それぞれの役割に基づいた信頼関係

プロセスには、二つの側面があると考えられます。一つは、政策を立案、意思決定するためのプロセス。もう一つは、政策を実行、実現していくためのプロセスです。今回民主党が、新しい国家の経営を担うにあたり、最初にクローズアップしたのが前者のプロセスでした。各大臣が記者会見にあたり、官僚が用意した文章ではなく「自分の言葉で語る」ことや、閣議の前に事前調整されていた「事務次官会議」とその後の「事務次官による記者会見」を廃止することから始まり、「行政刷新会議」で補正予算を見直し、「国家戦略室(局)」が税財政の骨格や経済運営の基本方針を策定するなどの項目があがっています。そこには、政治家がこれまで長く続いていた「官僚依存」体質を脱し、本来果たすべき「政治主導」によって意思決定の責任を担おうとする姿勢がうかがえます。
しかし、「政」と「官」の関係は、さも対立するかのごとき状態にあったのでは、政策を実行に移すことはできません。過去にとらわれない意思決定をする際には、過去の政策を企画・執行した組織自体が抵抗勢力となり得ることもありますが、一旦新しい政策が決定された後は、その政策を実現するプロセスで頼りになるのは、新と旧の両方に精通している専門家です。そして、新旧を転換する現場で起こる様々な混乱を最小限にとどめ、より円滑かつ迅速に移行していくための創意工夫を生み出し得るのは、第一線の実務家です。官の持つ「継続性」と「中立性」は、そのために備えられているものと言えるのかもしれません。

「政」と「官」は、役割を分担しながらも、それぞれの役割に基づいた信頼関係を築くことが重要で、新しい政権においてもこれらの総力を最大限に発揮していけるようにしていくことが、政策を実現するうえで欠かせません。行政機関においては、国でも地方自治体でも、ある日突然選挙で「トップ」が交代するという特徴がありますが、それだけに、国家を経営する大臣や自治体を経営する首長には、もう一つの顔である「行政組織の長」としていかに職員の持てるやる気と能力を引き出していくのかという組織マネジメントにおける手腕も問われることになるのではないかと思われます。

「組織」を動かすのは、やはり「人」

「経営」が大きく方向転換し、「組織」を動かそうとするときに、それを実現するのはやはり「人」です。新しい方向に向けて思いを共有できる人、変化への対応力を持つ人材を組織の中に発掘し、ネットワークしていち早く動きを起こしていくことが、組織が変わる近道になると私たちは考えています。中央省庁だけでなく、地方自治体においてもそのような人材が、やる気をもってチャレンジできる機会があること、失敗を恐れずチャレンジできる環境が用意されることを期待しています。