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前回、個別面談には、目的別に大きく分けると「フレーム型面談」「プロセス型面談」の2種類があると述べ、フレーム型面談のウィークポイントについて取り上げてみました。後編では、対話性を重視した「プロセス型面談」についてご紹介します。
進め方や結果が想定できる安心感がある一方で、場の積み重ねによる関係性の深まり(互いの変化)や埋もれているものを掘り起こしにくいのがフレーム型の面談です。それに対して、プロセス型の個別面談は、面談で何を話すかという内容そのものよりも、お互いの関係性を深め、発展させていくことを主眼にしています。
INDEX
関係の深まりが情報の質を高めていく「プロセス型面談」
関係性の構築というと、単なるコミュニケーション活動と誤解されがちですが、本来の目的は、面談の回数を重ねて互いの関係性を深めることにより、上司と部下との間でやりとりされる情報の質を高めて豊かにしていくことです。
学生時代やプライベートでもそうですが、誰でも苦手な人やよく知らない人には必要以上の情報を出しません。質の高い情報を共有するためには、まず上司と部下との間に安心の基盤となる信頼関係が必要です。少なくとも、部下が構えなしに思ったことを言える関係性があることが、部下の“ありのまま”を引き出すための条件なのです。
ここでいう質的に豊かな情報とは、変化の激しい時代に適応していくための事実・実態に密着したありのままの情報、裏表や偽りのない情報のことです。この情報は一見雑多で整理されていないことが多いのですが、上司が過去の成功体験や組織の常識から導き出したアイデアよりも、はるかに豊かなイノベーションや問題解決のタネとなるものを含んでいます。部下の持つ現場感覚や情報、アイデアを仕事に生かし、協力して成果を上げていくことは、今日のマネジメントの課題でもあるのです。
プロセス型面談の視点とやりとり
では、プロセス型の面談とはどのようなものでしょうか。
ここでは、その特徴的な視点と進め方のポイントを取り上げてみます。
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1.不安感を解く
2.「ありのまま」を引き出す
3.先をイメージし、次につながる流れをつくる
4.相談し合える関係になる
5.新しいものや課題解決のタネをつかまえる
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1.不安感を解く
【視点】
“私の発言としての情報は「私」という乗り物に乗っていたときに本来的な意味を持っていた”。物理学者の湯川秀樹氏がある対談本のなかで、「情報」は「乗り物」に乗って動いており主体とは切り離せない、という旨の話をしています。個別面談の場面でいえば、部下にとって上司の発言は、「上司」という「乗り物」に付随する情報として受け取られます。純粋に情報内容として伝わる以上に “誰が言ったか”という「乗り物」の意味のほうが大きいのです。
【環境づくりのポイント】
それを踏まえて、部下との間でありのままに語られる質の高い情報をやりとりするためには、「上司」「部下」という、それぞれの立場から生じてくる「乗り物」をまず外していく行為が必要です。部下は、相手が上司というだけで圧力を感じて不安を抱きます。この不安をブレイクするためには、上司のほうから“立場を外し”、互いに個人としてやりとりができるような働きかけの工夫が必要なのです。
上司の姿勢としては、言葉にとらわれないで相手をまず受けとめよう、あえて不用意なくらいの隙をもって臨もうというような自然な態度を心がけます。そのためには、自分自身の弱みや欠点を認める、困っていることやここだけの話をしてみるなど、上司のほうからハードルを下げていく働きかけ(ジブンガタリなど)が効果的です。
上司のこうした心の姿勢が部下に伝わり、安心のある関係を築けるようになってはじめて、部下は上司に、構えないで思ったまま感じたままの話をしてみようかなという気持ちになっていきます。
2.「ありのまま」を引き出す
【視点】
面談における対話では、普段の仕事の中で定着している互いの印象をできるだけまっさらにして、気持ちの距離が近づいていくようなやりとりを意識します。上司に先入観や固定観念(貼られたレッテル)があると、それを感じた部下は殻を閉ざしてしまい、見たまま・感じたまま・思うままに語られる「ありのままの情報」が出にくくなります。
大切なのは、部下ではなく一人の人物を知ろうという“無色”の姿勢と関わり方によって、部下のほうが「言っていいこと・悪いこと」の区別をしなくて済むような状態をつくることです。とはいえ、上司がそれを意識しすぎて場が堅苦しいままではお互いに気詰まりなだけ。ざっくばらんに気楽に、不用意な話もできるように、たとえば「一緒に笑い合う間柄になる」などをゴールイメージにしてみます。
【働きかけのポイント】
部下に対して抱いている印象、先入観や固定観念を何か一つでもくつがえすような発見をしよう、という気持ちで面談に臨むようにします。
たとえば、明るいと思っていた部下が実はこんなことにずっと悩んでいた、口数の少ない部下にこんな思いや問題意識があったなど、向き合い方を変えて話をすると意外な一面が顔を出すことがあります。どんな小さなことでも、今までの印象が変わるような一面が現れてくれば関係が変わり始める兆しです。
そういう発見を見逃さないで共感を示したり、問いかけたりする働きかけのなかで上司と部下の距離は縮まっていきます。
3.先をイメージし、次につながる流れをつくる
【視点】
定期的に行なう面談はその場かぎりにせず、“一連の流れ”としてプロセスが発展していくように意識します。
一回一回の具体的な目的設定にとどまらず、この面談をきっかけに、上司と部下とが関係性を深めながら変化し、そのことによって共有する情報の中身を豊かにしていこう、といった「先のイメージ」をしっかり持って進めます。それが次につながる流れをつくることでもあるのです。
【継続のポイント】
上司と部下の関係性構築は計算どおりにはいきません。それなりの時間と手間がかかります。上司は個別面談の場だけでなく、仕事の合間にも部下に声をかける、部下に小さな変化が見られたときには必ず話を聞くようにするなど、次の面談までの日常のやりとりも重要になってきます。
もしも上司が面談の場と普段の業務の場とで態度を変えてしまったら、面談の場で取り組んでいた関係性づくりの流れは途切れてしまうでしょう。その意味で、プロセス型面談の重視する関係性構築は場を超えた取り組みになると言えます。
4.相談し合える関係になる
【視点】
関係性というのは、どちらか一方が強く働きかけることで一足飛びに太く深くなるわけではありません。ハシゴの一段一段を確かめながら登るように、お互いの間で嘘のないやりとりを積み重ねることによって信頼関係は築かれていきます。
「上司」「部下」という乗り物がだんだんと意識されなくなり、お互いがそれぞれの困りごとや問題をタブーなく口にするようになる。そして、お互いが部や仕事を本当はどうしていきたいのかを一緒に考えるようになる。実は、そのような相談し合える関係がマネジメントの自信にもなるのです。
【関わり方のポイント】
こういう話を聞くことがよくあります。
部下が仕事について気になっていること、どうしようかと悩んでいること、今ひとつ自信が持てなくて踏み出せないでいること…などを何となくこぼしたときに、「何に困ってるの?」と聞いてくれて「確かにたいへんだな」と上司が受けとめてくれる。しかし、上司のほうにも解が見つからなくて、自分なりに一個人としてできそうなことを考え、一緒に解決しようとしてくれる。
それに対して部下のほうも、上司という立場につきものの葛藤、経営からの要請や部の将来についての悩みなどを聞くと、「一人で頑張らないで僕らに言ってくださいよ」「もっと振ってくれても大丈夫ですよ」と、近寄って行って受けとめる。
どちらも弱気な発言をする相手のことを「頼りない」「物足りない」とは言いません。むしろ「そういう相手は頼りになる」と口を揃えます。相談し合える関係は、両者が互いの問題に対して自分なりの立場で紐解き、何とかできないかと持ち出しで考える、解決に向けての共同作用が自然に生まれる状態です。
5.新しいものや課題解決のタネをつかまえる
【視点】
関係性が積み上がっていくと、やりとりされる情報は協働、創発の触発へと、さらに発展していきます。そこで取り交わされるリアルで生々しい「ここだけの話」や「ありのままの情報」は、本当の問題解決や新しいものを生み出す可能性を秘めています。そんな人と関係性が豊かに成長していく開放的なプロセスを中身に持つことができれば、ささやかな個別面談の機会も、予期しない発見やアイデアや展開を生み出し続ける「打出の小槌」になるのです。
【意識するポイント】
やりとりしている「ありのままの情報」のなかに何か引っかかるものが出てきたら、流さないで問い返し、一緒に整理してみます。上司が引き取ってなんとかするのではなく、上司と部下とが共に考え、共に育てていくことが大切です。
たとえば、「もう会社を辞めたいんです」というようなネガティブな情報から、積年の問題解決の糸口が見つかるかもしれません。「こんなことを考えてるんですけど」という突拍子もないアイデアが、イノベーションのタネになっていくかもしれません。正解のない問題を上司と部下が一緒に考え、それを実行に移してみるプロセスを共にすることが、両者はもちろん、組織としての成長を押し上げるきっかけにもなるのです。
「どんなふうに面談を進めればいいのか、正直よくわからない」と悩んでいるなら、プロセス型面談を試してみるチャンスかもしれません。上司だけが考え抜いてリードする場ではなく、部下と一緒につくっていく対話型の場の効果を、もっと多くの方に実感していただきたいなと思っています。