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不況をチャンスに変える
「不況をチャンスに変える」とは、たとえば、市場の変化を捉えて新たなビジネスモデルを創造する、というようなことなのでしょう。しかし、新しいビジネスモデルも成功が必ずしも約束されるわけではありません。
つねに不安定で不確定なものであることを前提にしておかなければならないのが、これからの時代です。誰にとっても確たるものがなく、先の見えない、まさに五里霧中の状況といえるでしょう。
そんな視界のきかない状況の中で、頼りになるのは何かというと、それは優れたひと握りの頭脳ではなく、現場のメンバー一人ひとりのアンテナをいかに鋭敏にして、知恵を引き出し、チームとしての創意工夫や試行錯誤に生かしていくか、ということです。このような主体的なチーム力を、私たちは「組織の対応力」と呼んでいます。そして、不況をチャンスに変えていくためには、組織がこの対応力を身につけていくことが不可欠だと考えているのです。
「深く考え抜く」プロセス
先日、ある商社の部門間ミーティングで――。
自分の扱う商品は、この不況下でどうにも売れない状況にある。こんなご時勢だから売れなくて当たり前、景気の回復を待つしかない、という空気が漂っていました。
ここからが「深く考え抜く」プロセスです。
「本当に、その商品は不況下で売れないのか?」「なぜ売れないのか?」と自分たちに問いかける。誰も答えが見いだせず、沈黙が続きながらも地頭でじっくりと思考をめぐらす……。
別の部門のメンバーが言った。「確かにこのままでは売れないかもしれない。でもこういう例があるよね」
自然素材を取り入れたりすると、いきなり売れ出す商品がある。「エコな○○」とか「安心素材による○○」など。従来の用途・機能だけではもう勝負にならないが、プラスαの機能、今ならエコロジーといった価値を付加することで循環型の商品になり、新たな市場をつくることができるかもしれない。目先の単価アップ策ではない付加価値を創造できれば、価格競争にも巻き込まれず利益確保にもつながる。
ふとした意見から、彼らは打開の糸口を見つけ、チャンスにつなげようとしています。こういった思考を変えた議論を積み重ねることが、同じように弱りきっているライバル企業との競争から一歩抜きん出る突破口にもなっていきます。そして、そこから生まれるたくさんの試行錯誤の中から、将来に向かって開ける道も見つかるのだと思います。
それ自体は斬新なアイデアではないかもしれませんが、大事なのは、現場が自分たちの実感ベースで考えてチャンスを創造する、という点です。組織の対応力は、このようにして現状を打開することのできる主体的なチームの存在によって鍛えられていくのです。
そのために私たちが大事にしているのが、日々の仕事の中で「なぜ」「何のために」を考え抜くこと。その意味や目的にもとづく仮説をつくっては、チームで実行・検証して可能性を探る、といった主体的なトライ&エラーの機会をつくることなのです。
一人ひとりがじっくり考える
実は多くの組織の現場は、この不況を乗り切るために、将来のことなど考える余地すらなく目の前の仕事をこなしている状態にあったりします。考える余裕がなければ、自分の扱う商品が売れないことに何ら疑問も持たず、「なぜ売れないのか」「何のためにあるのか」を問い返すこともありません。昨日の続きのままで現状に流されて、下降線をたどっていく、これが今の現場の状況ではないかと思います。
「考えている場合ではない、無駄な時間は使うな」というのが、この不況下の乗り切り方であるとするならば、それは明らかに、先の道を断つ崖っぷちめがけて突っ走っていることと同じです。
むしろ、今のような先の見えない時にこそ、一人ひとりがじっくり考えて、自分たちの力で道をつくって霧の中を進んでいく対応力を身につけていくべきではないでしょうか。