しかし、この間にすべての業務が止まってしまうわけではありません。事業・業務の変更の多少は、部署によって大きく異なります。また、時々刻々と外部環境が変わっていくときには、業務の内容や目標の詳細も明確に定めきれず、いつになったら予定が確定できる、という目途も立ちません。
“計画行政”と言われる行政仕事において、庁内全体のスケジュールをとりまとめて統括している部署の担当者にとっては、きちんと日程を示したスケジュールを立てることが困難になります。
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“放置”しておくと、発生するデメリット
そんな中、予定が立てられないから、そのまま何も示さずに“放置”しておくと、以下のようなデメリットが発生します。
① 通常の「スケジュール」では、実態が合わなくなってくる。
② 組織の中に無効な「スケジュール」が存在し続けてしまう。職員が「スケジュール」はあっても意味のないものだと、不信感を抱くようになる。
③ 非常事態でスケジュールを停止させるだけでは、その後、どこまで自分で決めてやっていいものかがわからない。
④ 既存のスケジュールを守ったほうがいいのか、守らなくていいのか、区別がつかない。
⑤ スケジュールを守ろうとする人と守らない人が出て、職員間に摩擦が生じる。
⑥ 次の指示が出るまでは、余計なことはやらないほうがいいと思い、やれることでもやらずにすませてしまう。
⑦ 自分たちで考えてやろうとする人も、誰がどこまでやっていいのかがわからないため、意見が分かれたときに調整に苦労し、話し合いに時間がかかる。
⑧ スケジュールが改定されても、また変更が発生するだろうと思うと、なかなかスケジュールどおりにやることに注力しにくい。やがて「スケジュール」というものに対して、職員が話半分で聞いておこうと思うようになり、組織の求心力が欠けていく。
このように非常時が続いている中では、常時と同じように緻密な「スケジュール」を立てようとすること自体に無理があるものです。
通常のスケジュールを作成する努力は、報われないか、むしろマイナスを増大させてしまう危険性がある、ということを心得ておく必要があるでしょう。
非常時の「スケジュール」
では、「スケジュール」は、いらないのでしょうか。
私の答えはNOです。
まずは、常時の「スケジュール」と、非常時の「スケジュール」とでは、求められているものが異なると考えてみてはどうでしょうか。常時のスケジュールは、“意思決定後に実行のプロセスを管理する”ために存在していますが、非常時には、“環境変化に応じた意思決定のプロセスを共有する”ために目的が変わっているのだと考えられます。
非常時には、それぞれが住民の生命と財産を守るため、通常の仕事よりも優先することが加わってきて、即断即決即行する必要が出てきます。それには、トップが自ら決めることがある一方で、現場でそれぞれの仕事の責任者が自ら判断、意思決定し、行動に移していく必要が出てきます。まさに、「現場主義」と「スピードのある対応」が、求められるわけです。
それには、上位者が、現場の責任者に権限を委譲して、現場が自律的に動きやすくなるための環境をつくることが欠かせません。権限委譲された現場では、超多忙のあまり何が起こっているのかについて、上司や他部署に状況をうまく伝えそびれてしまうことがあります。それゆえ、それぞれの現場が自律的に動くときには、周りのどんな環境変化をもとに判断し、いつ何を決定し、どんな行動を起こそうとしているのか、意思決定のプロセスを簡潔に知り合えるようにしておくことが重要です。
環境変化に対応する意思決定のプロセスを知り合う「自律協力型のスケジュール」に変えていく
今回の新型コロナの対応においても、検診、治療の段階では、保健所や病院の対応が急務となりますが、給付金の支給段階では、窓口やコールセンターなどに問合せが集中します。緊急事態宣言が解除される段階になると、経済・観光関連部署に相談や支援の要請が発生してきます。時間経過とともに、環境が変わり、対応を求められる部署が変わってきます。庁内全体で、どの部署が何の影響を受けて、いつ、どんな業務が発生しようとしているのかについて、部署を超えて知り合うことは、互いの動きを理解、先読みして、前向きに協力し合うチームワークを引き出すことにも役立ちます。
常時には、意思決定が明確なため、その後の実行プロセスを管理する「中央統制型のスケジュール」を、非常時には、権限委譲した先の現場の責任者どうしが、環境変化に対応する意思決定のプロセスを知り合う「自律協力型のスケジュール」に変えていくことがお勧めです。
今回の新型コロナウィルス感染拡大防止への対応から、このような「自律協力型のスケジュール」を活用して、俊敏、かつ、柔軟で、主体的に判断、協力できる組織づくりを進められるようになれば、行政組織のチェンジマネジメント力は大きくアップしていけることでしょう。