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一見、相矛盾するような規範が求められている
昨今の経営を取り巻く激しい環境変化の中では、言われたことをきちんとやるだけの人材では役に立たないという見解が大方である。不確実性が増し、迅速性を求められる状況下では、個人の力を最大限に発揮させるようなマネジメントの変革が強く求められている。
その一方で、コンプライアンスや個人情報保護、安全やリスク管理など、企業にとっては厳しい新たな価値基準が求められ、「決められたことをきちんと守ること」も一層重要になっている。そのためには、より厳格な管理や細かいチェックなども必要だ。
このことは、「決められたことをきちんと守りつつも、自律的に行動してスピードと成果を出す」という一見、相矛盾するような規範を組織に要求することになってしまった。
果たしてそんなことが本当に可能なのだろうか?
限りなく事故をゼロに近づけていくことは可能
現実には、安全のために厳格な管理をしていると言いながら“事故ゼロ”というあるべき論の下で、問題が隠れてしまっている例は少なくない。表面上は“無い”ことになっている問題は、いつか大きなトラブルを引き起こす火種になる。しかし、たとえば現場の当事者が危機管理の目的を真に理解し、仮にヒヤッとするようなミスがあったとしても、周りの人たちと一緒に知恵を絞りながら失敗を次に生かしていけるような環境がつくられていれば、限りなく事故をゼロに近づけていくことは可能だろう。
つまり、ルールが守られるためには、個が確立していることが前提であり、一方で、個の確立を促すような環境も必要なのである。その意味では、厳しくルールが守られていくことと自律的であることは、根底ではつながっていると考えることができる。
個々が分散的に動いても全体最適になるために
前述のシンポジウムに際して、社内のメンバーと「自律性」について議論した結果、自律的であるとは「全体最適的な動きを分散的に行なっていること」と定義してみた。個々が分散的に動いても全体最適になるためには、いくつかの条件が必要になってくる。
まず、判断基準(軸)が明確であること。2つ目に全体観が持てる情報が共有されること。そして、3つ目に協力し合える関係が築けるようなコミュニケーションが活発に行なわれていること、である。
これらのことは、我々がお手伝いしている組織風土・体質変革のプロセスの中で常に意識していることである。すなわち、風土を良くしていくこととは、自律的な個人を組織の中で育てることに他ならないのだと私は確信している。