Aさんは企画部長。会社を良くしたいという思いは人一倍強い。経験にもとづく意見に説得力はあるし、学習意欲も高く行動力もある。そのぶん、正しいことを言い過ぎて相手をやっつけたりすることもしばしばあって、周りにとってはちょっと煙たい人物だ。本人もそんな自分の欠点をわかっていて何とか直していきたいと思っており、「どんなときでも気がついたらすぐに指摘してほしい」と部下たちに頼んでいるくらいである。
ある日、Aさんの企画部で、関連部署のBさんにも声をかけて、一緒に仕事をするメンバー同士がもっとお互いの人となりをよく知ろうと、部内オフサイトミーティングを行なった。
そのときのことである。
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重苦しい空気になった自己紹介
初参加のBさんは自己紹介を始めたが、自分を知らせるというよりも自説をとうとうと述べるといった内容で、話も長くてわかりにくかった。メンバーがいろいろと質問をするものの、結局何を言いたいのか肝心のところが伝わってこない。
いつもはメモを取りながら、心がけて人の話を聞くようにしているAさんも、出だしの頃こそ熱心に耳を傾けていたが、しだいに表情が険しくなってイライラし始め、最後には手にしていたペンをあからさまに放り出して不快感をあらわにするようになった。それが周囲にも伝わって、その場は重苦しい空気に包まれた。
さすがに終了後の懇親会では、そんなAさんの態度をたしなめる意見が集中した。
「Bさんは何を言いたかったんだ?自分を主語にして話していないし、場の雰囲気も読めない。あれでは話し合う意味がないだろう」というのがAさんの言い分である。
確かにBさんは、自分を語らず評論家のような態度を崩さなかった。
しかし、Bさんにしてみれば、初参加で心を許せるメンバーがいるわけでもなく、その場でどこまでオープンに自分を語っていいのかわからない、という戸惑いもあっただろう。
Bさんの立場に立って意見するメンバーの話を聞きながら、Aさんは心の中で「またやってしまった…」とほぞをかんだ。
なかなか自分を変えることのできないジレンマ
人は「自分のこういうところを変えたい」と思っていても、現実にはなかなか変えることのできないジレンマを抱えている。そんなとき、その弱さを受け入れつつ耳の痛い指摘をしてくれる周囲の人間関係があると、少しずつでも自分を見つめ直すことができ、変わっていけるようになる。周りのメンバーは、その手助けをして、Aさんには見えていないAさんを見えるようにしてくれていた。
自分と向き合うためには、自分一人では見えない部分、“周囲との関係性から見えている自分を知るプロセス”を意識してつくっていることが大きな手助けになる。
メンバーにとって、煙たい存在ながらも自分の欠点を何とか克服したいと努力しているAさんは、ちょっと愛すべき上司である。これからも「またやってしまった」があるかもしれないが、時間がかかってもきっと変わっていくだろうと、みんなで見守っている。