「変革」そのものに対するパラダイムの転換

私たちが監訳したこの本は、変革を維持するうえで壁となる課題とその対処の仕方についての実践的な方法論を中心に書かれていますが、それ以上に重要なポイントは、「組織の何を変えていくのか」といった「変革」そのものに対するパラダイムの転換です。
ここでいう変革とは、人と人との関係性や価値観・志といった目に見えにくい部分の変化と、プロセスや戦略、手法、システムといった目に見えやすい部分の変化を統合した組織変革であり、「根本からの変化」といわれるものです。

単発で一過性の変化や、目に見えやすい部分の表層的な変化は比較的簡単に生み出すことができますが、組織が「変わり続ける力」を持つためには、組織のハード面とソフト面の変化を「統合」した変革が必要になってきます。著者の一人であるピーター・センゲの言葉を借りれば、「組織のハードとソフトがコインの表と裏のように不可分一体となって変わっていくこと」が必要なのです。

センゲたちが唱えるこのような考え方は、私たちスコラ・コンサルトが長年日本で実践してきた変革支援の根底にある考え方と実によく似ています。もともと「学習する組織」の考え方自体が、日本の組織の強さを探求するなかで芽生えたものですから、それも当然ではあるのですが。

変革がうまくいかない背景

今の日本では、「しくみさえつくれば自然と意識や風土も変わってくる」といったハード偏重の考え方が依然として根強い一方で、「話し合いの場が多くできれば、いろいろな変化も出てくるだろう」といった安易なソフト変革の考え方が多いことも事実です。その結果として、変革に着手してはみたものの実際にはうまくいかず、最終的に私たちにご相談にこられるケースが最近多くなっているように思います。

組織に、根本からの変化を維持し続けるDNAを持たせようとするのであれば、「組織のハードあるいはソフトさえ変えればよい」といった「変革」に関する考え方自体を、まず変えなくてはならない――。センゲたちはこう主張します。
今まさに変革に取り組んで苦労されている方々にとって、この本は活動が必ずぶつかる壁を乗り越えるための示唆を与えてくれるのではないでしょうか。