足元にある強みを熟成させる

私は、事業を継承した経営者や事業リーダーが先頭に立ち、よりよい会社をめざそうとする企業風土改革の支援を中心に行なっている。その経験からいえば、会社にさらなる活気をもたらすリーダーは、例外なく、足元にある強みを熟成させることに集中し、そこにメンバーの衆知と行動を束ねることができる人である。その結果、同じ事業であっても今までを超える提供価値を実現している。

たとえば、来場者数を劇的に増やした旭山動物園の「行動展示」が生まれた背景には、動物園が今まで積み上げてきた強みと坂東園長の生きざまとの結合がある。長年行なってきたワンポイントガイド(飼育員による生態などの説明)の実績を凝縮した「行動展示」は、野生動物のすばらしさを伝え、環境に配慮する人を増やす、という坂東園長の生きざまが色濃く反映され、同園の強みと掛け算になって花開いている。

逆に変化がなかなか進まないのは、先代や今までのやり方に対するアンチテーゼの立ち位置から離れられないケースである。自分の生きざまや事業におけるこだわりを、先代の実績との掛け算によって発揮することができていない。

強みを徹底して磨きあげる

建材メーカーの株式会社アルミックでは、三代目社長である末武悟氏がさらなる活気を会社にもたらしている。先代が築いた比較的低コストで製品を仕上げることができる自社工場の強み、細かなフォローができる営業力に加え、「業界最速」という価値を加えることで、3倍の生産性を実現したからである。

過去最高益を果たした前期は、過去最高の社員からの改善件数が上がっている。かつての「短納期」という言葉も、工場と営業の間にあった部門の壁も今はない。多くの社員ができないと思っていた納品スピード、以前の「短納期」が当たり前にできる状態になったからである。末武氏は、先代の築いてきた事業基盤を生かしながらお客様の想定の半分の納期にするための仕掛けを多数投げ入れ、社員と共に提供価値を引き上げてきた。強みを徹底して磨きあげたのである。

 

次に目指す姿は、建材メーカーを脱して、お客様の建築工期の短縮に貢献する存在になることだ。

変わるとは、タネが芽を出し、茎を伸ばして葉をつけ、やがてタネの姿からは想像もできなかった花が咲くような一連の成長である。今ある“タネ”から“花”という「なかったもの」を生み出すプロセスともいえる。前にふれたアルミックでは、先達の築いた「建材をつくり、売る」というタネを、後継者が先頭に立って「建築業界の繁忙期にも他社ができない納期で対応する」ことで伸ばしていき、「建築物件そのものの工程を短縮できる」存在になることを開花の姿として掲げ、そこに近づく変革を進めている。

 

足元にすでに「あるもの」には、今まで培ってきた強みが凝縮されている。その強みが凝縮されている商品やサービスというタネを、それぞれの生きざまやこだわりを原動力として伸ばしていくこと、そして、今まで以上の価値に成長させていくことが「あるもの」から「ないもの」を生み出すことである。

このような、人や商品・サービスが成長によって変化することで新たな価値を生み出していくプロセスが、お客様と会社、社員と会社の関係を変えるのである。