しかしながら、行政参謀機能を担える人が自治体の中に若干名しかおらず、しかも上位職にあると、その機能を高めるための研修を庁内で設定することはむずかしいものです。
そこで、公益財団法人大阪府市町村振興協会 おおさか市町村職員研修研究センター(マッセOSAKA)では、昨年度府内市町村の副首長・管理部門管理職を主な対象とした「行政経営マネジメント
研修」を実施しました。

要職に就く超多忙の方々ばかりでしたが、5月~10月の半年間で全5回の連続講座に、9自治体から11人の方にご応募いただき、事前事後課題を含め熱心にご参加いただきました。
各回では、経営の段階別にテーマを定め、最初に現場実践経験豊富なゲストスピーカーから情報提供をいただきました。
その後それぞれの自治体の現状と課題について本音を語り合えるオフサイトミーティング方式でディスカッションして、より効果的な経営マネジメントの手法を一緒に考え合いました。

検討したテーマは、以下の5つです。

首長と総合計画との関係

地方自治法の改正によって総合計画基本構想の義務付けはなくなりました。
しかし、ほとんどの自治体で今も総合計画を策定しています。
それでも、地方自治体は二元代表制で運営されているため、マニフェスト等に掲げた首長の意志をすぐに総合計画に反映できるわけではありません。
それゆえ、新しい総合計画を策定するまでの間、いかに地域や行政を運営し、準備していくのか、チェンジマネジメントが課題となります。
※このテーマでは、私元吉由紀子が、情報提供しました。

戦略の意思決定と展開プロセス

政策を立案していくプロセスでは、首長との会合において、その意志を理解しやすくする場づくりとコーディネートが大切です。
また、総合計画を策定するプロセスでは、うまくタイミングを見計らって、場面に応じた対象者と内容を設定し、首長の意志を考え方、姿勢、めざす方向性、施策などに翻訳、咀嚼しながら整合性を図っていく
ことが欠かせません。

また、計画を推進するPDCAサイクルでは、特に施策評価の段階で、市民の意識調査結果も併せつつ、「なぜ」「何を」優先するのかについてしっかり検討していくことが、計画全体の推進力と質の向上を図ることに
つながります。
※このテーマでは、尼崎市政策部長中川照文さんに情報提供いただきました。

部門間の連携と市民との協働

地域で発生する問題は、複雑化・高度化して、単独の部署では解決できなくなっています。
縦割り組織を越え、部署間で連携、協力し合う関係をつくるには、現場をしっかり把握したうえで、住民目線で最適化を図っていくために、組織運営上「いつ」「誰が」「どのように」実施するかの具体的なアクションプランの中で
種々の工夫を施す必要があります。

また、地域では住民や各種のパートナーと協働で果たす仕事が増えています。
相互の役割認識や分担について話し合い、5W1Hの各段階でPDCAサイクルを回していく必要も出てきます。
※このテーマでは、大阪市前東淀川区長金谷一郎さんに情報提供いただきました。

仕事の評価、見直しと人材育成

総合計画の策定後は、首長の経営方針を各部署の経営方針に落とし込むことによって、事業のPDCAサイクルを統括管理しやすくなります。
また、重要事業の推進にあたっては、課長戦略オフサイトミーティングなど部署を横断した対話の場を設けることが、部署間の相互乗り入れを可能とし、庁内協働を促進します。

なお、これらを進める職員を育てるには、人材育成基本方針の中に予め階層別の役割と能力基準を明示しておくことが肝要です。
それによって上司は、事業の改善課題に部下の育成課題を結び付けてとらえやすく、指導しやすくなります。

首長の意志は、こうして総合計画の策定から施策の展開、組織の運営、事業の評価、人材育成につながる一連の行政経営システムの流れにつながればこそ機能できるようになるのです。
※このテーマでは、小山巧南伊勢町長に情報提供いただきました。

首長から見た“行政参謀”への期待

首長からのトップダウンと地域との接点にある職員・職場からのボトムアップ、どちらも重要なアプローチですが、双方をつなぐ役割を果たす“行政参謀”に首長はどんな期待をしているでしょうか。

ここでは、2017年1月に全国最年少市長となられた東修平四條畷市長から直に話を聞く講演会を設定した後、金谷一郎さんをコメンテータに加えて、パネルディスカッションを行ない、その後参加者だけで
全5回の振り返りを行ないました。

▼東修平四條畷市長の講演についてのコラムはこちら
http://gyousei-design.jp/column/2018/11/post-105.php

2019年4月に統一地方選挙が行われました。新しい首長が誕生した自治体では、首長と職員との関係づくりもリセットされています。
ついては、首長の意志を職員がしっかりと理解することと、また、職員の持てる力を引き出して、双方をつなぐ行政参謀の役割がとても重要となってきます。

今回のように“行政参謀”に着目して実施した研修は、おそらく日本初の取組みだったことでしょう。
個々の自治体の経営の仕組み、システムの運営状態は、それぞれ異なります。
同様の方法や手順では進められません。
しかし、今回のような研修が、その他の都道府県市町村職員研修所などでも実施されるようになれば、行政経営の基礎をより早く堅実に整備しやすくなり、経営力の向上に役立つものと思われます。

この度マッセOSAKAのホームページに本研修の報告書が掲載されましたので、ぜひご参考いただければと存じます。
▼マッセOSAKA 平成30年度研究報告書はこちら
http://www.masse.or.jp/kenkyu/kenkyukai/kenkyu_hokoku.html