マイナスに働く環境変化ならば、変化の芽を見つけて、知恵と組織力で本業の見直し・刷新に挑戦する。
プラスの変化ならば、ロスすることなくビジネスチャンスを生かし、他社にない価値によって飛躍することを可能にする。
そんな企業の変化対応力を高めるものだからです。
Iot、AI・ロボット、シェアリングエコノミー、東京五輪開催、働き方改革、脱化石燃料自動車…と、直近で新たな現実として加わったものを眺めながら、震災直後の頃を思い出してみると、この5年間で世の中がどれほど大きく変わったかがよくわかります。
今まで実体のなかったものが現れて新たなビジネスの前提条件になる。
その影響がどのような形で何に波及していくのか、既定の事実になるまでは変化の方向がつかめないのが今の時代です。
だからといって、コトが確定してから対応を始めたのでは間に合いません。
起きてしまったコトに対処するよりも、常に「本業と組織」が柔軟に変わり続ける準備をしておくことが大切なのです。
ある業界を取り上げて、「5年前に手を打っておいてよかった」と思われる企業の取組み事例を見てみましょう。
INDEX
「ツーリズム業界」も「東京五輪」もなかった4年前から快進撃を続けるパークホテル東京
リーマンショックそして東日本大震災の影響で低迷状態に陥りながらも、2014年からの「爆買いブーム」に始まる外国人観光客の増加によって活況に沸くツーリズム業界。
東京五輪開催に向けて、インバウンド市場はさらに膨らんでいく勢いです。
去る9月21日、私たちがお手伝いしてきたパークホテル東京が「第3回ジャパン・ツーリズム・アワード(国内・訪日領域)」で優秀賞を受賞されました。
同ホテルの「アーティスト・イン・ホテル プロジェクト」が、
1.日本の魅力を増加させている
2.海外からの旅行者にとってユニークな体験の場になっている
3.アーティストの作品でホテルの客室をアート空間にするという他に見られない先進的な取組みがあることが評価されての受賞です。
2013年以降、パークホテル東京は快進撃を続けています。
デザインホテルズ加盟のデザインホテルとして開業以来10年を経過した同ホテルは、2012年から、「デザイン」という特性を部門横断メンバーで刷新していく戦略的な取り組み、「アートプロジェクト」に着手しました。
そして、〈日本の美意識が体感できる時空間〉という新たな変革コンセプトでバージョンアップをはかり、独自のポジションを築いたのです。
そのシンボルになったのが「アーティストルーム」。
アーティストルーム誕生
国内の若手作家が客室の壁に「日本の美意識」を演出するモチーフで絵を描き、空間をデザインし客室をアート空間にする。
それによって客室の商品価値を上げたのです。
親会社である老舗の芝パークホテルに比べて知名度の低かったパークホテル東京を一躍有名にしたのが、このアーティストルームの試みでした。
5年前といえば、ホテルはネット販売へとシフトしていく時期にあたり、部屋の広さ・立地・内外装のグレードといった基本条件で価格を比較して選ぶ購買スタイルが主流になっていきます。
ホテル業界は、他社との値合わせでどんどん単価がダウンしていく消耗戦になっていました。
パークホテル東京も、一時はこの価格競争に巻き込まれて業績が悪化していましたが、そのさなかに経営トップが「価格は下げない」という決断をし、現場のリーダーたちにイノベーションを託したのです。
その結果、変革コンセプトのもとに生まれたユニークな「アーティストルーム」は、旅に関する口コミサイトを通じて話題になっていきました。
そして、価格よりも“文化体験”を求めて世界中から目的来店されるマグネットになったのです。
宿泊することが思い出になるホテル。
これが超競争の突破口となり、同ホテルはインバウンド需要をめぐる業界の価格競争とは決別して順調に収益を伸ばしてきました。
震災直後の2012年と比較して、客室単価は25%増、売上は40%増、5割だった訪日外国人客の比率は8割以上に伸びています。
こうした業績効果にとどまらず、アートプロジェクトは、人の定着といった内部効果にもつながっています。
もともと転職によるキャリアアップが常識の業界でありながら、同ホテルの現在の「離職率」は業界平均の半分以下に。
噂を聞きつけて、有能な人材が転職してくるようにもなりました。
部門を超えて立場や肩書に関係なく、現場発で“新しいホテルづくり”に挑戦するプロジェクトは、仕事や働き方に対する社員の意識を大きく変えました。
宿泊、料飲、マーケティング、広報などの各部門が既存の役割に埋没せず、立場・役割を越えて、自分たちの手で自分たちのホテルを刷新し、お客様の新たな感動をつくる仕事の面白さ。
その実感と、それができる職場をメンバーが“あらためて選んで”働き続けるようになったのです。
予算にも人手にも余裕がなく、商品戦略も未経験の彼らがいかにして今日の成果にたどり着いたのか。
次回は、そのポイントになる進め方についてふれてみます。
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