「テレワークにはメリットがある。通勤の労力の減少や、作業に集中できることは良いことだ。
その一方、個々がバラバラに仕事をする習慣が長く続いていることで、職場のみんなが大きな目的を共有したり、互いにサポートし合うようなチームワークの基盤は、少しずつ衰えてきているのかもしれない。
当面の日常業務は問題ないのだが、そこが心配だ」。
このような不安を抱えている方は、少なくないのかもしれません。
この間の様子見(経験)を経て、今年はいよいよテレワークを前提とした働き方や仕事の環境づくりに着手したいタイミングです。
異動や新卒入社などで、新しいチームメンバーを迎え入れることが多いこの時期に、これからの「チームワークと組織のあり方」を再考してみたいと思います。
INDEX
企業によって違う「チームワーク」のレベル差はどこからくるのか?
冒頭の話にあったような「チームワークの基盤の衰え」は、本当に起きているのでしょうか。
私たちは、つい「テレワーク環境だとチームワークの低下は避けられない」と決めてかかりがちですが、実際には、企業によって大きな差があります。
テレワーク下でも、充実したチームワークを発揮する組織をもつ企業もあるのです。
たとえば、「100人100通りの人事制度」でも有名なサイボウズでは、約1年前に全社員フルリモート体制に移行した後も、それまでと変わらないチームワークで仕事をしています。
出社という条件がなくなっても、チームワークは変わらず機能する。この状態は、何から生まれてくるのでしょうか。
チームワークのカギを握る、組織の「コミュニティ力」
私は、チームワークの環境要因として、人の集まりである組織の「コミュニティ」のあり方が大きく影響していると考えています。
機能的に設計された組織も、それ自体が意思を持ち、連携して動くわけではありません。
組織に必要なチームワークは、人々の関わりや相互作用を生み出すコミュニティの力によって促進されます。
ここでいう「コミュニティ力」とは、次のような環境です。
・共に生き、共に働く運命共同体という感覚がある
・互いを深く理解し合っている信頼関係がある
・心理的安全性が高い
・個々の違いが尊重される
このようなコミュニティがしっかりと醸成されている組織では、オンライン空間での働き方に変わっても、それがコミュニケーションやコラボレーションの阻害要因にはなりません。
たとえば、親友との会話であれば、モニターごしであろうと、いつでも気がねなく率直なコミュニケーションができる、そんなイメージです。
組織の一員には、「職場コミュニティへのジョイン」が重要
4月は、企業が多くの新人を迎え入れる時期です。新メンバーが職場チームの一員になる「ジョイン」には、じつは、大きく2つの側面があります。
一つは、「業務へのジョイン」。これは、会社や自部署の概要を理解する、業務内容を理解し習得するなど、業務がこなせるようになることが主眼です。
もう一つは、「コミュニティへのジョイン」。こちらは、職場コミュニティの一員としてチームになることが主眼です。
そこでは、他のメンバーとの間に信頼関係をつくる、互いのことを理解し合うなど、「人と人が深くかかわるプロセス」を用意して、一緒に動いていくチームワークの基盤をつくります。
今のようなテレワーク下では、「業務へのジョイン」は比較的容易に行なうことができますが、人との関わりをつくる「職場コミュニティへのジョイン」は難しくなっています。
入社時から在宅勤務の新人などは、配属先の同期や職場のメンバーと一度も顔を合わせることなく業務を開始することになり、不安や孤立に悩むという事態も生じています。
これまで、親睦会などのリアルなコミュニケーションに頼ってきた組織では、メンバーが“職場コミュニティにジョインする”ことの意味や必要性を明確には意識していませんでした。
その結果として起こるコミュニティの自然崩壊の問題が、このコロナ下で顕在化しているように思います。
ゆらぐ職場コミュニティとジョブ型雇用へのシフト
その一方では、デジタル化の加速を背景に、ジョブ型雇用が注目を集めています。
ジョブ型人材の採用は、〈職務/タスク〉にフォーカスし、随時必要な専門スキルを持つ最適人材を労働市場から調達するもので、働き方のスタイルは機能集団的です。
たしかに職務と能力が明確であれば組織設計やマネジメントはしやすいのですが、半面で、チームとしての連携や協働を促進するコミュニティの特性は生かされにくいのがジョブ型です。
また、このコロナ下ではテレワークに移行する企業が増え、これまでコミュニティを形成してきたリアルな場がなくなっています。
ジョブ型雇用が広がりを見せ、物理的なコミュニティの場が失われる中で、これからの職場は「コミュニティ力」を必要としなくなるのでしょうか。
私は、どんな時代でも人と人が協働するためには、コミュニティの力が不可欠であると考えています。
とくに、これからの時代は、環境変化に対応していくために組織の創造性がより重要になります。
創造力は、人と人が目的においてつながり、信頼関係のもとにダイナミックに協働するところから生まれてきます。
その意味でも、組織の「コミュニティ力」を衰退させてはならないと思うのです。
日本企業の〈ムラ社会的〉な共同体の文化を変える
もともと日本企業は、メンバーシップ型雇用と言われるように、コミュニティの要素を大切にしてきました。
ここで注意したいのは、従来の職場コミュニティは〈ムラ社会的〉な性格が色濃かった点です。
ムラ社会的コミュニティは、同質的で同調圧力が強い、閉鎖的、序列意識が強い、などの特徴をもっています。
このような共同体では、これからの時代に必要な挑戦と創造を可能にするチームワークを望むことは難しいでしょう。
つまり、コミュニティの要素はこれからも依然として重要であるものの、コミュニティの性格は、よりオープンでフラット、多様性を尊重する文化へと進化させていく必要があります。
(私は、この進化した組織モデルをメンバーシップ2.0型と呼んでいます)。
理解と信頼の関係構築を「コミュニティ」の基礎に
冒頭でもふれたように、テレワークの環境下でも、「コミュニティ力」の高い組織づくりを実現している企業には共通点があります。
それは、会社が一人ひとりの違いを認めて、型にはめようとしていないこと。その結果として、メンバーの間に「互いの人となりを理解し合って、信頼関係が構築できている」ということです。
こういう会社では、業務スキル以前の“人間として”のレベルで、人と人が深く関わるプロセスを大切にしています。
しかし、これからは、テレワーク下の今までとは違う条件のもとで、人とふれあう方法を探り、意識的に相互理解と信頼関係の醸成に取り組まなければなりません。
たとえば、コロナ以前から、私たちがオフサイトミーティングで行なってきた「ジブンガタリ」や「モヤモヤガタリ」なども、その一つです。
この1年は、ずっとオンラインで行なってきましたが、語り合いのプロセスがもたらす効果は、リアルの場で行なう場合と、それほど変わりません。
対話は暗闇でも行なうくらいですから、モニターごしであっても、それほど制約にはならないのでしょう。
互いの人となりを聴き合い、思いを分かち合う語り合いは、人と人が本音でふれあう機会であり、職場の「コミュニティ力」を高める有効な方法だと感じています。
この新年度、新しいメンバーを迎えた職場でチームづくりに取り組む際に活用してみてはいかがでしょうか。