、コスト、スケジュールの管理が厳しく、それが競争力につながってきたため、直属の上司からは日常的にミスを避け「言われたこと以外はしなくていい」と言われていたりします。専門外からの管理の目が入りにくく、抜本的な仕事の見直しをするための変化点がつくりづらいのです。

余計なことを考えず目の前のことだけに集中する仕事のしかたは、ひと昔前の会社にとっては望ましいやり方だったのかもしれません。しかし、これからの企業には、価値創造する人のポテンシャル発揮やそれを引き出すウェルビーイング
(人や組織が健全に活性化した状態)が必要になります。計画と指示と管理では新たな挑戦や創造は生まれません。エンジニアにとっても分担した作業をこなすだけの仕事に創造の面白さはなく、モチベーションも上がらないでしょう。

もちろん、エンジニアにも「このままではいけない」という感覚を持つ人はたくさんいます。ただ、市場やバリューチェーン全体で何が起こっているのか見通せないまま“役割の枠”から抜け出せない状態が続いているように見えます。それを自覚したとしても、自分に何ができるのか、何から手をつければいいのか、現状打開のイメージまでは持てないのが実態です。

エンジニアが単なる「作業者」になるのか、それとも「好奇心旺盛な挑戦者」になるのか。事業の前提がグローバル、サステナブルになっていくこれからの時代、この問題は日本企業の新たな価値創造を足踏みさせるだけではなく、それを支える技術の空洞化、人材の流出にも関わるだけに、私たちは今のエンジニアのありように対して危機感を持っています。

変貌する製造業と自分の仕事を多視点で考える場~ “こなすのが仕事”から離れて「創造性と情熱を解き放つ」

問題なのは、職場に降りてくる課題(目標)が多岐にわたって増えており、業務量の増加とあわせてエンジニアの多忙に拍車がかかっていること。周りや全体を見たり、現状から離れて考えたりする余裕がなくなっているのです。

会社が新たな方向に舵を切っても、その方針に沿って現場の認識や仕事のしかたが自動的にアップデートされるわけではありません。「なぜ、会社がそれをめざすのか」という背景を理解し、新領域での仕事に必要な情報収集や試行錯誤の準備をするために、メンバー同士で考えたり話し合ったりする「余白」の時間が必要です。

製造業が次世代産業へと中身を変えていくためには、それに対応するエンジニアにも新しいことに挑戦するためのリスキリングや学習、新たな体験が不可欠です。加えて、これからの事業構想には、持続可能な地球環境や社会のために長期的な
視野に立つミッションが必要です。そこでは新たに、産業活動にとっては矛盾も多い複雑な課題を含めて全体をとらえ直し、今までにない角度からトータルシステムを考えていく視点、組織・会社・業界を超えた横断的なコミュニケーションから仮説や課題を見いだし、トライするといったオープンな仕事のしかたが求められます。

効率重視から創造性の発揮へと、エンジニアの仕事の軸足が変わるのです。

エンジニアLinkの定義するエンジニアは、作業者ではなく“技術を使って世の中をよくする人”です。社会にとって重要な課題や創造的なテーマを生み出す感覚や感度を養うためには、会社に閉じこもっていないで、まず外側に出て視界を開くこと。そして、異質・多様な人たちとの関わりがもたらすエネルギーや刺激にふれる体験、個々のペースで自由に話し、考え合う創造的な場の体験をしてみる。頭で考えるだけではなく、リアルな人の集まりの中で発散される異質なもの、新しいものに肌感覚で馴染んでみることも楽しく効果的ではないかと思っています。

【多様な人とのオープンな交流/自社の職場では出会えないもの】

◆生の情報から業界のビジネスの変化やその背景、全体像がわかる
◆異なる業界のビジネスや仕事の視点、市場アプローチをイメージできる
◆多様なエンジニアが持つ技術以外のソフトスキル、人間力に触れられる
◆先輩エンジニアの発想法や問題解決のアプローチを学べる
◆異なる分野の技術や仕組み、発想に学んで現状の「枠」を外せる

そんな体験の場を、組織の日常にはない「多様な立場・経験を持つ人との関わりを通じて自分の仕事を考える時間」として、もっと多くのエンジニアと共有したいと思い、これからは〈創造性と情熱を解き放つ!〉をコンセプトにした場づくりに力を入れていこうと考えています。