新入社員が3年以内に辞めていくという問題

ようやく経済回復の明るい兆しが見え始め、企業の間にも、積み残された課題を乗り越えて、未来に向かおうという機運が満ちている。
変化に敏感なアンテナを持ち、自分の頭でしっかり考えて行動する人材になってほしい、という昨年の入社式で目についた社長訓示をみても、環境変化の激しいこの時代に、企業が未来を託す人材として、21世紀育ちの新入社員にかける期待は大きい。春の「採用」という会社の入口には、経営の未来への展望があふれている。

その一方で、新入社員が3年以内に辞めていくという問題も絶えない。
新人の定着化は人事の大きな課題になっている。
しかし、表には見えにくいが、もうひとつ深刻な問題がある。組織内にとどまっている「潜在離職者」の存在である。

スコラ・コンサルトは長年、風土改革支援というかたちで多くの組織を内側から見てきた。
どの組織も、お手伝いを始める前は「職場のメンバーとほとんど話をしない」「困っても身近に相談相手がいない」「上司は自分の枠でしか話を聞いてくれない」「この仕事を何のためにやっているのか考える余裕がない」「一人ひとりが目の前の仕事をさばくのに手一杯」といった状態である。
なかにはメンタルに支障をきたす人もいる。
こんな冷えきった環境のなかで、それぞれが孤立したカプセルに閉じこもり、「自分ひとりが何を言っても会社が変わるわけではない」と、あきらめて働いている人が少なくないのだ。

転職も容易ではないから仕方なくそのまま働いている。
好きでとどまっているわけではないから、会社の動静にも関心がない。「なにを言ってもムダ」とわかっているから「おかしい」と思うことがあっても口にすることはない。
そもそも良くなってほしいと思うほど会社に愛着があるわけではない。
そんな冷めた気持ちで会社と距離を置いている人たちは、数字には表われてこない「潜在離職者」である。

「定着不全」の実態

じつは新入社員に限らず、既存の社員のほうにも「定着不全」の実態はある。
晴れて会社に入り、オリエンテーションや研修を経て職場に配属される新人を待っているのは、そういう「低体温の組織」という現実なのである。

その職場にも、かつては面倒見のいい上司や先輩たちがいて、厳しくも温かく新人を一人前に育てていこうという環境があった。
しかし今は、時間的にも気持ちの余裕という意味でもそれを望みにくいのが実情だ。
個々がバラバラの職場で、はじめて会社の「寒いほうの現実」に直面する新人たちは、かつての先輩たちと同じように「会社ってこんなものなのか」と戸惑い、ひとりで悶々とする。
この、新人が初期に直面するギャップ、つまり、人としっかり関わり成長を見守る余裕がなくなっている職場の状態、を放置したままでは定着問題は解決しない。潜在離職者も離職者もなくならないだろう。

せっかく外の気温が上がって、春の風が吹くようになっても、組織の内部が冷えきっている状態では、ポテンシャルも目覚めないし、開花もしない。会社が一丸となって全力疾走など望むべくもない。

「原因系」の解決アプローチ

私たちが行なう風土改革は、問題の発生源のほうに手を打つ「原因系」の解決アプローチであり、表面上はバラバラに現れてくる問題も、水面下では同じ根から出た問題として見ている。
その観点から、今の新入社員・既存社員の定着問題を考えるとしたら、必要なのは、新人と職場の人たちが、お互いをありのままに知り合うことで互いの現実を理解し、どうしたら自分たちの仕事、職場を良くしていけるかを一緒に考えることができる「仲間としての安心と信頼をつくる」ことだろう。

これは、さまざまなかたちで表面化してくる問題の奥底に共通して欠落しているピースであり、同時に、組織を「血の通った身体」にしていくためのベースになるプロセスでもある。

企業のさまざまな断面の問題から入っていく風土改革だが、枝分かれしている問題の根元を束ねて解決する、という意味でのアプローチは、そう複雑ではないと思っている。