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「場の中の上下関係」を、どうフラットにするか
オフサイトミーティングの基本精神は、参加者一人ひとりが対等であり、かつ違いを持った人間である、という前提です。
しかし、組織でオフサイトミーティングをやろうとすると、日本人の特性として「上の人の顔色をうかがいながら話をする」傾向が強く表れてしまい、一人ひとりが思ったことを自由に言い合う状態にするのは容易ではありません。当たり前になっている“組織内の上下関係”が「気楽に話す」ための障害になるのです。
それを踏まえて、特にオフサイトミーティングを参加者が初めて体験する時は、上下関係のないメンバー同士を選ぶことを基本にしています。
同じ役職の人たちを集めるとか、部門が違うメンバーを集めるなどの組み合わせを考えるのです。
とはいえ、オフサイトミーティングも回数を重ねると、どうしても上司・部下で話したほうがいい場面が出てきます。そういう時にはどうするのか。私たちは「ランク」という見方に基づくテクニックで、上下意識を外すようにしています。
このテクニックを理解するために、まず「ランク」という概念をご紹介しましょう。
上下関係をつくっている「ランク」という意識
「ランク(Rank)」というのは、プロセス指向心理学の中にある概念です。お互いの関係の中にある上下意識のことを指し、人間関係に大きな影響を与える要素の一つと言われています。組織でいえば、立場や能力など何らかの要素をとらえて「あの人は私より上だ」と感じる心理的格差のもとになります。
このランクには、ランクが下の人が感じやすく、上の人は感じにくい(あえてわかりやすく上と下という表現を使っています)という特徴があります。
たとえば、ランクの低さを感じている部下は、自分よりもランクが高いと感じている上司の言動によって、痛みや不満を感じたりするのですが、上司のほうでは何とも思っていない、といったことがよく起こります。
「足を踏まれている人は痛みを感じていて、踏んでいる人は足を踏んでいることすら感じていない」という状態です。
最近よく聞く言葉ですが、あえて上位であることを誇示するマウンティングなどは“意図的なランク付け”の行為と言えるでしょう。
このようなランクによる格差は、さまざまな問題を引き起こします。
いきなりパワハラで訴えられたり、離職者が増えたりすることがこれにあたります。(国家や会社のクーデターなどもランクに起因していることが多いでしょう)。
組織の話し合いの場においても、この「ランク」が強く働いていると、無言であったり、「本音を言わない」建前ばかりの話になります。これを何とかしなければ「気楽にまじめな話をする」ことはできず、オフサイトミーティング本来の効用も生まれません。
ランクの種類は3つ
この状況を打破するためポイントは、人と人との間に自然に生じるランクの正体を知ることにあります。ランクには3つの種類があります。
一つ目は、集団が共有している「社会的ランク」です。社会通念上、組織の上下関係や序列のもとになる役職や年齢などがそれにあたります。
部長よりも社長のほうが、30歳よりも50歳のほうがランクは上、というのが暗黙の常識です。
2つ目は、個人に属する「心理的ランク」。これは個々が主観的に感じるもので「あいつは俺より優秀だから勝てない」とか「あの人は気持ちが強いので、私は負ける」などと自分で勝手に設けているものです。
3つ目のランクは、状況ごとに発生する「文脈的ランク」です。
たとえば、研修の場では講師が上で生徒が下という文脈があり、基本的に生徒は講師の言うことに従います。仮に生徒がやっているセミナーに講師だった人が参加すれば、上下は逆転します。このように、ランクの上下は状況によっても変わるのです。
話し合いの場という状況の中で、そこにあるランクをなくしていくには、この文脈的ランクを注視して扱うことがカギになります。
ランクを操作してフラット感を醸成する
私たちが企業の方々と話をする時、相手の立場や年齢によって話し方や態度を使い分けることはしません。等しく同じような話し方をします。
このことによって、下の人は「社長と対等な感じで話している高木さんが、自分とも同じように話している」と感じ、社長と自分の間にある心理的格差が少し縮まるのです。
対等意識を持つことが必ずしも必要というわけではありませんが、少なくとも互いが自分の思っていることを対等に話し合う「対話」をするためには、固定化された上下関係の意識を薄めることが大切な要素になります。
では実際に、コーディネートする場の中にランクが生じている場合はどうすればいいでしょうか。
そもそもコーディネーターは、話し合いの場の進行役という立場だけで、その場での文脈的ランクが高くなります。そのランクの高さを活用して、フラットに話し合えるように場をコントロールすることができるのです。
もしもランクの低さを感じて発言に控えぎみの人を見つけたら、コーディネーターが「文脈的ランク」を上げるような言葉をかけて発言しやすくします。
たとえば現場の一般社員に、「日々お客さんと接している現場目線でいうと、何が正しいと思いますか?」と問いかけた瞬間、場の状況は一変します。仮にその場に社長がいたとしても、顧客との接触頻度や経験という文脈上では現場社員のほうが上になるので、役職によって生じていた上下ランクが逆転するのです。
あるいは、「若い人の意見がこのケースでは大事なので、若い人としてはどう思いますか?」「ベテランは当たり前になっていることが多いので、新しいメンバーの新鮮な目で見ると何が問題だと思いますか?」といった問いかけもランクを変化させるスイッチになります。
このように話の流れを切り替えることにより、固定していた上下関係が変わって、ランクが上になったり下になったりする状況が起きます。
ランクを焦点にしたコーディネートの積み重ねによって、フラット感をもった話し合いに近づいていくのです。
私は、完全にフラットな関係であることは困難だと思っていますが、状況によって上下関係が変わる経験を繰り返すことで、結果としてフラットに近い関係が醸成されていくのだと思っています。
ただ、こうしたテクニックを使わなくても「人となりに関心を持つ」ことや「周りの人に教えを請う」意識、「違いを大切にする」意識を持ってさえいれば、自然と対等な個人同士の対話は実現できます。
多様性を生かしていきたいこの時代において、人々の間に格差をつくり出さない「ものの見方」や「あり方」は、組織のメンバーが上下関係や立場を超えて協力していくための重要なリテラシーです。私たちはオフサイトミーティングの場や対話を通じて、この精神を社会に広げていきたいものだと思っています。
▼〈オフサイトミーティングのタネ明かし〉その①
心理的安全性を高めるために「心理的危険」を減らす
▼〈オフサイトミーティングのタネ明かし〉その②
知らず知らずのうちに「聞くモード」をつくる