「働く喜びを感じる」というのは、それほど特別で難しいことなのでしょうか。実はそんなことはないのです。
もちろん、企業ですから業績をあげることは大前提です。そこに働く人々がいくら働く喜びを感じていたとしても、業績が振るわなかったら企業として存続することはできません。大切なことは「働く喜びが企業の業績に結びつく」ということなのです。

企業の寿命は一説によると三十年とも言われています。単に一生懸命にがんばって利益を上げているだけでは、いかに繁栄を極めているようにみえても、時間とともにいつの間にか衰退を始めていくのが企業です。
しかし現実には、それをはるかに超えて生き続けている企業もあります。企業も“生き物”と言われてはいますが、人とは違って本当の意味での寿命があるわけではありません。「寿命が決まっていない」ということは、もしも企業が絶えざる革新を続けていくことができれば繁栄を続けていける、ということです。

「繁栄を続けていく企業」と「衰退を始めていく企業」の分かれ目とは

では、「繁栄を続けていく企業」と「衰退を始めていく企業」の分かれ目とは何でしょうか。
それは、常にどんな問題点であってもその問題点を隠すのではなく浮き彫りにしていく、さらには浮き彫りになった問題点を解決するために誰かが必ず動き出し、周りの協力を引き出しながら結果を出していくのが当たり前の企業文化を持っているかどうか、ということです。
「繁栄を続けていく企業」になるためには、まず「問題というのはあるのが当たり前」という価値観を共有していく必要があります。そうした価値観を前提に、問題をいかにすれば常に見える状況に置いて解決し続けていくことができるのか、を考え続けていく必要があるのです。
これが企業を進化させ存続させていく条件です。

「問題をなくしたい」という気持ちと「問題はあってはならない」の本質的違い

これに対して、退化がいつの間にか進行している企業では「問題はあってはならない」という不文律が組織を支配しています。何とか良い会社にしようと思うのですから、問題をなくしたいと思うのは当然です。ただ、「問題をなくしたい」という気持ちと「問題はあってはならない」というのとでは、本質的に違いがあります。
「問題はあってはならない」というのは、精神論的な心構えです。自分に向かって言っているときはそう問題にはならないのですが、他人に対して強制力でこれを徹底し始めると、とたんに問題を隠したり、見て見ぬふりをしたり、などということが横行し始めるのです。事実を隠して表沙汰にはしないようになりますから、とりあえずの平穏は保たれます。しかし、その裏では腐敗が進行していくのです。
つまり、「問題をなくしたい」という、ある意味ではごく自然な気持ちの発露が精神論となって他の人を強制し始めると「企業の退化が始まる」ということなのです。

企業を進化させていく価値観

その一方で、組織を進化させていく価値観というのは、「問題を発見し解決していく」という事実にもとづいて考える姿勢を必要とします。そして、こうした事実にもとづいて問題を解決していこうという姿勢は、人の考える力を強め、成長を促進していく姿勢でもあるのです。
つまり、組織を進化させる価値観を定着させるためには、人の「対話能力」や「考える力」が不可欠だ、ということでもあります。
企業が存続するためには顧客のニーズに応え続けていくことが必要です。顧客のニーズに応えるためには、顧客に対応する一人ひとりの考える力が不可欠でもあります。指示された中身を型どおりに実行するだけでは、顧客の多様な要求に応えることなどできないのは、誰が考えてもすぐにわかることです。そこでは、お互いの信頼関係を醸成しながら腹を割った対話を続けていくことが必要です。仲間と一緒に問題にぶつかっているという感覚が人々の考える力を積み上げていくからです。

こうした企業改革にかかわるということは、考える力、ひいては生きていく力を身につけていくことを意味し、自分自身の成長を促進させるものでもあり、働く喜びを取り戻すことにつながるのです。
私たちのいう企業変革とは、まさに、こうした「企業を進化させていく価値観」を企業に定着させていく試みであるとともに、働く人びとに働く喜びを取り戻す試みなのです。『なぜ社員はやる気をなくしているのか』と題した今回の本は、こうした私たちの考え方の全体的な見取り図を描いたものです。

『なぜ社員はやる気をなくしているのか』