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リーダーに最も必要な資質
ミネタさんはアメリカ国籍にもかかわらず、太平洋戦争中、「日本人に顔が似ている」という理由で、極寒の地にある強制収容所に送られた経験を持つ。その著しい人権無視の経験に基づき、そしてマイノリティにもかかわずアメリカ政府で2つの長官を歴任するほどの人格をもって、すさまじいアメリカ世論を、躊躇せず、しかし決して声高にならずに退けた。「これは、憲法に則っているのです」とも語ったミネタさん。その毅然とした、凛とした態度と眼差しは、まさにリーダーに最も必要な資質なのだと感じさせてくれた。
彼女は、我々のインタビューに、少しだけ考えて言った。
「やっぱり、勘でしょうね」―― 彼女とは、緒方貞子さん。
1991年、女性として世界初の国連難民高等弁務官となり、10年にわたって類い稀なるリーダーシップを発揮、難民支援の歴史を次々と変えた日本人である。先の答えは、「判断の基準として最も大切にしていたのは何ですか?」という質問に対するものだった。
緒方さんが言う”勘”とは、もちろん、思いつきということではない。経験に裏打ちされた決断を意味するのだ。その経験を確かなものにするため、緒方さんは、「現場主義」を徹底して貫いた。
そしてリーダーの判断について問うインタビューでは、次のようにも言い切った。「決めなくてはならないのは私だから。だって、聞く人はいないのです。そのためにいるのですもの、私。トップというのはそのためにいるのです」。
その緒方さんを一言で評する言葉を世界中から集まった部下たちに尋ねると、奇しくも多くの人が同じ回答を寄せた。それは、「思いやりの深さ」という言葉だった。
自らが広い視野に立って決断する
ここ数年、私はNHKスペシャルなどの番組制作を通じ、ミネタさんや緒方さんなど世界的に活躍したリーダーと向き合う機会を数多く得ている。時に、日本の政治家や企業のトップにリーダーシップの欠如が指摘される中、大きな示唆がそこにある、と感じ、視聴者の皆さんに番組をお届けしてきた。
私自身も、番組制作では数多くの出演者やスタッフを率いるリーダー=監督である。では、どこまで自分の中でリーダーの条件を具現化できているのかと問われれば…。熱い思いをストレートに伝え相手の五感に響かせること、特に若いスタッフに対しては精神論や観念的な話に終始しないこと、そして多くの仲間の意見を十分に聞いた上で自らが広い視野に立って決断すること…、そんなことが、大きな番組になればなるほど、さらに一流の人と付き合えば付き合うほど重要だということは確信するようになっている。
しかし、私も今年で53歳、オバマ大統領より1カ月ほど早く生まれているのだが…、まだまだ修業が必要だと実感する毎日である。