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読者カードに込められた思い
私が公務員の方と地域を越えて集まる組織外のオフサイトミーティングの場「公務員の組織風土改革世話人交流会」を開催するようになったのは2000年のことでした。きっかけは、弊社の創業者である柴田昌治が1998年に上梓した『なぜ会社は変われないのか』に大変多くの読者カードをいただいたことにありました。
当時はメールもない状況で、紙面には手書きで感想が書かれており、「初めて読者カードを書きました」とのコメントも多く、自組織と照らし合わせながら読まれた感想には、こちらの胸も熱くなるようなメッセージがさまざまに綴られていたのです。
なんとか会社をよくしたいと思う有志たちが集まる場
ちょうど山一證券が経営破綻したショッキングな出来事の直後で、大企業神話が崩れ去る時代の大転換期にあったからでしょう。「自分たちはこんなに一生懸命働いているのに、どうして会社はよくなっていないんだ!?」という怒りの言葉の内には「なんとか会社をよくしたい!」との熱意が潜んでおり、もんもんとしたやりきれない危機感を抱えている様子がひしひしと感じ取れました。
そこで、山積みになったはがきのお礼に開催したのが日本経済新聞出版社主催の「読者の集い」と弊社主催の「著者との対話会」でした。いずれもオフサイトミーティングの方式でリアルに読者どうしも語り合えるように運営しました。
すると参加者の間に共感の輪が広がり、「このような場があればぜひまた参加したい」との声があがりました。そこから組織を越えて組織風土改革にチャレンジしようと思う有志たちが集うオフサイトミーティングを「世話人交流会」と称して開催し始めたのです。九州、関西、東海、関東、北海道などで開催し、弊社のプロセスデザイナーが各地方に出向いて、核となるメンバーたちと一緒に場を運営していました。名称も地方ごとにアレンジされ、東海地区では「世話人中日本会」、九州地区では「ネットワークQ」と名付けられました。また、神戸出身の私は、阪神淡路大震災の被災経験から、公務員向けに別途「公務員の組織風土改革世話人交流会」を立ち上げて、場を運営・支援しました。
社員発で組織を変革する風を起こす
この模様はNHKスペシャル「あなたも会社を変えられる」の取材を受け、番組は、スタジオにオフサイトミーティングを模した設営をして6つの企業・団体の有志たちが集まり、語り合いながら組織内での取組事例を紹介する流れで進められました。事例には、企業だけでなく自治体から三重県が取り上げられ、三重県生活部の職員もスタジオに呼ばれていました。
当時は社会の価値観が大きく転換する環境にありました。しかし、大きな組織は「大企業病」と言われるようにすぐには変化しきれない体質を抱えており、有志たちが社員発で組織を変革しようとしていたことに時代の特徴がありました。
それゆえ、組織を越えて有志が集まる「世話人交流会」では、互いに組織変革に向けた悩みを吐露し、励まし合い、お互いの苦労談から少しでもノウハウを学び合おうとしていたのです。
トップ発で組織変革を起こす時代へ
その後、企業のトップたちも経営の危機を脱するために、組織として改革に乗り出すところが増えてきました。ただし、危機に瀕した企業では、ソフト(風土体質)の改革よりもハードの改革が優先される状況がある一方で、ISOやコーチング、ファシリテーションなどソフト面での改革アプローチも幅広く社内で取り入れられるようになり、取組は有志の自発性によるものから組織内でフォーマルに展開されるように変わってきたのです。
その結果、わざわざ組織外で有志が集まる場の必要性が次第に薄れ、多くの世話人交流会は自然と消えていきました。
公務員の場の特異性
一方、公務員の組織には、民間企業とは異なる点が多くありました。
第一に、同じ2000年当時であっても、組織変革の目的は、組織自体の存続危機ではなく、地方分権改革の流れを受けた自立経営のためだったということがあります。また、地方自治体は民間企業とは異なり、同じ事業構造を持つ組織体であるため、組織を越えて情報共有し、横並びで参考にしやすいことが多くあります。さらに、ハードの改革が先行し、ソフトの改革は、2016年に全自治体に人事評価制度が義務付けられたり、近年のワークライフバランス、働き方改革が広がってようやく可能になってきた段階にあり、民間企業と比べると20年ほどの時差がありました。そのため、組織を越えた場は細く長く続いており、今なお必要性が高まっている状況にあります。
また、1995年阪神淡路大震災、2004年新潟県中越大震災、2011年東北大震災後と、震災が重なるたび、官民のネットワークや地域を越えた連携によって助け合うことの重要性が認知されてきました。それとともに地域内または地域を越えて官民が集う交流や学びの場として、オフサイトミーティングを立ち上げる動きが全国に広がりました。近年では、地方創生の必要性から、地域内外、多業態・多職種でオープンイノベーションを起こす目的でワークショップを開催する動きも隆盛しています。
組織内と組織外のオフサイトミーティングを掛け合わせる
このように、時代環境の変化とともに経営課題、改革の手法が変化することにより、オフサイトミーティングの場も進化してきています。それでも、仕事や組織を変えていく力は、いつの時代も人の内発的なエネルギーにあるものです。組織変革には、組織の内と外をうまくつなげてシンクロさせ、シナジー効果を発揮していくことが必要です。特に変化が加速してSociety5.0、DXが進む時代には、外の力を素早く取り入れる柔軟なレセプター機能が組織に求められますので、組織内でのオフサイトミ―ティングの活用はより重要度を増してくることになるでしょう。
ガバナンス1月号に寄稿した「公務員のオフサイトミーティング場づくり実践セミナー」は、かつて年に2度開催していた「公務員の組織風土改革世話人交流会」がコロナ禍で中断されたのを契機として、WEBで毎月開催し、実践力をしっかり高められるセミナーに発展させたものです。
4月以降の新年度からは、「公務員のオフサイトミーティング活用セミナー」として本格稼働する予定ですので、みなさまのご参加をお待ちしています。